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逆転と相棒と革命と
15.下剋上の現場
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それは一瞬の出来事だったーー。
穂柄が魔王とそう口にだした途端に、歪んだのだ。この場の全てが。
病院内の廊下だったはずの場所が、暗く歪な暗闇に包まれる。何が起きたのか理解する間も無く、この場にいる全ての人間が見えない重力に押し潰された。俺はなんとか背後の壁を使いそれに耐える。
「ぐ、あ‥な、なにっ」
「きゃっ‥体がっ重いっゔ」
なにがどうなっているのか、
支えのない人達は皆んな抵抗虚しく床に這いつくばって、その事態に悲鳴をあげる。それだけこの異様なオーラに圧倒された。
ありえない。なんなんだよ、これ‥。
「ぎゃはは!もがけよもがけ!!なーんも出来ねえだろうけどな!マザーの故障?んなわけねえだろ。これが新しい才能ってやつだ。よく覚えとけ。更新されたランクの基準ってのは第一にこの能力だろうよ。更新ランクが低いってことは、お前らには才能がねえってことだ。世界がてめえらを使えねえって判断したってことなんだよ。はあ‥可哀想に‥これが俺たちの差だよ。差。わかったら地面と仲良くキスでもしとけ低ランク共が。」
「ひ、‥あ、あ‥」
近くにいた男が地べたに這いつくばりながら涙を垂らし床を濡らす。彼だけじゃない、この空間内にいる何人もが同じ状態になっている。
恐ろしいまでの殺気。自分の死の映像が明確に見えるほどの。
「く、くそっ‥皆んな!騙されるなっ、何か‥薬を使った集団幻覚かもしれない!っ、口を、口をっ、塞ぐんだ!」
ケイが大量の汗を垂らしながら、地面に向かってそう叫んでいる。大きな鉄の球が体を押し潰すようなそんな状態でよく周りの心配ができるものだ。
ケイの叫びも虚しく、混乱した人々は聞く耳を持たない。絶望と踠き苦しむ声だけが響き渡っていた。
「汚ねえな‥。」
ボソリと呟いた穂柄が、ケイの前へと歩を進める。
「おい、」
「ぐ、ゔっ‥」
なすすべもなく地面に倒れ込むケイ。穂柄はそんなケイの頭上にしゃがみ込むと、穏やかな声で話し始めた。
「お前は知ってるか?才能に恵まれなかった奴の人生ってのを。」
「な、に‥を」
「例えば‥そうだな。ランクが低かった故に、過激ないじめで息子を亡くし、それでも加害者がなんの罪にも問われなかった親の絶望感。妹に愛する恋人を奪われた女の地獄の底みてえな怨嗟。高ランクの連中の暇潰しに犯されあそばれた奴の屈辱。あと‥よくあんのが、かつての親友にランクを見下されハブられての?自信喪失しちゃったパターンとか‥?」
スッと俺に向けられた穂柄の真っ赤な瞳。俺は反射的に目をそらす。まるで俺の過去や心の中まで全部見透かされているような気分だ。他の話だって‥きっと本当の‥。
俺よりも辛い思いをしてる人たちはやっぱり沢山いる‥。彼らの話を聞いても、他人事のように思える俺の絶望や不幸は、きっと悍ましい思いをしたその体験者達にとってはとても軽いものなんだと改めて実感した。
だけど、そんな俺の傷ですら等しく並べてくれた穂柄に、何故か泣きそうなった。
刹那、ふわりと軽くなる体。
元に戻った‥?俺は急いで穂柄に視線を戻す。
「っ、‥」
「なーんだ、心当たりがありそうな顔じゃねえか!悪い奴だなー、おまえ。」
「ちがうっ!?、ゔっ、ゔえええ‥」
「あぁ、悪りぃ‥。コントロールがまだ完璧じゃねえな‥っ、げ!ゲロ靴に飛んでんじゃねえか!?これ気に入ってたのにっ~、あーあ!どうしてくれんだよクソ魔王!?」
何も無い空間に怒鳴り散らす穂柄。いや、何か‥いる‥?黒か紫か、影のようなものが薄らと渦巻いている。
魔王‥。魔王ってまさか、先ほどから穂柄の近くにぼやっと見える影のようなあれか?
俺は目を凝らす。人って認識してしまうとよく見えたりするものなのかもしれない。んんん、見える、見えるぞ。なんだかコンパクトになった魔王さんがっ、見えるっ!!ぎょろりとした灰色の瞳が、俺をじっと見つめている。何か言いたげなそんな表情だ。
俺は感激で思わず笑みを浮かべる。ああ、よかった!心配したんだぜ魔王さんよ‥。無事で本当によかったよ‥って、あれ?つか、なんで穂柄の守護霊みたいになってんの?俺が意識飛ばしてる間に、よくある契約的なことしちゃったとか?
穂柄の口ぶりからして、このダークな力は魔王さんのものなのか‥?
聞きたいことが山ほどある。そして伝えたいことも。
俺は導かれるように穂柄に近づいていく。
「あ?なんだ?つか、なんでてめえ動けてんの‥無意識に範囲を狭めたのか‥?」
「まお、さ‥」
「っ、‥見えるのか‥?」
「ッ!、」
驚いた表情をする穂柄に冷や汗が吹き出した。
やば、俺は何をっ!?俺は急いで口を手で塞ぐ。なんでだよ俺!?よりにもよって穂柄の目の前に来るなんて自殺行為だ!
完全に魔王さん見つけて緊張が緩んでた‥。あと、なんかこいつ思ってたより良い奴っつうか‥油断しちゃうんだよな‥。
「ああ、そういや、てめえもSランクだったな‥能力で見透かすことができるってことか。まあ、これは気にすんな。俺の守護神みたいなもんだから。」
守護神‥?
穂柄は気にするそぶりもなく、またケイへと視線を移す。
俺はホッとして口から手を離すが、穂柄の言葉の意味がわからず困惑した。
状況が全く理解できていない。情報がほしい。魔王さんと話したいのに‥。穂柄の守護神?なら、話せる、のか?これ‥。
「っ、げほっ、は、‥ふざ、けるなっ、こんなっ、こんな!?!?おいっタマキッ!?お前なんとかしろよ!?」
え、なんで俺‥。急にふられてびびる。
嘔吐物を垂らしながらギロリと俺を睨みつけるケイ。俺は本能的に穂柄の背後に隠れるように移動した。決してB級映画のゾンビみたいな顔が怖かったとかじゃないんだからね。
「はあ‥可哀想だな‥才能に恵まれねえ奴は‥。何もできねえよな?もがいてももがいても‥変わんねえ‥。分かるぜその気持ち。ランクって最悪だよな?」
「おま、え‥っ、なん、だ、よっ、なんなんだよっ!?」
「俺が思うに、人間ってのはさ、平等であるべきなんだよ。完璧とまではそりゃ無理だけどよ、勉強して学んで、人並みに好きなことやって遊んで、将来好きな仕事につけるように夢に向かって努力したりさ。‥そんで縁があれば好きな奴と恋に落ちて結婚する。子ども作って家庭持って、子は愛され育ち、またそんな人生を繰り返す。」
「この国動かしてるお偉いさん達ってのは、そうやって未来を夢見て必死こいて努力してる多くの人間が、平等に幸せな生活を送れるようにしていかなきゃならなかったんだ。それが揃いも揃ってランクランクランクっ‥。‥知ってるか?この能力ってさ、元が低ランクのやつほど、強いものを授かれるんだぜ‥?俺たちに慈悲を抱いた神様の贈り物みたいだと思わねえか?」
「ぐ、あっ!?」
「‥お前は正しいんだよ。でもな、もう少し早く言わなきゃだろ?だって‥
虐げられてきた人間の心はそう簡単に治せねえんだわ。憎悪、嫉妬、殺意、悲壮、絶望。そんなもんを抱えて生きてきた奴らのランクが上がったんだ。そしたらさ、ランクの下がったお前らは、今まで散々クソみてえな生活してた奴らの代わりにならなきゃだろ?話はその後からに決まってんじゃん。筋を通さないと、な?」
「な、に‥」
「俺らの時代だっつってんの。お前らは終わり。おわかり?安心しろよ。満足したら俺たちがちゃんとこの国をお前の望み通りランクなんて関係ねえ平等な世界に変えてやるさ。まあ、その頃にはてめえは老いぼれたじいちゃんだろうけどな!ま、そこは勘弁してくれ!」
