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元売れっ子?ラノベ作家、異世界へ立つ

移動式住処を作りましょう

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 「しかし、詠唱無しで魔法が使えるとはなぁ……」

 そう、魔力操作を覚える過程で私は魔法も使えるようになった。
この世界に来て魔法は試していたが成功はしていなかった。
その原因を魔力操作が出来ないことと、詠唱の失敗だと思っていたのだが、実際は魔力操作のみの問題だったのだ。

 まあ、正直厨二的な詠唱をしなくて良いことには安堵したのだが。

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 今、私は遺跡の石畳の上に座りラピスの木の水筒を作っている。
蓋になるコルクをり貫く道具はリークヴァメタロを変形させている。
これはプリミティーヴァに【使え】と強制されたからだ。

 どうやら魔力操作を覚えるのに細かいものを作り、使うと操作能力が上がるらしい。

 『……楽しい?』

 プリミティーヴァが隣でジッと私の作業を見つめている。
どうやらかなり暇なようだ。
今までどのように生活していたのか聞いたら【ぼーっとしてた】との事だった。
 プリミティーヴァが本当に魔力ダークマターだとしたら地球が存在する宇宙で考えると最低でも138億年は存在しているということだ。
この世界がある宇宙が地球がある宇宙と同時に発生したのならばだが。
なんだかなぁ。
 プリミティーヴァ曰くいつ頃ぶりかの触れ合いなので感情が抑えきれないらしい。

 「楽しい……というより必要だから作っているんだけど?
これがすべて完成したら人里を目指すつもりだからね」

 『旅立たれるんですか?』

 プリミティーヴァの美しい顔が僅かに曇る。

 「ん、まあね。
 元々は別の世界で生きていて、死んで、ちょっと良いことしたから、向こうの世界の高位の存在ルールウに報酬としてこちらへ送ってもらったんだよ。
だからさ、この剣と魔法の世界を楽しみたいんだよ。
流石に最初からサバイバルをするとは思わなかったけれどね」
   
  手を休めずにコルクを貫きながら答える。

 『そう……なんですね』

 どこか寂しそうな声。

 しかし、私は聞いたよ。
小さい声で言った【おいしいごはん】という呟きを……。

 『じゃ、じゃあ、すぐに発つのですか?』

 プリミティーヴァの問いに私は首を振る。

 「最低7日。
あの光源が5回出て夜が5回来るくらいはここに居たいけど?
駄目かな?」

 私が答えた後、プリミティーヴァがいきなり目の前に現れる。

 『特訓です!』

 突然目の前に美しい顔が現れ動揺する私の目の前でプリミティーヴァが【ふんすっ】と気合を入れている。

 「なんだよ、いきなり」

 『今のままでは駄目です!
ここにいる間に私が鍛えて差し上げます(美味しい食べ物~)』

 何か不審な感情が後ろに隠れている気がするが、まあ悪いことはないだろう。

 私はその申し出を受けることにした。

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 午前中はラピスの実の収穫、午後は木の伐採と道具作り、夕方から戦闘・・訓練という日々を繰り返す。
かれこれ1週間が過ぎた。
 とりあえず、魔力の使い方はかなり上手くなったはずだ。
 魔法も一応自然現象である、火、土、風、水と雷、冷、光、闇は使えるようになった。

 残念なのは神聖魔法が使えないことだ。
ちなみに何故神聖魔法かと言うと、回復魔法が欲しいからだ。
水系統では回復魔法は使えなかった。
 で、考えられるのは神聖魔法の系統だったがこちらも使えなかった。
これはこの世界で信仰する神がまだいないからだろうと思う。
正直、神聖魔法が使えないのは痛いが人里に着いたら覚える方法を探そう。

 そしてリークヴァメタロの戦闘での使い方。
 こちらは魔力の放出が出来、イメージを膨らませることが出来ればほとんど問題はなかった。
1つだけあった問題は調整。
 最初の3日はイメージが大きすぎて何度も気絶した。
それでも徐々に慣れ、今では動きながらでも様々な形に変形させることが出来るようになった。


