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三の罪状

S級エリミネーター

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――旧校舎校長室前――


生物の存在を欠片も感じさせない夜の校舎内は、何時来ても不気味だ。誰も好き好んで、こんな場所に来たくはないだろう。


何故か此処では無口になる二人は、眼前の扉前に暫し立ち、そして意を決して扉を開き、内部へと脚を踏み入れた。


「…………」


途端に二人へと集まる、闇に光る幾多もの視線。


全貌が少しずつ顕になっていく。


既に其処には仲介人の琉月のみならず、八名もの人影が立ち竦んでいた。


その場に居る全員が、只者で無い事は明々白々。


「おぉ! A級以上が集まってんな」


ジュウベエの言葉通り、その場に居る者は皆、狂座の高位エリミネーター。


各々が私服とも云える普段着で赴き、ぱっと見は一般人。


裏の世界に身を置くとはいえ、表向きは一般の生活が有る。これは常人と何ら変わらない。


だが各々が共通しているのは――


“瞳が常人とは一線を画す”


それは闇に生きる者のみが持つ、鋭い仕事人気質の冷徹さだった。



「おっ! アイツは――」


ジュウベエがその中の一人に目を止めた。


「S級の『熾震(シン)』まで来てやがるぜ。流石にランクSは競争率高ぇな」


沈黙が支配する室内の中、ジュウベエの“ニャア”の声だけが響き渡る。


“S級エリミネーター”


狂座執行部門、最高位階に位置するその人物は、ジュウベエの言葉が聴こえた訳では無いだろうが、二人の下へ歩み寄って来た。


「まさかお主も来るとはな……」


その熾震とジュウベエがコードネームで呼んだ人物は、明らかにそれを幸人へと向けている。


「久しぶりだな……熾震」


お互い知り合いなのだろう。


彼は幸人を見下ろす形となって。


「この様な依頼に興味は無いと思っていたのだがな……」


幸人も百八十三センチと長身の部類に入るが、熾震は更に高い。百九十近く有るだろう。


黒革のライダースーツを全身に纏い、流れる様な腰まで届きそうな黒髪は、正にストリートロックミュージシャンを連想させる。


幸人より幾ばくか年上か、その逆三角形の体格は一分の隙さえ無く、見下ろす切れ長の瞳は冷徹そのもの。


正に熟練のエリミネーター。これぞS級の威厳。


S級とSS級の二人の対峙に、周りが張り詰めていく。


「…………」


「ちっ……」


両者は彼等にとって、正に雲の上的存在。


だが何時か自分もその領域へ。


A級の者達にとって、今回の依頼はまたと無いチャンス。


“請けるのは自分だ”


依頼に位階級は関係無い。


「SS級のお主といえど、今回の依頼は簡単には譲れない」


熾震のそれは幸人に対する対抗心もとい、プライドの顕れか?


「俺は話を聞きに来ただけだ。好きにしろ」


だが幸人はやはり、あまり今回は乗り気では無い。


「オイオイ幸人……。お前何しに来たんだよ……」


ジュウベエは呆れ顔で溜め息だ。


今回は出番は無いだろう事は薄々感じてはいたが、このマイぺースもとい変人ぶりに。
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