「そんなのっまち、がっ、てッゔぐうっ!?」
「話し聞けって。ツケが回ってきたんだよ‥因果応報っての?お前らは低ランクの暮らし体験ってのをしてくれればいいんだ。簡単だろ?目立たず大人しく。意見は言わず、ただそこにいろ。少しでも良い暮らしがしてえなら、靴でも舐めて媚びればいい。わかったな?いや、理解しないとこれからは生きていけなくなる。俺がそうする。変える。だからお前は諦めろ。」
「おれ、はっ!!絶対に、屈しないっ!?お前なんかっ、お前、なんっゔえええ」
「‥はー、だりぃ‥まあ、‥これから、ゆっくり現実を思い知れや。」
「‥、ゔゔ‥」
「さあ、楽しいショータイムだなぁ同志よ。」
「っ、ひ、え?」
がしりと引き寄せられる首。
蚊帳の外で会話を盗み聞きしていた俺。急に穂柄がまた肩を組んできたからキモい奇声が出た。とても恥ずかしい。
「けほっ、ケイくん!?大丈夫!?」
「ゔ‥」
いつの間にか、景色は元の姿に戻っていて、俺はぽかんとその光景を眺める。
重力的なナニカも解放されたのか、咳き込んだりしながらも、穂柄に怯える人達の視線が伺える。
そんな現状を観察する俺ににこりと笑いかける穂柄。やめてくれ、不安になるだろ。
「なぁ、お前はなにすんだよ?」
「は、い‥?」
「あ?決まってんだろ?俺たち、Sランクなんだぜ?女か?復讐か?栄光か?」
穂柄の質問の意味を俺はやっと理解した。
彼は、これからの希望の話をしているんだ。
なんて奴だ。まだ世界がどうなるかも分からないし、先ほどの高ランク‥いや、元高ランクの人達の態度からして、上手く進むとも思えない。今だってみろ、何人かは今にもお前を殺しそうな目で見てんぞ。怖え‥。それなのにこいつは‥キラキラと子供みたいな目。夢と希望に満ち溢れた‥そんな瞳。こいつは輝かしい未来しか見ていない。
変える‥穂柄はそう言った。本当に‥変えるつもりなのか‥?世界を。
「おい、聞いてんのかこら。」
銀の髪がキラキラと輝いている。まるで未来を照らす光のように。そう感じた。
変わる‥こいつなら‥穂柄なら本当に変えられるかもしれない。
世界が変わればどうするかだって?そうだな‥もしそんな希望に溢れた世界が来るとしたら、俺は自信を取り戻せるのかな?前みたいに普通に話せるようになりたい。やりたいことの勉強もしたい。資格も取って、たくさんはいらない。一緒に笑い合える友人を作ったら、もちろんタケちゃんも‥遊びに行ったり、旅行もいいな。しっかりとした仕事について、大人になる過程でいい人と出逢って結ばれて、平凡で幸せな家庭を築く。おじいちゃんになって、孫の顔を見て、それから、それから‥ああ、
なんて幸せで平凡な‥。っ、父さんも‥戻ってくるかな?、ランクが高いんだ。そうだよ。そうだ。父さんが望んだSランクなんだ!
っ、母さんもっ、喜んでくれるっ‥
また家族みんなで笑ってそんでっ、
はやく、伝えないとっ
また、普通の家族に戻れるんだっ!
「へい、ぼん!なる!」
俺はこれでもかってぐらい満面の笑みで穂柄にそう告げてやった。
「ぷはっ、いいじゃねえか。平凡になってこいよ。ほら、サツが来たらめんどい。さっさと行け。」
「う、ん!ほ、が、ら‥くん‥あり、がと!」
「‥」
そうだよ、俺なんかが魔王さんになにを聞くって言うんだ。この人に任せておけば、きっと全て変えてくれる!だから全部忘れて、凡人の俺は世の中の流れに身を任せて関わらない。平凡に穏やかに過ごすんだ!そうだ、Sランクっ!!Sランクになったんだ!!魔王さんにお礼を言いたかったけど、また機会があれば言えばいいよな?
魔王さんも、お元気で!
