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自慢の友達
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2023年1月1日
ホテルの自室に戻った未来は、シャワーを浴びてガウンを身に纏うと、濡れた髪をタオルで乾かしながらベッドに腰掛けた。
そしてスマホを手に取ると何通ものLINE通知と着信に目を通し始めた。
そして陽太からのLINEを開くと、未来は思わずぷっと吹き出した。
“琉空がお前と連絡取れなくて泣きわめいてる。琉空だけには返事してやって”
琉空が泣きわめく?自分とたかが数日連絡取れないくらいで?
有り得ないだろと思いながらも、もし本当に琉空が泣きわめいてるのなら、それはちょっと見てみたいなと未来は瞳を細めて薄らと笑みを浮かべた。
たかが数日。されど数日。
こんなにも誰とも連絡を取らないのは初めてで、未来はさぞ皆に心配かけているだろうなと、少しばかり申し訳なく思いながらベッドにぽすりと背中を預けた。
2013年5月5日
合同レッスン日。
フリータイムの今、未来は陽太のダンスを見ていた。
「違うよ。この後はこう」
「え、あ、そっか。こう?」
指摘を入れて指導をする未来に、陽太は慌てた表情で言われた通りの動きをしてみる。
「そうそう。でももうちょっと手を真っ直ぐ伸ばした方が綺麗かな」
「手を真っ直ぐ…、解った。はぁ~っ、でも難しいなぁ、ダンスって。全然未來みたいに綺麗に踊れる気がしないよ…」
そう言って肩を落とす陽太に、未来はほんわかとした気持ちにさせられる。
「あはは。そんな簡単には無理だよ。僕だって今みたいになるのに4年はかかってるんだから」
「え、4年もっ?そうなんだ。未來で4年かかるなら、俺だったら10年くらいかかりそう…」
顔を引き攣らせ言う陽太に、未来ははははと自然に笑い声が出た。
「そんなネガティブな。大丈夫だよ、陽太センスあるから」
「嘘?本当??」
「うん、本当本当」
実の所、リズム感のあまりない陽太のダンスセンスは微妙だなと未来は思うが、しかしまだまだ始めたばかり。
上手い下手よりまずはダンスを楽しめなければならない時だと未来は思う。
「でも、未來は凄いな」
徐にそう言って自分に感心の眼差しを向けてくる陽太に、未来は小首を傾げる。
「え?何が?」
「だってダンスも上手いし、歌も演技も上手いし、それにすっごく可愛いし。芸能人になるべくして生まれてきてるよね、絶対」
「あははは、ありがと」
本当に、なんて可愛い事をさらりと言ってくれる子なんだと、そしてその愛らしさを少しは琉空にも別けてやって欲しいなと未来は思いながら言葉を続けた。
「でも僕ね、生まれた時は3年持たないって言われてたらしいんだ」
「え?」
「心臓の動きが鈍かったみたいで、結構やばかったんだって。でも意外と大丈夫で今は全くの健康体なんだけど」
にこりと笑ってそう言う未来に、陽太はほっと胸を撫で下ろした。
「そ、そうなんだ。びっくりした~。今もどっか悪いのかと思った」
「ははは、全然大丈夫。でもだから僕芸能界に入ったんだ。親が僕の生きた証を残す為に、出来るだけ沢山の人に僕が生きた事を知ってもらう為にって。だから生まれた時に死ぬって言われてなかったらきっと芸能界には入ってなかったと思うよ」
「へ~、そうなんだ」
そんな経緯があったんだ。
というかこれはもしかしてレア情報なのでは?と、陽太がそう思っていると
「陽太は?」
「へ?」
「陽太は何で芸能人になりたいって思ったの?」
興味深そうに自分を見つめてくる未来に、陽太は少し気恥しさを感じながら答えた。
「え、あ、いや、俺は特には…。ねぇちゃんが勝手に俺の写真送ってて…」
「あぁ、成る程。ありがちなパターンだ?」
そう。ありがちなよくあるパターン。
未来のようなドラマチックな理由ではない自分は、やはり凡人から抜け出せない人種なのかもと陽太は内心で苦笑う。
「まぁ、そんな感じ。最初はぶっちゃけ気が乗らなかったんだけど、でも今は結構感謝してるかな」
「感謝?何で?」
にかりと爽やかな笑顔を浮かべている陽太に、未来はその言葉をおおむ返しした。
「だってレッスン楽しいし、それに未來と友達になれたし」
「あはははは、それ本心?」
「本心だよっ。俺、本当に未來と友達になれるなんて今でも夢みたいに思うしっ」
茶化してくる未来に、陽太は声を大にしてそう伝えた。
「あははは、大袈裟だな~。まぁでも、僕と友達になった事は絶対後悔させないよ」
「え?」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべる未来に、陽太の瞳が丸く見開く。
「僕は陽太の自慢の友達でずっといるって事。加藤未來は絶対霞ませないから。だからずっと友達でいてね?」
そう言って笑う未来はとても可愛くて、陽太は思わず見とれてしまったが
「そ、そんなの勿論だよっ。でも…」
「ん?何?」
「あ、いや、何でもない何でもないっ」
手を振り首を振り言う陽太に、未来はそっかと言って再びダンスのアドバイスを陽太に施すが、陽太はどこかうわの空で未来を見つめた。
未來が加藤未來じゃなくても、自分は友達になれてよかったと陽太は思っていた。
だけど未來は自分と友達になって良かったと思ってくれているのだろうか。
そう、先程聞こうとしたのだが、何だか怖くて聞けなくなってしまった。
今はまだ聞けない。
でもいつか、いつか俺も、未來の友達に自分がいる事を良かったって思わせてやりたいと、そう陽太は強く思った。
ホテルの自室に戻った未来は、シャワーを浴びてガウンを身に纏うと、濡れた髪をタオルで乾かしながらベッドに腰掛けた。
そしてスマホを手に取ると何通ものLINE通知と着信に目を通し始めた。
そして陽太からのLINEを開くと、未来は思わずぷっと吹き出した。
“琉空がお前と連絡取れなくて泣きわめいてる。琉空だけには返事してやって”
琉空が泣きわめく?自分とたかが数日連絡取れないくらいで?
