上 下
31 / 99
第5章 仮初めの日常

七話 襲来

しおりを挟む
“ーーやっと辿り着いたぞ。奇襲の予定だったがそうもいくまい……”


ガイラは余りにも堂々と侵入した為、既に村は大変な騒ぎになっていた。


騒ぎを嗅きつけて、一人の男が刀を構えてガイラと対峙する。


「貴様! 狂座の手の者か!?」


“コイツがシオンを?”


ガイラはサーモを目の前の男に向けて、測定と表示がある赤いボタンを押す。


瞬時に侍レベルが数値化される。


“ーー侍レベル『36%』……。どんな油断が有ったにせよ、少なくともコイツじゃ無いな……”


師団長は少なくとも、侍レベル『70%』以上の者が兼任している。


勿論レベルだけが全ての判断材料では無い。


能力や戦略、もしくは相性によって、多少のレベル差は埋められる。


とはいえ、ものの倍ものレベルの開きは、とても埋められるものでは無い。


猫はライオンには勝てない、と云った表現が分かり易いだろう。


狂座第十二遊撃師団長ガイラの侍レベルは『79%』だからだ。


“ーーまあいい……”


ガイラは身に纏っていた黒い装束を脱ぎ捨てる。


“どんな弱者であろうが、ここに居る者は皆殺しにするだけだ!”


長身で筋肉質、その太い二の腕が武闘派をイメージさせる。


ガイラは武器らしき物を所有している様に見えなかった。


“ーー無刀だと? いや、狂座はどんな武器を隠し持っているか分からん……”


刀を構えていた男、リュウカはそう思考しながら間合いを詰め、一気に斬り掛かった。


“丸腰でどう刀を防ぐ?”


ガイラは右手を振り翳された刃に向かって伸ばす。


これでは手が斬り裂かれるだろう。


刃と手の平が激突した刹那ーー手が斬り裂かれる処か、まるで鋼鉄にでもぶつけたかの様に、刀は脆くも物打ちから二つに割れる。


そしてそのまま、振り下ろし直後のリュウカの右腕を引きちぎったのだった。


「ぐああああぁぁぁ!!!」


リュウカは突然自分の右肩から下が無くなった感覚と、それに続く激痛に絶叫した。


右肩からは壊れた水道管の様に、血が滝の様に勢いよく噴出し続ける。


「脆いな……」


ガイラは引きちぎった右腕を、無造作に横に放り捨てた。


リュウカは右肩を左手で押さ、激痛で地面をのたうち回る。


「父上ぇ~!」


近くで見ていたリュウカの娘らしき少女の、涙声が木霊する。


「放っておいても死ぬだろうが……今死ね」


ガイラは地面に倒れたリュウカに、右手を振り上げ止めを刺そうとした。


ーーその時だった。


ある人影が疾風の如く、ガイラへと斬り掛かってきたのだ。


「ぐっ!?」


その速さにガイラは思わず、止めを刺そうとした右手を防御に回す。


右腕に刀がぶつかり、そのままその人影を捕らえようとするも、瞬時に身を引かれる。


その人影は小太刀を構えたアミだった。
しおりを挟む

処理中です...