元売れっ子?ラノベ作家、異世界へ行く

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異世界生物に出会いました

転移した場所では……

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 ドンっ!

 転移門に吸い込まれどれくらいの時間が経っただろう。
ぐにぐにと曲がる赤いトンネルに流石に酔ってきた時、それは起こった。

 突然の衝撃。
背中に硬い何かが当たり、周囲が暗くなる。

 「いてぇっ!」

 思わず叫んでしまった。
背中に柔らかく硬い、生暖かい何かが当たっている。
私は背中をさすりながらゆっくりと立ち上がった。

 何かが動く。
近くに落ちている2本・・の松明が周囲を薄っすらと照らしている。

黄色い丸いものが目の前に2つ。
その下には長く尖った何か。
更に下には真っ赤な何かと不揃いに並んだ歯。

……歯?

 「ギャワ?!」

 「お……う」

 あぶねっ!

 嫌な予感がして反射的に膝を曲げた瞬間、頭上を何かが通り過ぎた。
風圧が頭を掠め、全身に冷や汗が流れる。

 反射的に振った右のこぶしに柔らかく硬い衝撃が走った。

 「ゴワッ!」

 目の前にいる何かがたたらを踏んで数歩下がる。

 奇怪な容姿の、2本足で立つ生き物。
 身長は私と変わらない。
身体はかなりの筋肉質。
正直ポーズを決めるどこかのマッチョダンディ並み。
そして髪の無い頭。
筋肉質の腕の先、手には棍棒。

 先程頭のあった場所を通り過ぎたのはあの棍棒か……。
再度全身に冷や汗が流れる。
私の脳裏に、地球で最後に受けた頭への衝撃が蘇り身体が強張る。

 目の前にはマッチョが棍棒を手に近づいてくる姿。

 下からの振り上げ。
ギリギリでかわした私の身体に風圧が襲い掛かる。

 あれ、当たったら死ぬ。
私は次々と繰り出される棍棒を飛びのき転がり何とかかわす。
愛刀が邪魔だ。

 正直不味い。
かろうじて身体が動いてかわせているだけでもマシだが。

 突然目の前のマッチョの動きが止まった。
肩で息をしている所を見ると体力が無くなったようだ。
 本来ならここで攻勢に出たいところだが恐怖でまだ身体が動かない。
私は相手の動きが止まったことを良いことに鑑定を発動。
正直戦闘中に鑑定を使うのは危険だが相手が分からないともっと危険だ。

 【鑑定】
 
 ゴブリン(女)

 様々な種族と対立している種族。
 特に強いわけでも弱いわけでもなく、人間の大人ならば1対1で勝てる程度。
 繁殖力が異常に強く、どのような種族とでも生殖行為が可能で、生まれてくる子全てがゴブリンとなることからあらゆる種族から嫌われている。
 同じような特性を持つ種族はオーク、オーガ、リザードマンなど様々で、女性を男が襲うパターンが多いが逆のパターンもある。

 極まれに特殊な個体(キング、クィーン、ノーブル)が発生し、集団を率いて村や街を襲う。
過去1番巨大な群が発生したのはキング、クィーンと上級ノーブルが複数発生した時で、総数10万の統率・・されたゴブリンの集団が数か国を滅ぼした記録がある。

 
 う~ん、まあ基本的には地球のファンタジー設定と変わらないのか。
上級個体ねぇ。
 こいつには記載が無いから上級では無いのだろうけれど、あのマッチョは私の知っているゴブリンとは違う。
ゴブリンって小さくて、弱くて、雑魚が定番だろ!
何だよ、あの筋肉質のマッチョは!
あれで本当に特殊個体や上級個体じゃないのか?
それともこちらの鑑定能力が低くて見ることが出来ないのか?

 はぁ、まあいいや。
 それより気になるのは逆のパターンという鑑定結果。
そしてゴブリンの後ろにある(女)。
つまり、つまりそういうこと……か。

 先程棍棒が通り過ぎた時よりも更に大量の冷や汗が流れる。
こっちのほうが特殊個体よりも怖いわ!


 私の目の前にいるゴブリンは油断なくこちらをにらみつけている……る?
何か先程までの殺気の籠った視線から熱い視線に変わっているような気が……。
耳まで避けた三日月状の口から長い舌が出て、唇らしきものをベロリと舐めた。

 ぞわりと悪寒が走る。 

 舌なめずりしてやがるっ!
こいつ、もしかしなくても私を男認定しやがったな。

 喰われてたまるかってんだ!

  
 私は今のゴブリンの行動舌なめずりで、先ほどまで感じていた恐怖から解放された。
腰の愛刀を握り鯉口を切る。

 息が整ったのかそれとも欲望を満たすためなのか、じわりと距離を詰めてくるゴブリン。
私の間合いまではあと50cm程だ。

 長い。

 どれだけの時間が経ったのだろうか?
ゴブリンも私の緊張を感じたのか熱い視線が無くなり、真剣な目つきで慎重に近づいてくる。

 間合い。

 地球でつちかった古武術の動き。
目の前にゴブリンの筋肉質の身体が迫る。

 (うぉっ、近すぎた!
しかも身体が軽くて速すぎるっ!)

 慌てて後ろへ跳びゴブリンから距離を取る。

 地球での感覚で身体の動きをイメージして動いたのだが動き過ぎた。
やはり高位の存在ルールウがやった肉体の強化が強すぎるのだろう。
これは感覚の修正が必要だ。

 先程の動きに驚いたのかゴブリンの動きが止まる。
視線を逸らさずにゆっくりと腰を落としてゆく。

 私もその隙に感覚を修正する。

 勝負……。

 動き出した瞬間、ゴブリンが足を突き出す。

 不味い。
 急制動をかけ無理やり抜刀。
愛刀がゴブリンの振り上げた足の内太腿ふとももを斬り裂く。

 「ギャァァァああああ!」

 血飛沫ちしぶきが上がると同時に、私の耳に、この暗い空間に、ゴブリンの叫び声が響き渡った。
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