約束の君-Five bonds-

霜月秋穂

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1章《始まりの音》

7話:乱れた旋律

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夜は明け合宿初日を迎えた。
学校まではいつも通り電車で移動して学校から合宿所まではバスで移動するとの事だった。
楽器の搬送もしなくてはならないので中々の大仕事になる。
私はいつもの様に支度をして駅に向った。
合宿の荷物がある分いつもより大荷物だったが何とかコンパクトに纏める事が出来たはず……なのだが……

「お…重い……荷物はコンパクトでも重さはコンパクトにならないんだよね……」


重さだけはどうする事も出来なかった。私は緑のチェック柄のキャリーを引きながら駅まで移動した。
夏休みなだけあって学生が少ない分少しは電車も空いていた。
私は電車で高校のある駅まで移動した。
駅に着くとまだ早い時間なのに翔馬達が来ていた。私は驚いたが改札を出ると皆の所へ向った。

「おはよう、まだ早い時間なのにどうしたの?」

「どうしたのって、見送り。」

「あはは、羽月ちゃんって天然?オレたちが夏休みなのにこんな朝早くから5人で散歩でもしてると思った?」

私と翔馬のやり取りを見ていた岳瑠くんに笑いなが突っ込みをされると少し恥ずかしくなったが私はお礼を言った。

「あ、ありがと………みんな。」

「遅刻すんぞ。」

「え?あ、ちょっと!翔馬!荷物ぐらい自分で持てるから!」

私がお礼を言うと翔馬が勝手に私の荷物を引いて歩き始めたのだった。
私は申し訳ないと思い慌てて荷物を取り上げ歩いた。
翔馬は何処か不満そうだったがそこまで甘えるわけには行かないので気にせず高校まで歩き続けた。

「笑える……翔馬見事に振られたな~?」

「風舞さん、余計な事を言うと後で痛い目に合いますよ?まあ、私も神峡さんはちょっと天観さんに甘いのではないかと思っていましたが……」

「ちょっと、二人とも、翔馬は今不機嫌だから余計な事言うと……」

「龍慈、拓弥、雅哉、後で話が有るからな。」

「えっ?俺は二人に忠告しただけだよな!?なんで俺まで……」

「連帯責任だ。」

私が歩いている後ろでそんな会話が聞こえると私はクスッと笑ってしまい、さっきまでの緊張感が嘘の様に晴れていくのを感じた。
私は心の中で皆に“ありがとう”と呟いた。
暫く歩くと高校に着いた。
門の外にはすでに移動用のバスが止まっていた。

「あっ、もうバス来てる!早く音楽室行かないと!ごめん!みんな、今日はわざわざ来てくれてありがとね!」

バスを見付けると私は皆にお礼を言い、集合場所の音楽室へ走った。
皆は門の所で手を振り見送ってくれた。
私は音楽室に着くと吹奏楽のメンバーと一週間の日程や持ち物確認等をして、楽器の積み込み作業等を済ませた。
そして出発の時間になりバスに乗ろうとした時だった、私は後ろからいきなり声を掛けられた。

「羽月!頑張れよ!失敗を恐れんなよ!」

「えっ!?翔馬!?それにみんなも!?」

出発まで少し時間が有ったにも関わら翔馬達が待っていてくれたのだった。

「羽月ちゃんファイト!」

「あんまり緊張せず気楽にね!」

「実りある合宿にしてきて下さいよ。」

「頑張ったらまた俺様がミルクティー奢ってやるぜ!」

「みんな……うん!ありがとう!頑張ってくるね!」

私は満面の笑顔で皆にお礼を言うとバスに乗り込んだ。
こんな調子で翔馬達は普段から良く吹奏楽部の部室まで来たりしていたので吹奏楽部の人達も見慣れた光景だったせいか最近は驚きもしなくなっていた。
最初の頃は吹奏楽部の人達も驚いて居たり私に翔馬達とはどんな関係なのかを聞いてきたりする人も居たが友達と分れば理解してくれた。
翔馬達はバスが走り去るまで見送ってくれていた。
合宿で一週間も皆の顔が見れなくなるのは少し寂しい気もするが今はコンクールの練習に集中しなければならないと私は自分の心に言い聞かせた。

「合宿……頑張らないと。」

バスは2時間ぐらい走って合宿所に着いた。
合宿所は騒音等の理由で山の中に有った。
山の中なら周りに家もなく迷惑をかける必要もないので気を使わず練習が出来るのと周りが静かな方が集中力も上がるからとの事らしい。
この合宿所は学校が所有している建物で夏休みになると色々な部活が合宿所を利用するとの事だった。
そのため、施設はかなり広い作りになっていた。
テニスコート、プールはもちろん、運動場、体育館と、まるでもう一つの学校の様だった。

私は合宿所に到着すると荷物を部屋に運んだ。
部屋は基本学年と性別ごとに別れて居て1年の吹奏楽部の女子は私を含め5人だった。

「ふぅ…荷物はこれで全部かな?」

荷物の移動が終ると早速、練習開始。
お昼の時間まで私は一生懸命に練習した。
失敗を恐れずと言う言葉を心に刻み納得行かない部分を何度もフルートで演奏した。
そしてお昼は食堂で2種類のうち1種類のランチを選んで食べなくてはいけなかったため私はハンバーグの方のランチを選んだ。
昼食を済ませると少し休んでから再び夕方まで練習だった。
お昼の休み時間は少しだけ施設の中を散策した。

