君たちが贈る明日へ

プロローグ

プロローグ

　木造建ての一軒家に住む血の繋がった人間のことを、人は家族と呼ぶ。
　同じ机で同じものを食し、共に寝、ときには喧嘩もする。
　一日の大半を学校や職場で過ごす人間が、半日も顔を会わせない人間のことを父と呼び、母と呼び、兄弟姉妹と呼ぶ。
　
　誰よりも濃く流れる赤い血流が、個別であるはずの人間を〝家族〟と呼んでは大切にする。
　心も体も別々であるはずなのに、太古の昔から存在していたというように、確固たる絆を結んでいるのだ。

〝別の人間〟なのに、遺伝子レベルの話になると〝他人〟にはならない。
〝他人〟であっても何かしらの共通認識を持ち、何かしらの絆が生まれると、これもまた〝赤の他人〟ではなくなるらしい。
　不確かなものを嫌う人間がいかにも考えそうな関係性である。
　親子、夫婦、恋人、友人。どれも個々の存在が形成するコミュニティーの一つであり、それらに属すことで人は安心を得られるのだ。

　一人なのに独りではない。

　そうして膨れ上がる和の中で、〝人〟は呼吸をして死んでいくのだ。
　では、何者かもわからない、

　俺は……
　僕は……
　私は……

　どこで息をしていけばいいのだろう――。