有り得ないだろと思いながらも、もし本当に琉空が泣きわめいてるのなら、それはちょっと見てみたいなと未来は瞳を細めて薄らと笑みを浮かべた。
たかが数日。されど数日。
こんなにも誰とも連絡を取らないのは初めてで、未来はさぞ皆に心配かけているだろうなと、少しばかり申し訳なく思いながらベッドにぽすりと背中を預けた。
2013年5月5日
合同レッスン日。
フリータイムの今、未来は陽太のダンスを見ていた。
「違うよ。この後はこう」
「え、あ、そっか。こう?」
指摘を入れて指導をする未来に、陽太は慌てた表情で言われた通りの動きをしてみる。
「そうそう。でももうちょっと手を真っ直ぐ伸ばした方が綺麗かな」
「手を真っ直ぐ…、解った。はぁ~っ、でも難しいなぁ、ダンスって。全然未來みたいに綺麗に踊れる気がしないよ…」
そう言って肩を落とす陽太に、未来はほんわかとした気持ちにさせられる。
「あはは。そんな簡単には無理だよ。僕だって今みたいになるのに4年はかかってるんだから」
「え、4年もっ?そうなんだ。未來で4年かかるなら、俺だったら10年くらいかかりそう…」
顔を引き攣らせ言う陽太に、未来ははははと自然に笑い声が出た。
「そんなネガティブな。大丈夫だよ、陽太センスあるから」
「嘘?本当??」
「うん、本当本当」
実の所、リズム感のあまりない陽太のダンスセンスは微妙だなと未来は思うが、しかしまだまだ始めたばかり。
上手い下手よりまずはダンスを楽しめなければならない時だと未来は思う。
「でも、未來は凄いな」
徐にそう言って自分に感心の眼差しを向けてくる陽太に、未来は小首を傾げる。
「え?何が?」
「だってダンスも上手いし、歌も演技も上手いし、それにすっごく可愛いし。芸能人になるべくして生まれてきてるよね、絶対」
「あははは、ありがと」
本当に、なんて可愛い事をさらりと言ってくれる子なんだと、そしてその愛らしさを少しは琉空にも別けてやって欲しいなと未来は思いながら言葉を続けた。
「でも僕ね、生まれた時は3年持たないって言われてたらしいんだ」
「え?」
「心臓の動きが鈍かったみたいで、結構やばかったんだって。でも意外と大丈夫で今は全くの健康体なんだけど」
にこりと笑ってそう言う未来に、陽太はほっと胸を撫で下ろした。
「そ、そうなんだ。びっくりした~。今もどっか悪いのかと思った」
「ははは、全然大丈夫。でもだから僕芸能界に入ったんだ。親が僕の生きた証を残す為に、出来るだけ沢山の人に僕が生きた事を知ってもらう為にって。だから生まれた時に死ぬって言われてなかったらきっと芸能界には入ってなかったと思うよ」
「へ~、そうなんだ」
そんな経緯があったんだ。
というかこれはもしかしてレア情報なのでは?と、陽太がそう思っていると
「陽太は?」
「へ?」
「陽太は何で芸能人になりたいって思ったの?」
興味深そうに自分を見つめてくる未来に、陽太は少し気恥しさを感じながら答えた。
「え、あ、いや、俺は特には…。ねぇちゃんが勝手に俺の写真送ってて…」
「あぁ、成る程。ありがちなパターンだ?」
そう。ありがちなよくあるパターン。
未来のようなドラマチックな理由ではない自分は、やはり凡人から抜け出せない人種なのかもと陽太は内心で苦笑う。
「まぁ、そんな感じ。最初はぶっちゃけ気が乗らなかったんだけど、でも今は結構感謝してるかな」
「感謝?何で?」
にかりと爽やかな笑顔を浮かべている陽太に、未来はその言葉をおおむ返しした。
「だってレッスン楽しいし、それに未來と友達になれたし」
「あはははは、それ本心?」
「本心だよっ。俺、本当に未來と友達になれるなんて今でも夢みたいに思うしっ」
茶化してくる未来に、陽太は声を大にしてそう伝えた。
「あははは、大袈裟だな~。まぁでも、僕と友達になった事は絶対後悔させないよ」
「え?」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべる未来に、陽太の瞳が丸く見開く。
「僕は陽太の自慢の友達でずっといるって事。加藤未來は絶対霞ませないから。だからずっと友達でいてね?」
そう言って笑う未来はとても可愛くて、陽太は思わず見とれてしまったが
「そ、そんなの勿論だよっ。でも…」
「ん?何?」
「あ、いや、何でもない何でもないっ」
手を振り首を振り言う陽太に、未来はそっかと言って再びダンスのアドバイスを陽太に施すが、陽太はどこかうわの空で未来を見つめた。
未來が加藤未來じゃなくても、自分は友達になれてよかったと陽太は思っていた。
だけど未來は自分と友達になって良かったと思ってくれているのだろうか。
そう、先程聞こうとしたのだが、何だか怖くて聞けなくなってしまった。
今はまだ聞けない。
でもいつか、いつか俺も、未來の友達に自分がいる事を良かったって思わせてやりたいと、そう陽太は強く思った。
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