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切望
しおりを挟む〔カイゼルside〕
しばらくするとデリクは目を覚ました。健康状態にも問題はなく、
容体がおかしくなったのはパニックによるものだとされた。
「デリク様はお帰りになられて以来、気が小さくなられて
しまったようです。あまり刺激のある生活はお体に障るかと」
王医はこう話した。確かに帰ってきてから、以前のような当たりの
キツい態度は一度も見ていない。間者に襲われてパニックになるのも
無理はない。あの後間者を捕らえて目的を吐かせると、デリクを恨んで
の犯行であることがわかった。その男はカタストロフで妻と息子を
亡くしたと言う。帰る家もなく彷徨っていると、シュワルツとサーニャ
が城に向かう途中にデリクが生きていると話しているのを聞き、後を
つけてきたとのことだった。なんにせよ、城の警備を強化する必要がある。
「兄上」
後ろから心許ない声が聞こえた。デリクは身体を起こすと、辺りを見回す。
「無理して起きるな、まだ寝ていろ」
「先程の人は…?」
「先程の?」
「その…私を助けてくれた…」
「シュワルツか、以前も会ったはずだ。心配するな、
あいつは俺の古い友人だ。危ない奴じゃない」
「シュワルツ様…」
デリクはうつむくと空虚を見つめている。驚いた。シュワルツ
を卑しいと言って毛嫌いしていたデリクが、様をつけるなんて
信じられないことだった。記憶がないだけでここまで変わる
とは、と改めて感慨深くなる。けれど、シュワルツは負けず嫌いで
やられたらやり返す人間なので、デリクが下手に出るとなれば
何をしでかすか分からない。今はそれだけが心配だ。
だから先程デリクを抱えてきた時は安心した。
放置されないだけましだ。けれどシュワルツはデリクに酷く
関心を持っているようなので油断は出来ない。
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