穂柄の背後でじっと見つめる灰色の瞳に心の中でそう告げて、俺は急いで病院を出る。
変わり果てた町。AIマザーの放送が、至る所に流れている。ランクが更新された。これからのランク制度について。そんな文字があちこちに飛び交う。だけど俺はそんな事には目も向けず復旧のトラックや自衛隊の車が車道を走る中、瓦礫だらけの道をこれでもかってぐらい走った。運良く辿り着いたのは病院前の地下鉄の入り口で。確認をすると奇跡的に最寄り駅までの電車が動いているらしい。ラッキーだなってウキウキしながら帰路を進む。
嫌なことも、苦しいことも沢山あった。でもそんなこと構わない。ゆっくり元に戻ればいいんだ。俺達ならできる。
俺のせいで引き離してしまった家族。今度は俺の手で‥
最寄りの駅まで辿り着くと地下鉄を降り、地上を歩く。被害は近所には及んでいないようで、いつもと変わらずの風景だ。
ボロいアパート。目の前に近づく茶色のドア。
ドキドキと高鳴る心臓の音が聞こえてくる。
植木鉢の下に隠してる鍵を出して、勢いよくドアを開けた。
運がいいのは続く。玄関に並べられた母さんの靴。いつも仕事でいないはずの母さんが今ここにいる。いつもはすれ違わないように、そのまま手前の自室へと向かうところを、母の部屋がある突き当たりまで一直線に足を進めた。
やっとだ。なんて言おう。喜ぶ?それとも感激して泣くとか?はは、昔の母さんならありえる!涙脆くて頼りないけど、いつも優しい人だった。俺が父さんに怒られた時は、落ち着くまでずっと慰めてくれた。記憶の奥底に眠っていた、優しく微笑む母さんの顔が鮮明に脳内へと蘇って来る。
母さん、聞いてくれよ。俺、俺さ!
ギィーーー。
「母、さ、!!俺っ!!Sランク、にっ、な、って‥、
‥母、さん‥?」
ギィ‥ギィーー。
戻りたかったんだ。戻れると思っんだ。
友人も、家族も、笑顔も、夢も、幸せも。
全部、取り戻せるって。
俺にも幸せになる権利があるんだって。
そう、思ったんだ。
穂柄が魔王とそう口にだした途端に、歪んだのだ。この場の全てが。
病院内の廊下だったはずの場所が、暗く歪な暗闇に包まれる。何が起きたのか理解する間も無く、この場にいる全ての人間が見えない重力に押し潰された。俺はなんとか背後の壁を使いそれに耐える。
「ぐ、あ‥な、なにっ」
「きゃっ‥体がっ重いっゔ」
なにがどうなっているのか、
支えのない人達は皆んな抵抗虚しく床に這いつくばって、その事態に悲鳴をあげる。それだけこの異様なオーラに圧倒された。
ありえない。なんなんだよ、これ‥。
「ぎゃはは!もがけよもがけ!!なーんも出来ねえだろうけどな!マザーの故障?んなわけねえだろ。これが新しい才能ってやつだ。よく覚えとけ。更新されたランクの基準ってのは第一にこの能力だろうよ。更新ランクが低いってことは、お前らには才能がねえってことだ。世界がてめえらを使えねえって判断したってことなんだよ。はあ‥可哀想に‥これが俺たちの差だよ。差。わかったら地面と仲良くキスでもしとけ低ランク共が。」
「ひ、‥あ、あ‥」
近くにいた男が地べたに這いつくばりながら涙を垂らし床を濡らす。彼だけじゃない、この空間内にいる何人もが同じ状態になっている。
恐ろしいまでの殺気。自分の死の映像が明確に見えるほどの。
「く、くそっ‥皆んな!騙されるなっ、何か‥薬を使った集団幻覚かもしれない!っ、口を、口をっ、塞ぐんだ!」