 『何を作っているのですか?』

 私はこの地で拾った様々な木材を集め、工作に勤しんでいた。
なんか少し前にも同じやり取りをしたような気が……。

 「ああ、これは移動式住居だよ。
移動式といっても自分で移動するわけではなく、持ち運びが出来るということだけどね。
私のいた世界ではテントという細い金属と布で出来た簡易式の住処があったんだよ。
それを作りたいのさ。
ただし大きさは全然違うけどね」

 モデルは鳥籠とりかご
四角のタイプではなくドーム状のやつだ。
 
 『ふーん、そうなんですね。
見てて良いですか?』

 私が返事をする前にプリミティーヴァはほこら残骸ざんがいの方へ行き、崩れた柱の上に座る。

 さて、まずは床になる木を置いてゆく。
本当は板があれば良いのだが、リークヴァメタロを使い丸鋸まるのこを再現しようとしたが出来なかった。
どうやらあそこまで複雑な変形は不可能のようだ。

 ちなみに木といっても直径5cmくらい、2m、2.5mの長さの枝を使う。
長さが違うのは組み合わせた時にデコボコになるようにわざとそうしている。

 これを濃縮魔力水に漬けたつたを使い結んでゆく。
この蔦、とにかく頑丈なものになっている。
まあ、マジックアイテムに成っているだけだけれどね。

 ただこのマジックアイテム、すごく問題があることが判明した。
それは作成したマジックアイテム全てに言えることだった。

 あの数値。
マジックアイテムの最後に付いていた100%という数値。
これが日を追うごとに減っていったのだ。
観察してみた結果、0%になると唯の道具に戻った。

 どうやら浸透していた濃縮魔力水が蒸発したか抜けたかのどちらかのようだ。
流石にこの結果には笑うしかなかったが、折角のマジックアイテムなのでとにかくストックを作っている。
因みに濃縮魔力水が抜けた道具は湖に漬けなおしたら元に戻った。

 で、まず同一方向へ木をくくり終える。
まあ、ゲームでよくあるいかだのような構造だ。
それを2つ。

 これをクロスしてくくる。

 筏の土台を2つ重ねた状態。

 そして端のデコボコのうち、でっぱりの方へ今度は直径2~3cm、長さ2m程度の枝を垂直に括る。
ここに使用する枝はなるべく柔軟性のあるものにした。
これは中央部分へ曲げる為。

 1つを括ると対角に1つ括り、それを中央部分へ曲げ、2つを頂点で括る。
これを繰り返してゆく。

 苦労したのは土台に括った時で、抜けないように括りつけるのが大変だった。
抜けるのは土台の木に溝を掘り、そこに蔦を括りつけて引っかけることで回避が出来た。
そして骨組みの間にさらに細い枝を今度は地面と平行にドームに沿って曲げながら通してゆく。
これがまた大変で、何度折れた事か……。
最後は短いものを組み合わせて作ったが。
これはわらをひっかけるためのものだが今回は代用品を使う。

 藁の代わりは湖のほとりに生えていた剣葉けんようだ。
 長さが丁度よかった上に頑丈(正直危険なくらいなのだが)で、表面に油が浮いており、水を弾くので材質的に良さそうだったからだ。

 一番頂上だけはわらを干すときのように根元を括り、帽子のように頂点から被せる。
まあ、散々手を切ったよ。
あとは、間に渡した枝に剣葉を束にしたものを挟んでゆく。

 で、完成っと。

 むう。
なんかぼろぼろだなぁ。

 プリミティーヴァには憐れみの目で見られたよ。
本来は土台無しで地面に直接木を刺して作るものだから安定はしないんだよなぁ。
でも土台付きの住居が欲しかったんだよ。
地球にあったようなテントなんて作れないし、地面にべたで寝るのは勘弁だ。
何しろこの世界の事はまだ何にも知らないのだから。

 ちなみに2つ目の移動式住居は竪穴式住居の作り方を採用。
ただし、床が付いている。
 土台は同じで今度は枝で立方体の骨組みを作り、4隅の重なった所にピラミッド状になるように棒を括り、頂点でも括った。
 後は4面に枝を通して壁を作り、その外側に剣葉を引っ掛けて出来上がり。

 まあ、なんか1個目の苦労が何だったのかというくらい簡単に出来た。
やっぱり思い付きで作ったら駄目だ。 
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