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愛憎

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〔カイゼルside〕

弟とは決して仲が悪くはなかった。
母親は違うけれど、たった一人しかいない兄弟であるデリクを
可愛がっていた。奴も俺を本当の兄のように慕ってくれていたと思う。
俺が長身でまさに男という感じなのに対し、父を魅了し側室にまで
上り詰めた妾の子であるデリクは、細身で女のような整った顔立ち。
俺は特別に気にしているいなかったが、自分の見た目や血を、
デリクは気にしているようだった。
そんな奴は、ある時からあまり笑わなくなった。
いつもより気力がないように思えて、なにか悩みでもある
のかと気にかけていたが、なんでもないとかわされてしまう。
それでも、デリクといるのは楽しかった。
あの日までは。
ある日、当時の女の使用人が部屋でこう話しかけてきた。

「王妃様のの容体はより悪化しています」

「そうか…」

「すべてあの女のせいです…」

あの女とは、デリクの母親で父の側室になった女のことを指す。
その使用人は長らく母に仕えてきた者だった。母に対する
思いが強いのか、女は拳を握りしめてそう言い放った。

「…やめろ、そんなことを言うな」

「そんな!あの女が王様に取り入ってから、王妃様は
 酷く気を病まれてしまったのです!全てそのせいでっ…」

「…」

「カイゼル様も悔しい思いをされていますでしょう?」

普段ならそう言い寄られても決して本音を出さない。
けれど、まだ考えが幼かった俺はこうこぼしてしまった。
その場の雰囲気に流されて、何気なく言い放ってしまった。

「…デリクは本当の弟だと思っている。けれど、」

今思えば、全てを壊した言葉。

「アイツの顔をみると、あの女の面影を感じて憎いのだ」

突如部屋の外からガタンッと音がした。振り返ると部屋の扉が
少し開いていた。慌てて外に出ると部屋の前には籠に入った果物が落ちていた。
そしてその籠に添えられていたのは、デリクが使っていたナイフだった。
聞かれてしまった。その言葉が頭に浮かんだ。
みるみる血の気が引いていく。今すぐ追いかけて本心ではない
と言うべきか。しばらく考えがまとまらず、女に一度部屋に
入るよう促される。そこからは何をしていたかあまり覚えていない。
気が気でなかった。しばらくすると、突然外から女の悲鳴が聞こえた。
女が「デリク様!おやめください!」と叫んでいるのがわかった途端、
部屋を飛び出しデリクの部屋へ向かった。部屋に駆けつけて目にした
光景は今でもこの目に焼き付いている。
そこには、止める使用人を振り払うようにしてハサミを握りしめるデリクがいた。
小さい頃から伸ばした綺麗な黒髪が、辺り一面に散らばっていた。

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