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四の罪状
御願い
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「何の用だ? 裏と表は介入不可は知っているはず……。依頼なら狂座ネットワークを通じてからにしろ」
通常の経路を通さない琉月の“それ”に、幸人の機嫌はすこぶる悪い。只でさえ本日は気が滅入っている時にこれだ。
『いえいえ、今回個人的に電話をお掛けしたのは、通常の依頼とは少しばかり勝手が違うのですよ』
「……どういう意味だ?」
幸人はその真意を図りかねている。
つまり琉月のそれは、依頼とは別用件という意味なのか。
『これはSS級であるのみならず、如月幸人さん“個人”としてへの御願いですかね? 詳しい事は仲介室でお話致します。では今夜、何時もの場所でお待ちしておりますね』
「オイ! 何を勝手に――」
“雫としてのみならず、個人的にだと?”
疑惑を感じる間も無く、通話は有無を言わせず打ち切られていた。
それは赴くかどうかの選択肢は無く、必ず来てくれとも取れる。
「何の電話だったんだ?」
怪訝そうに携帯片手に固まっている幸人へ、ジュウベエも興味津々。
幸人の口調から狂座からの電話である事は分かったが、依頼とは異なる内容、その真意が気になるのだ。
「仲介人から、俺に個人的に用がある……だとよ」
「おおっ! あの表は超美人らしい仮面女からか! こりゃあアレだな、深夜の逢瀬の御誘い」
猫らしからぬ、恋愛ドラマの見過ぎ感のある御都合展開思考だが、個人的にと言う事でジュウベエは茶化さずにはいられない。
「いやぁ、お前にも遂に春が来たか。アイツといい、ライバルは多そうだけどな、ククク」
「そんな訳有るか! そもそも興味が無い……」
変な方向に囃し立てるジュウベエへ、不満の意を述べる幸人だが――
「いや分かんねえぞぉ。彼女も満更ではないかもしれん。まあロリコンのお前には、彼女はちょっと年増かも知れんが」
「んなっ!?」
ジュウベエは止まらない。幸人の性癖まで暴露した感がある。
“ロリコン”
それが定かではないし冗談だろうが、幸人は図星でも突かれたかのように固まってしまった。
「なっ……何を馬鹿なっ!?」
どもった口調から幸人は明らかに焦っている。
「ククク、隠してもバレバレなんだよ」
「こいつ!」
尚も囃し立てるジュウベエに、幸人は首根っこを掴もうと手を伸ばすが――
「焦りで動きが鈍ってるぜ?」
ジュウベエはその俊敏な動きで楽にかわし、逆に幸人の背後を取った。
「まあ気持ちは分かるがよ……。いい加減自分の幸せにも目を向けな。人として……」
それは説教では無い。長々と共にした主人だからこその。
「もう……報われる事があってもいいんじゃねえのか?」
“幸人は未だに縛られ続けている”
それはエリミネーターとして、“あの日”以来己に課した誓約。
このままで良いはずがない。主人には人としての幸せを掴んで欲しいのだ。
だが幸人は振り返る事もないまま、ただ項垂れるように固まっている。
「――何を馬鹿な事を……。悪が報われる必要は無い。それがエリミネーターの道を自ら選んだ者の掟、例外の無い業……」
そして独り言のように呟くそれは、ジュウベエの気持ちが分かっていながらも曲げられぬ――
“哀しいまでの信念の証”
どんな綺麗事や大義名分を飾っても、エリミネーターは悪であり、許されざる人殺し集団である事に変わりはない。
「やれやれ……」
答は分かっていた。
ジュウベエはやりきれない溜め息を吐きながらも、幸人の左肩へと飛び乗る。
「とりあえず行くぞ」
それは仲介所への斡旋。
「いや、俺は……」
「返事はイエッサー、オッケー? まあ話聞いてみるだけでもいいじゃねえか(面白そうだし)」
渋る感のある幸人へ有無を言わせぬジュウベエ。
返事こそ無かったが、幸人はドアへと向けて動き出す。
「よっしゃ! さあ行くぜ、新たなる世界へ」
「…………」
ジュウベエのみじゃない。幸人もまた、これまでに無い何か新たな事が開かれる、ある予感がしていたのだ。
渋りながらも結局突き動かすのは、無意識なるそれか?
