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第5章 仮初めの日常

十話 介錯

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ーーガイラ撃退後。リュウカが運び込まれた部屋内では、皆による必死の治療が行われていた。


症状はかなり危険な状態にある。


右肩から下が無残に無くなっており、断面からは血が止まらず、手の施し様の無い状況だったから。


刃物で綺麗に切断されたのとは訳が違う。力で無理矢理引きちぎられている為、細胞は潰れ壊死している。


既にリュウカの顔色は紫色に変色していた。


“ーー酷い……”


“もう駄目かもしれない……”


誰もがそう感じても、それでも必死の手当ては続けられていく。


「父上ぇ~やだ、死んじゃやだぁ~!」


娘はリュウカに縋り付く様に泣いていた。それはとても痛ましい光景だった。


その場に駆けつけた長老は、自分の無力さに歯ぎしりしながら思う。


“ーーこういう時、キリトがいてくれたら……”


と、自分の無力さを呪うしかなかった。


「俺は……もう助からん……」


リュウカは吐血しながらも、必死で最後の言葉を紡ぎ出す。


「だがこの子だけは! ミイだけは……頼む」


それは幼き愛娘が、自分がいなくなった後の事を託す意味での。


リュウカの一人娘である幼きミイは、いやいやと泣き叫ぶ。


そんなミイをアミは後ろから抱きしめていた。


“ーー私はなんて無力なんだろう……。ミイ、ごめんね……”


アミは不意に涙が出てくる。


自分の無力さと哀しみーー


様々な想いが交錯していた。


「た、頼む。もう……楽にしてくれないか?」


リュウカはそうアミに懇願する。


どうせ助からぬ命。なら一思いにとどめを刺してくれという願いだった。


「やだアミお姉ちゃん、父上を殺さないで!」


ミイはアミに涙ながらに訴えかける。


勿論、そんな事する訳が無い。なんとしても助けてみせるーーと。


「茶番ですね……」


その顛末を黙って見ていた銀色のままのユキは、そう誰にも聞こえる事なく呟き、部屋をそっと出るのであった。


リュウカの吐血と肩からの失血は止まらない。いよいよ最期の時を迎えようとしていた。


誰もが悲観していたその時、部屋の障子がすっと開けられる。


「どいてください」


周りの誰もがそれを見て、目をぎょっとさせる。


ユキがその右手に、既に血が凝固し土色に変色した腕を持って佇んでいたからだ。


ユキはリュウカに向かって歩を進める。


「こんなにも苦しいのなら、早く楽にしてあげるべきですよ」


“ーーまさか……止めを刺す気か!?”


“こいつには血も涙も無いのか?”


誰もがそう思った中、リュウカだけは安堵の笑みを見せた。


「頼む……」


リュウカは、無機質な銀色の眼で自分を見据えているユキに呟いた。これで楽になれるーーと。


「ユキ!? やめてぇ!!」


“ーーユキ、人の心まで失わないで!”


アミは彼に辞めるよう叫ぶが、その声は届かぬかの様にリュウカの傍らに腰を落とす。


そしてその腕を、無くなったリュウカの右肩に添えるのだった。
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