ケイが大量の汗を垂らしながら、地面に向かってそう叫んでいる。大きな鉄の球が体を押し潰すようなそんな状態でよく周りの心配ができるものだ。
ケイの叫びも虚しく、混乱した人々は聞く耳を持たない。絶望と踠き苦しむ声だけが響き渡っていた。
「汚ねえな‥。」
ボソリと呟いた穂柄が、ケイの前へと歩を進める。
「おい、」
「ぐ、ゔっ‥」
なすすべもなく地面に倒れ込むケイ。穂柄はそんなケイの頭上にしゃがみ込むと、穏やかな声で話し始めた。
「お前は知ってるか?才能に恵まれなかった奴の人生ってのを。」
「な、に‥を」
「例えば‥そうだな。ランクが低かった故に、過激ないじめで息子を亡くし、それでも加害者がなんの罪にも問われなかった親の絶望感。妹に愛する恋人を奪われた女の地獄の底みてえな怨嗟。高ランクの連中の暇潰しに犯されあそばれた奴の屈辱。あと‥よくあんのが、かつての親友にランクを見下されハブられての?自信喪失しちゃったパターンとか‥?」
スッと俺に向けられた穂柄の真っ赤な瞳。俺は反射的に目をそらす。まるで俺の過去や心の中まで全部見透かされているような気分だ。他の話だって‥きっと本当の‥。
俺よりも辛い思いをしてる人たちはやっぱり沢山いる‥。彼らの話を聞いても、他人事のように思える俺の絶望や不幸は、きっと悍ましい思いをしたその体験者達にとってはとても軽いものなんだと改めて実感した。
だけど、そんな俺の傷ですら等しく並べてくれた穂柄に、何故か泣きそうなった。
刹那、ふわりと軽くなる体。
元に戻った‥?俺は急いで穂柄に視線を戻す。
「っ、‥」
「なーんだ、心当たりがありそうな顔じゃねえか!悪い奴だなー、おまえ。」
「ちがうっ!?、ゔっ、ゔえええ‥」
「あぁ、悪りぃ‥。コントロールがまだ完璧じゃねえな‥っ、げ!ゲロ靴に飛んでんじゃねえか!?これ気に入ってたのにっ~、あーあ!どうしてくれんだよクソ魔王!?」
何も無い空間に怒鳴り散らす穂柄。いや、何か‥いる‥?黒か紫か、影のようなものが薄らと渦巻いている。
魔王‥。魔王ってまさか、先ほどから穂柄の近くにぼやっと見える影のようなあれか?
俺は目を凝らす。人って認識してしまうとよく見えたりするものなのかもしれない。んんん、見える、見えるぞ。なんだかコンパクトになった魔王さんがっ、見えるっ!!ぎょろりとした灰色の瞳が、俺をじっと見つめている。何か言いたげなそんな表情だ。
俺は感激で思わず笑みを浮かべる。ああ、よかった!心配したんだぜ魔王さんよ‥。無事で本当によかったよ‥って、あれ?つか、なんで穂柄の守護霊みたいになってんの?俺が意識飛ばしてる間に、よくある契約的なことしちゃったとか?
穂柄の口ぶりからして、このダークな力は魔王さんのものなのか‥?
聞きたいことが山ほどある。そして伝えたいことも。
俺は導かれるように穂柄に近づいていく。
「あ?なんだ?つか、なんでてめえ動けてんの‥無意識に範囲を狭めたのか‥?」
「まお、さ‥」
「っ、‥見えるのか‥?」
「ッ!、」
驚いた表情をする穂柄に冷や汗が吹き出した。
やば、俺は何をっ!?俺は急いで口を手で塞ぐ。なんでだよ俺!?よりにもよって穂柄の目の前に来るなんて自殺行為だ!
完全に魔王さん見つけて緊張が緩んでた‥。あと、なんかこいつ思ってたより良い奴っつうか‥油断しちゃうんだよな‥。
「ああ、そういや、てめえもSランクだったな‥能力で見透かすことができるってことか。まあ、これは気にすんな。俺の守護神みたいなもんだから。」
守護神‥?
穂柄は気にするそぶりもなく、またケイへと視線を移す。
俺はホッとして口から手を離すが、穂柄の言葉の意味がわからず困惑した。
状況が全く理解できていない。情報がほしい。魔王さんと話したいのに‥。穂柄の守護神?なら、話せる、のか?これ‥。
「っ、げほっ、は、‥ふざ、けるなっ、こんなっ、こんな!?!?おいっタマキッ!?お前なんとかしろよ!?」
え、なんで俺‥。急にふられてびびる。
嘔吐物を垂らしながらギロリと俺を睨みつけるケイ。俺は本能的に穂柄の背後に隠れるように移動した。決してB級映画のゾンビみたいな顔が怖かったとかじゃないんだからね。
「はあ‥可哀想だな‥才能に恵まれねえ奴は‥。何もできねえよな?もがいてももがいても‥変わんねえ‥。分かるぜその気持ち。ランクって最悪だよな?」
「おま、え‥っ、なん、だ、よっ、なんなんだよっ!?」
「俺が思うに、人間ってのはさ、平等であるべきなんだよ。完璧とまではそりゃ無理だけどよ、勉強して学んで、人並みに好きなことやって遊んで、将来好きな仕事につけるように夢に向かって努力したりさ。‥そんで縁があれば好きな奴と恋に落ちて結婚する。子ども作って家庭持って、子は愛され育ち、またそんな人生を繰り返す。」
「この国動かしてるお偉いさん達ってのは、そうやって未来を夢見て必死こいて努力してる多くの人間が、平等に幸せな生活を送れるようにしていかなきゃならなかったんだ。それが揃いも揃ってランクランクランクっ‥。‥知ってるか?この能力ってさ、元が低ランクのやつほど、強いものを授かれるんだぜ‥?俺たちに慈悲を抱いた神様の贈り物みたいだと思わねえか?」
「ぐ、あっ!?」
「‥お前は正しいんだよ。でもな、もう少し早く言わなきゃだろ?だって‥
虐げられてきた人間の心はそう簡単に治せねえんだわ。憎悪、嫉妬、殺意、悲壮、絶望。そんなもんを抱えて生きてきた奴らのランクが上がったんだ。そしたらさ、ランクの下がったお前らは、今まで散々クソみてえな生活してた奴らの代わりにならなきゃだろ?話はその後からに決まってんじゃん。筋を通さないと、な?」
「な、に‥」
「俺らの時代だっつってんの。お前らは終わり。おわかり?安心しろよ。満足したら俺たちがちゃんとこの国をお前の望み通りランクなんて関係ねえ平等な世界に変えてやるさ。まあ、その頃にはてめえは老いぼれたじいちゃんだろうけどな!ま、そこは勘弁してくれ!」
「そんなのっまち、がっ、てッゔぐうっ!?」
「話し聞けって。ツケが回ってきたんだよ‥因果応報っての?お前らは低ランクの暮らし体験ってのをしてくれればいいんだ。簡単だろ?目立たず大人しく。意見は言わず、ただそこにいろ。少しでも良い暮らしがしてえなら、靴でも舐めて媚びればいい。わかったな?いや、理解しないとこれからは生きていけなくなる。俺がそうする。変える。だからお前は諦めろ。」
「おれ、はっ!!絶対に、屈しないっ!?お前なんかっ、お前、なんっゔえええ」
「‥はー、だりぃ‥まあ、‥これから、ゆっくり現実を思い知れや。」
「‥、ゔゔ‥」
「さあ、楽しいショータイムだなぁ同志よ。」
「っ、ひ、え?」
がしりと引き寄せられる首。
蚊帳の外で会話を盗み聞きしていた俺。急に穂柄がまた肩を組んできたからキモい奇声が出た。とても恥ずかしい。
「けほっ、ケイくん!?大丈夫!?」
「ゔ‥」
いつの間にか、景色は元の姿に戻っていて、俺はぽかんとその光景を眺める。
重力的なナニカも解放されたのか、咳き込んだりしながらも、穂柄に怯える人達の視線が伺える。
そんな現状を観察する俺ににこりと笑いかける穂柄。やめてくれ、不安になるだろ。
「なぁ、お前はなにすんだよ?」
「は、い‥?」
「あ?決まってんだろ?俺たち、Sランクなんだぜ?女か?復讐か?栄光か?」
穂柄の質問の意味を俺はやっと理解した。
彼は、これからの希望の話をしているんだ。
なんて奴だ。まだ世界がどうなるかも分からないし、先ほどの高ランク‥いや、元高ランクの人達の態度からして、上手く進むとも思えない。今だってみろ、何人かは今にもお前を殺しそうな目で見てんぞ。怖え‥。それなのにこいつは‥キラキラと子供みたいな目。夢と希望に満ち溢れた‥そんな瞳。こいつは輝かしい未来しか見ていない。
変える‥穂柄はそう言った。本当に‥変えるつもりなのか‥?世界を。
「おい、聞いてんのかこら。」
銀の髪がキラキラと輝いている。まるで未来を照らす光のように。そう感じた。
変わる‥こいつなら‥穂柄なら本当に変えられるかもしれない。
世界が変わればどうするかだって?そうだな‥もしそんな希望に溢れた世界が来るとしたら、俺は自信を取り戻せるのかな?前みたいに普通に話せるようになりたい。やりたいことの勉強もしたい。資格も取って、たくさんはいらない。一緒に笑い合える友人を作ったら、もちろんタケちゃんも‥遊びに行ったり、旅行もいいな。しっかりとした仕事について、大人になる過程でいい人と出逢って結ばれて、平凡で幸せな家庭を築く。おじいちゃんになって、孫の顔を見て、それから、それから‥ああ、
なんて幸せで平凡な‥。っ、父さんも‥戻ってくるかな?、ランクが高いんだ。そうだよ。そうだ。父さんが望んだSランクなんだ!
