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第6章 溶ける氷

十三話 この世に存在してはならない者

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過去の映像はここで終わり、アミの視界は白い光に包まれ元の世界へと帰還する。


“こんな事って……”


現実世界に戻ってもアミは立ち竦み、暫く動く事が出来なかった。


ただ、瞳からはとめどなく涙が溢れて出し、頬を伝う。


過去見の精霊の力で、ユキの過去を知る。


後悔はしないつもりだった。


それでも、あまりにも凄絶過ぎて、まだ現実を直視出来そうも無い。


ただ、あまりにも哀しかった。


「見たのですね……」


アミは声がした方を振り返る。


そこには、深い銀色の瞳でアミを見据えるユキが立ち竦んでいた。


偽装していない、特異点としての姿となって。


「ユキ……」


アミには彼に掛ける言葉が見つからなかった。


どんな言葉も、ただの偽善でしかない。


「隠していた訳でもありませんが……。何故か貴女にだけは知られたくはなかった……」


ユキはそうーー何処か哀しそうな表情で。


その瞬間、周りの空気が変わる。温度が低温へと変わっていく。


「死んで……貰います」


アミはユキに手を伸ばそうとしたが、そこから凍りついていく。


アミの手は凍傷によって感覚が無くなっていった。


“きっとこのまま、私はユキに殺されるのだろう”


それでも私はーー


“私は!!”


アミは凍りついた手でそれでもーー


それでもきつく、ユキを抱きしめるのだった。


「なっ……何をやっているんですか貴女は!?」


アミの思いがけぬ行動に、ユキは目を見開いて驚くしかない。


「私は……貴女を殺そうとしているんですよ?」


逃げるのではなく、抱きしめる。


その行動原理は、彼の理解を越えていた。


その手は凍傷により壊死しかねない程なのに、それでもアミは離す事無くユキを抱きしめ続ける。


「それだけじゃない。私はこれまで多くの命を奪ってきた」


ユキは尚も続ける。


「父親も母親も、弟までもこの手で殺した、この世に存在してはいけない存在」


ユキの紡ぎ出す、重い言葉にアミは涙が止まらない。


「私には生きている価値も無いんです! 殺される事も顧みず、何故逃げずに抱きしめたりするんですか!?」
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