二人は何時も通り赴く。
琉月の待つ、闇の仲介所へ――
通常の経路を通さない琉月の“それ”に、幸人の機嫌はすこぶる悪い。只でさえ本日は気が滅入っている時にこれだ。
『いえいえ、今回個人的に電話をお掛けしたのは、通常の依頼とは少しばかり勝手が違うのですよ』
「……どういう意味だ?」
幸人はその真意を図りかねている。
つまり琉月のそれは、依頼とは別用件という意味なのか。
『これはSS級であるのみならず、如月幸人さん“個人”としてへの御願いですかね? 詳しい事は仲介室でお話致します。では今夜、何時もの場所でお待ちしておりますね』
「オイ! 何を勝手に――」
“雫としてのみならず、個人的にだと?”
疑惑を感じる間も無く、通話は有無を言わせず打ち切られていた。
それは赴くかどうかの選択肢は無く、必ず来てくれとも取れる。
「何の電話だったんだ?」
怪訝そうに携帯片手に固まっている幸人へ、ジュウベエも興味津々。
幸人の口調から狂座からの電話である事は分かったが、依頼とは異なる内容、その真意が気になるのだ。
「仲介人から、俺に個人的に用がある……だとよ」
「おおっ! あの表は超美人らしい仮面女からか! こりゃあアレだな、深夜の逢瀬の御誘い」
猫らしからぬ、恋愛ドラマの見過ぎ感のある御都合展開思考だが、個人的にと言う事でジュウベエは茶化さずにはいられない。
「いやぁ、お前にも遂に春が来たか。アイツといい、ライバルは多そうだけどな、ククク」
「そんな訳有るか! そもそも興味が無い……」
変な方向に囃し立てるジュウベエへ、不満の意を述べる幸人だが――
「いや分かんねえぞぉ。彼女も満更ではないかもしれん。まあロリコンのお前には、彼女はちょっと年増かも知れんが」
「んなっ!?」
ジュウベエは止まらない。幸人の性癖まで暴露した感がある。
“ロリコン”
それが定かではないし冗談だろうが、幸人は図星でも突かれたかのように固まってしまった。
「なっ……何を馬鹿なっ!?」
どもった口調から幸人は明らかに焦っている。
「ククク、隠してもバレバレなんだよ」
「こいつ!」
尚も囃し立てるジュウベエに、幸人は首根っこを掴もうと手を伸ばすが――
「焦りで動きが鈍ってるぜ?」
ジュウベエはその俊敏な動きで楽にかわし、逆に幸人の背後を取った。
「まあ気持ちは分かるがよ……。いい加減自分の幸せにも目を向けな。人として……」
それは説教では無い。長々と共にした主人だからこその。
「もう……報われる事があってもいいんじゃねえのか?」
“幸人は未だに縛られ続けている”
それはエリミネーターとして、“あの日”以来己に課した誓約。
このままで良いはずがない。主人には人としての幸せを掴んで欲しいのだ。
だが幸人は振り返る事もないまま、ただ項垂れるように固まっている。
「――何を馬鹿な事を……。悪が報われる必要は無い。それがエリミネーターの道を自ら選んだ者の掟、例外の無い業……」
そして独り言のように呟くそれは、ジュウベエの気持ちが分かっていながらも曲げられぬ――
“哀しいまでの信念の証”
どんな綺麗事や大義名分を飾っても、エリミネーターは悪であり、許されざる人殺し集団である事に変わりはない。
「やれやれ……」
答は分かっていた。
ジュウベエはやりきれない溜め息を吐きながらも、幸人の左肩へと飛び乗る。
「とりあえず行くぞ」
それは仲介所への斡旋。
「いや、俺は……」
「返事はイエッサー、オッケー? まあ話聞いてみるだけでもいいじゃねえか(面白そうだし)」
渋る感のある幸人へ有無を言わせぬジュウベエ。
返事こそ無かったが、幸人はドアへと向けて動き出す。
「よっしゃ! さあ行くぜ、新たなる世界へ」
「…………」
ジュウベエのみじゃない。幸人もまた、これまでに無い何か新たな事が開かれる、ある予感がしていたのだ。
渋りながらも結局突き動かすのは、無意識なるそれか?
二人は何時も通り赴く。
琉月の待つ、闇の仲介所へ――
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