っ、母さんもっ、喜んでくれるっ‥
また家族みんなで笑ってそんでっ、
はやく、伝えないとっ
また、普通の家族に戻れるんだっ!
「へい、ぼん!なる!」
俺はこれでもかってぐらい満面の笑みで穂柄にそう告げてやった。
「ぷはっ、いいじゃねえか。平凡になってこいよ。ほら、サツが来たらめんどい。さっさと行け。」
「う、ん!ほ、が、ら‥くん‥あり、がと!」
「‥」
そうだよ、俺なんかが魔王さんになにを聞くって言うんだ。この人に任せておけば、きっと全て変えてくれる!だから全部忘れて、凡人の俺は世の中の流れに身を任せて関わらない。平凡に穏やかに過ごすんだ!そうだ、Sランクっ!!Sランクになったんだ!!魔王さんにお礼を言いたかったけど、また機会があれば言えばいいよな?
魔王さんも、お元気で!
穂柄の背後でじっと見つめる灰色の瞳に心の中でそう告げて、俺は急いで病院を出る。
変わり果てた町。AIマザーの放送が、至る所に流れている。ランクが更新された。これからのランク制度について。そんな文字があちこちに飛び交う。だけど俺はそんな事には目も向けず復旧のトラックや自衛隊の車が車道を走る中、瓦礫だらけの道をこれでもかってぐらい走った。運良く辿り着いたのは病院前の地下鉄の入り口で。確認をすると奇跡的に最寄り駅までの電車が動いているらしい。ラッキーだなってウキウキしながら帰路を進む。
嫌なことも、苦しいことも沢山あった。でもそんなこと構わない。ゆっくり元に戻ればいいんだ。俺達ならできる。
俺のせいで引き離してしまった家族。今度は俺の手で‥
最寄りの駅まで辿り着くと地下鉄を降り、地上を歩く。被害は近所には及んでいないようで、いつもと変わらずの風景だ。
ボロいアパート。目の前に近づく茶色のドア。
ドキドキと高鳴る心臓の音が聞こえてくる。
植木鉢の下に隠してる鍵を出して、勢いよくドアを開けた。
運がいいのは続く。玄関に並べられた母さんの靴。いつも仕事でいないはずの母さんが今ここにいる。いつもはすれ違わないように、そのまま手前の自室へと向かうところを、母の部屋がある突き当たりまで一直線に足を進めた。
やっとだ。なんて言おう。喜ぶ?それとも感激して泣くとか?はは、昔の母さんならありえる!涙脆くて頼りないけど、いつも優しい人だった。俺が父さんに怒られた時は、落ち着くまでずっと慰めてくれた。記憶の奥底に眠っていた、優しく微笑む母さんの顔が鮮明に脳内へと蘇って来る。
母さん、聞いてくれよ。俺、俺さ!
ギィーーー。
「母、さ、!!俺っ!!Sランク、にっ、な、って‥、
‥母、さん‥?」
ギィ‥ギィーー。
戻りたかったんだ。戻れると思っんだ。
友人も、家族も、笑顔も、夢も、幸せも。
全部、取り戻せるって。
俺にも幸せになる権利があるんだって。
そう、思ったんだ。
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そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
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不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
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