20 / 69
二の罪状
和解
しおりを挟む
「タロウ、お待たせぇ」
買い物袋を手に声を上げて呼び掛けながら、店内から出てくる一人の少女の姿。
高校生位だろうか? さらさらの黒髪ショートがとても良く似合ってる、活発そうでとても可愛らしい少女だ。
「おっと。お迎えが来たようだ」
近付いて来る少女に向けて、よりいっそう尻尾を振って応えるゴールデンレトリバー。どうやらこの少女は彼の御主人らしい。
「ぶはっ! タロウだってよ、この図体で」
ジュウベエがその名のギャップに噴き出した。その失礼極まりなさに、幸人も頭を痛める。
「お前も対して変わらないだろ……ジュウベエ?」
「んなっ!」
すかさずちらりと瞳を向けたタロウが、的確な突っ込みを入れる。どうやら図星だった模様。ジュウベエは固まったまま反論出来ないでいる。
してやったりのタロウに、見事とでも言わんばかりに笑みを浮かべる幸人。
どうやらタロウの方が、ジュウベエより一枚上手の様だ。
「……うん? どうしたのタロウ?」
少女はタロウが向ける視線の先を追う。
そこには笑いを堪える表情の幸人と、その腕でだらしなく固まっているジュウベエの姿。
長身の白衣姿と黒猫の対比は、誰の目からも異質に見える。
「えっと、お医者さん……ですよね?」
少女はその対比に、少し警戒心を以て問い掛けていた。
幸人の白衣姿は一目瞭然。それでも確認を促すのは人の性だろう。
「ええ。近くの如月動物病院を経営しています」
その瞬間、少女の瞳が輝いた。
「あの評判の! どうしよどうしよ! ここで逢えて感激です。今度タロウを検診に連れて行こうと思ってたんですよ」
少女は頬を染めながら黄色い声を上げる。まるでアイドルにばったり出会ってしまったかの様なはしゃぎようだ。
評判の病院の獣医が、容姿端麗なら無理からぬ事。それは憧れに近い。
「何時でもいらしてくださいね。歓迎します」
幸人はとびっきりの笑顔を少女へ向ける。
「はい! 是非是非! きゃあ~」
その表情に裏は無いだろうが、向けられた笑顔に少女は一人で大騒ぎだ。
「ようロリコン。色男は辛いね」
「黙れジュウベエ」
腕の中のジュウベエは、クククと嫌味を向けるが、幸人は笑顔を崩さぬまま、誰にも聞こえない様に受け流す。
「アンタ医者だったのか。今度、御主人と一緒に伺わせて貰うよ。アンタの瞳は信用出来る」
タロウも少女と同感のようだ。犬で有るがゆえに、人の本質を正確に見抜くのだろう。
幸人は二人に近付き、タロウの頭を優しく撫でる。
「お待ちしております」
「へっ、来るんじゃねぇぞ」
それから少女とタロウは、必ず来る約束を交わし、その場を後にした。
「あぁやだやだ! あのデカブツめ」
二人の姿が見えなくなった後、ジュウベエは歓迎の意を示さない。
「そう言うな。お前も満更には見えなかったぞ」
「んな馬鹿なっ!」
動揺から明らかに図星だった。もしかしたら、この二人は良き喧嘩友達になるんじゃないかと、幸人は朧気ながらもそう思わざるを得なかった。
「さあ戻るぞ」
「まてまて有り得ねぇ!」
二人は開院の為、帰路に向かう。
それは穏やかな日の事。
そんな当たり前な日常があった日の事。
買い物袋を手に声を上げて呼び掛けながら、店内から出てくる一人の少女の姿。
高校生位だろうか? さらさらの黒髪ショートがとても良く似合ってる、活発そうでとても可愛らしい少女だ。
「おっと。お迎えが来たようだ」
近付いて来る少女に向けて、よりいっそう尻尾を振って応えるゴールデンレトリバー。どうやらこの少女は彼の御主人らしい。
「ぶはっ! タロウだってよ、この図体で」
ジュウベエがその名のギャップに噴き出した。その失礼極まりなさに、幸人も頭を痛める。
「お前も対して変わらないだろ……ジュウベエ?」
「んなっ!」
すかさずちらりと瞳を向けたタロウが、的確な突っ込みを入れる。どうやら図星だった模様。ジュウベエは固まったまま反論出来ないでいる。
してやったりのタロウに、見事とでも言わんばかりに笑みを浮かべる幸人。
どうやらタロウの方が、ジュウベエより一枚上手の様だ。
「……うん? どうしたのタロウ?」
少女はタロウが向ける視線の先を追う。
そこには笑いを堪える表情の幸人と、その腕でだらしなく固まっているジュウベエの姿。
長身の白衣姿と黒猫の対比は、誰の目からも異質に見える。
「えっと、お医者さん……ですよね?」
少女はその対比に、少し警戒心を以て問い掛けていた。
幸人の白衣姿は一目瞭然。それでも確認を促すのは人の性だろう。
「ええ。近くの如月動物病院を経営しています」
その瞬間、少女の瞳が輝いた。
「あの評判の! どうしよどうしよ! ここで逢えて感激です。今度タロウを検診に連れて行こうと思ってたんですよ」
少女は頬を染めながら黄色い声を上げる。まるでアイドルにばったり出会ってしまったかの様なはしゃぎようだ。
評判の病院の獣医が、容姿端麗なら無理からぬ事。それは憧れに近い。
「何時でもいらしてくださいね。歓迎します」
幸人はとびっきりの笑顔を少女へ向ける。
「はい! 是非是非! きゃあ~」
その表情に裏は無いだろうが、向けられた笑顔に少女は一人で大騒ぎだ。
「ようロリコン。色男は辛いね」
「黙れジュウベエ」
腕の中のジュウベエは、クククと嫌味を向けるが、幸人は笑顔を崩さぬまま、誰にも聞こえない様に受け流す。
「アンタ医者だったのか。今度、御主人と一緒に伺わせて貰うよ。アンタの瞳は信用出来る」
タロウも少女と同感のようだ。犬で有るがゆえに、人の本質を正確に見抜くのだろう。
幸人は二人に近付き、タロウの頭を優しく撫でる。
「お待ちしております」
「へっ、来るんじゃねぇぞ」
それから少女とタロウは、必ず来る約束を交わし、その場を後にした。
「あぁやだやだ! あのデカブツめ」
二人の姿が見えなくなった後、ジュウベエは歓迎の意を示さない。
「そう言うな。お前も満更には見えなかったぞ」
「んな馬鹿なっ!」
動揺から明らかに図星だった。もしかしたら、この二人は良き喧嘩友達になるんじゃないかと、幸人は朧気ながらもそう思わざるを得なかった。
「さあ戻るぞ」
「まてまて有り得ねぇ!」
二人は開院の為、帰路に向かう。
それは穏やかな日の事。
そんな当たり前な日常があった日の事。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる