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三の罪状

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「ああ雫さん、少し御待ちになってください」


室内から出ていこうとした矢先、琉月に呼び止められ振り返る幸人。


もう此処に用は無いはずだ。


「あれ? 何だ、お前居たのか?」


時雨が今更気付いたかの様に、幸人へ視線を向ける。


白々しいとはこの事。


「お前の出番は無いから、さっさと帰れよ」


まるで追い払うかの様な手のジェスチャー。


同じSS級とはいえ、両者は朗らかな間柄ではなさそうだ。


「相変わらずだな、お前」


その口調は穏やかではない。


時雨へと向ける幸人の睨みに近い、鋭い視線がそれを物語っていた。


「仲悪いのかアイツと?」


ジュウベエも二人の間柄は知らないが、答は聞くまでもないみたいだ。


そんな険悪な雰囲気を打ち破る――


「今回のランクS依頼、貴方には彼の“介添え役”を勤めて頂きたいのです」


空気を読まない琉月の提案に、両者唖然。


「「――はあぁ!?」」


ほぼ二人同時に声を上げており、まるでステレオ気分だ。


“介添え役”


またを見届け役。


依頼執行には、それぞれの内容によっては、介添え役が必要な場合がある。


特に危険と判断された依頼に多い(特にランクS以上は必須に近い)


基本的に消去執行は、依頼を請けたエリミネーターが一人で行うのが原則。


だが執行中、不慮の事故で死亡した場合、代わりに引き継ぎ遂行するのが、この介添え役の役目だ。


介添え役は基本S級以上のベテランが、通常依頼とは別の特別依頼として本部より依頼される(勿論介添え役に依頼金の配偶は無いが、その際は別に本部より特別手当てが支払われる)


執行中のエリミネーターが死亡しなければ、介添え役が出張る必要は無い。


動くのはあくまで、執行者死亡の緊急事態時のみ。


それ以外は一切の手出し、協力、介入は不可である。


「えぇっ! 冗談でしょ琉月ちゃん? 俺には必要無いよそんなの」


余程信じられないのか、時雨は拒絶反応を示していた。


「しかもコイツになんて……」


というより、幸人との同伴に対してだ。


あからさまな嫌悪感。


「俺も同感だな」


それは幸人も同じ。珍しく嫌悪感を顕にしている。


「まあまあ御二人方、そう仰らずに。御二人の実力は折紙付き。ですがランクSに於ける万が一を想定し、万全を期さねばなりません」


琉月のそれは念には念を入れて。


「俺に万が一なんて無いって!」


時雨の自信と言い分はもっともだ。


過去、SS級がランクS依頼失敗の事例は無い。


「それは充分理解してますが、これも規約ですから……」


だが彼女も退かない。どうしても二人を赴きさせたいらしい。


「では時雨さん、これを呑んで頂ければ、プライベートでのお付き合いを致しますが、如何ですか?」


「えっ!?」


彼女のプライベートでの餌を提案に、時雨の顔色が変わる。


「うん、そうか……それもそうだね。他ならぬ琉月ちゃんの頼みだし」


急に鼻の下を伸ばして、あっさり受け入れていた。


「では、お願いしますね」


仮面の為、顔色は分からないが、明らかに声色が変わっている。


「任せといて! 約束忘れちゃ嫌よ」


単純なまでに、すっかりやる気満々な時雨だが――


「オイ! 何を勝手に――」


当然幸人は反発。まだ同意した訳ではない上、勝手に話を進めた二人に対する怒号。


「まあまあ――」


そんな幸人に時雨は肩掛けし、そっと耳打ちする。


「……お前、琉月ちゃんに恥かかせる気かよ? 時間が惜しいからさっさと行くぞ」


「ぐっ!」


かなり強引ともいえる時雨。


本当に早く終わらせたいらしい。


突き動かすのは琉月との情事なのか、幸人の意向等全く御構い無しだ。


「と言う事で、雫君は快く引き請けてくれるそうです」


勿論これは時雨の勝手な解釈だが、彼はそう振り返りながら琉月にとびっきりの笑顔を見せる。


「本当にありがとうございます。無理言ってしまいまして申し訳ありませんね雫さん」


いつの間にか二人のぺースに乗せられてしまった感のある幸人。


「クク、お前の負けだな幸人。まあアイツの力も見てみたいし、このまま帰っても無駄足だからいいじゃねえか」


それの一部始終を横で眺めていたジュウベエも、この介添え役に賛成する。


協力ではないが、SS級二人でランクS依頼に赴く。


これにはジュウベエも興味があった。


「はぁ……分かった分かった。引き請けよう」


折れたかの様に介添え役を引き請ける幸人。


時雨が死にさえしなければ、傍観してるだけでいい、ある意味楽な役目だ。


「では琉月ちゃん行ってきまぁす! すぐに終わらせくるから待っててね」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


見送る琉月を背に、二人と一匹は室内を後にする。


「SS級の二人が協力……。夢の共演ですね」


そんな琉月の思惑の呟きは、既に二人には聞こえていなかったのは言うまでもない。
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