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第1章 邂逅
一話 白き刀と少年
しおりを挟む木漏れ日が射す事さえ少ない、辺りは深い針葉樹林。
「はぁ……」
不意に洩らした吐息は、白く漂い消えていく。
この時期のこの地方は特に冷え込み始める。
霜月から師走へ。もうすぐ辺り一面が、白銀世界へ覆われる事だろう。
「異常は無し……と」
明朝見廻りに来てから半刻(約一時間)。それは“現在”は異常が無い事を意味した。
だけど油断は出来ない。
“今は良くても明日は?”
先の事は分からないし、考えても最善の策は浮かばない。
次の瞬間、今が崩壊する事も有り得る。
ただ、確実に危機が迫っている事は確かだ。
もう少しとの葛藤の狭間で、踵を返そうとしたその時だった。
「……あれは!」
視界の先に風景に溶け込まない、違和感なる“何か”が映ったのが見えたのは。
「まさか?」
いつでも対応出来る様、手に持った短刀の鯉口を切ったまま、警戒を以てゆっくりとその違和感に近付いていく。
その違和感に思わず目を疑った。
「……子供?」
木陰に寄り添う様に倒れていたのは、小さき人の姿。
白い着流しを身に纏うその姿は、雪の様に白い肌と相まって、まるでこの世とは別離された幽体の様な。
それでいて儚げなまでに消え入りそうな美しさに、暫し魅入られている事に気付く。
「――はっ!」
一瞬我を失っていたが、流れる様な黒髪と幼い顔の造りが、間違いなく人である事を再認識させた。
その姿を見渡して更に目を見張ったのが、足首が赤黒く変色した咬痕と、左手に握り締められている、幼きその姿が持つには余りに不釣り合いな――
「これって……刀?」
鞘から柄に至るまで白を象徴する、一振りの日本刀だった。
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