「広い……迷子になりそう……」

「ふふっ、天観さんは方向音痴なんですか?ちゃんと階段の所には施設の案内板が有りましたよ?迷った時は階段に行くと良いと思いますよ?」

私は同じ1年で翔馬と同じ1組の女の子の星湖 彩綾夏(ほしみず さやか)ちゃんと言う子と一緒に施設の中を歩いていた。
星湖さんは穏やかで品のあるお嬢様と言う感じの女の子だった、髪も細かいパーマの掛かった長い綺麗な金色の髪でアメリカ人のお母さんと日本人のお父さんのハーフらしい、星湖さんのお父さんは有名な音楽プロデューサーだったので私は色々教えてもらいたい気持ちも有り、同じフルート担当でもある星湖さんとは仲良くさせてもらっていた。

「あ、あはは……そ、そうだね。そうするよ……」

「天観さん、今日は少しフルートの音の感じが良くなってましたね?何か吹っ切れたみたいな感じで堂々としていてとても良かったと思います。」

「え?そ、そうかな?ありがとう星湖さん!でも、星湖さんは私と違って最初から全然乱れず安定して吹けてて羨ましいな……」

「そうですか?ありがとうございます。でも私も天観さんが羨ましいです。いつも気に掛けてくれるお友達が多くて……」

「え?」

「ふふっ、ごめんなさい。今のは気にしないで下さいね?ほら、もうすぐ午後の練習が始まりますよ!」

私は星湖さんに突然羨ましいと言われ驚くも、そんな私の姿を見た星湖さんはクスッと笑い話しを終わらせてしまった。
私は星湖さんの話の意味が理解出来なかったが、時間も時間だったので聞く暇もなく急いで吹奏楽の練習場へ向った。
吹奏楽部の練習は夕方まで続き、夕飯を済ませたら暫くの間は自由時間だった。
自由時間の間はスマホも使えるので私は翔馬や皆からのメッセージを確認した。
その中でも岳瑠くんが気を利かせて送ってくれた夏の夜空の星座が描かれた画像に目が止まった。

「山の中は星空が綺麗だと思うから星座探してみて……か……星空……」

私はスマホを持って施設の屋上に向った。
屋上に着くと私は星座表と夜空を照らし合わせて眺めてみた、そこには岳瑠くんの言う通り綺麗な星空が広がっていて星空はまるで星座表をコピーしたかのように鮮明見えていた。

「凄い……私の家だとこんなに綺麗な星空見えないからな………」

私は見えるか分からないが星空を携帯のカメラで撮ると「本当に奇麗に見えるよ!ありがとう岳瑠くん!」と写真を載せた返事を返し暫くの間星空を眺めた。

「本当、星空綺麗だよね~?」

「え?」

私は誰かに声を掛けられた気がして後ろを振り返った。

するとそこには……

「岳瑠くん⁉」

先程までメッセージのやり取りをしていたはずの岳瑠くんの姿が有った。
その後ろからは翔馬と拓弥くんも歩いて来ていた。
私は何がどうなっているのか分からず目を丸くしてその様子を見ていた。

「びっくりした?サプライズだよん!実はオレと翔馬と拓弥も天文部の合宿で夕方ぐらいからここにいたんだよ~?」

「ドッキリとか私の趣味ではありませんが飛美陽さんがどうしても天観さんにサプライズをすると聞かなかったので。」

「羽月に隠すの大変だったんだからな……」

「……え?ちょっと待って!じゃあ、天文部も今日から合宿なの!?」

「そういう事~!宜しくね~?羽月ちゃん!」

「よ……宜しく……?」

天文部の皆が何故居るのかは理解したがいきなりの事で私は頭の整理が追いつかなかった。
3人は私に声を掛けたと思えば屋上の奥の方まで歩いて行ってしまった。
私はその様子を相変わらずボーッと眺めていた。

「な、何だったんだろ……」

私がボーッと眺めていると何故か岳瑠くんが私の方へ走ってきた。

「羽月ちゃんも一緒においでよ!天文部以外の子も何人か来てるから!オレ達と一緒に星の観察しよ!」

岳瑠くんは私の手を取るとそれだけ言って走り出した、私は断る間もなく岳瑠くんと一緒に走る事になった。

「えっ?星の観察って!?」

走った先では天文部が天体観測用の望遠鏡等を出して星の観察をしていた。
拓弥くんは真面目に観測をしている様だったが翔馬は何処かつまらなそうに空を見上げていた、そしてその隣には星湖さんの姿が有った。

「あれ?星湖さん?」

「だから言ったでしょ?天文部以外の子も居るって!彩綾夏ちゃんは翔馬と同じクラスでしょ?あの二人、クラスでも良く話してるみたいでさ、さっき天体観測用の望遠鏡とかを屋上に運んでる時に会って一緒に星の観察したいって言うから!」

「そうだったんだ……」

その時何故か私は少し胸が苦しくなった、この気持ちはなんなんだろう……
こんな事は初めてだったので私は意味が分から無かった。
すると、私の姿に気付いた星湖さんが私の方へ走ってきた。

「天観さん!天観さんも天体観測に来たんですか?私もさっき翔馬くん達を見掛けて参加させてもらう事にしたんですよ!」

「そ、そうだったんだ…私はたまたま屋上に来てた所で岳瑠くん達に声を掛けられただけだよ。」

「そうなんですか?私は天体観測にも興味が有ったから自分から参加させてもらったんですよ?天観さんも一緒に観察しましょ?」

「え、えっと………うん。」

私は何故か心の中がモヤモヤしてしまい部屋に戻ろうかとも考えたがわざわざ岳瑠くんが連れてきてくれたのに申し訳ないと思い小さく頷いた。

「そうだ、天観さんって翔馬くんと仲がいいんですよね?翔馬くん、せっかくの天体観測なのにつまらなそうにしてて………天観さんからも声掛けてみてくれませんか?」

「え?私が!?えっと、星湖さんも翔馬と仲が良いみたいだし……声掛けてみたらどうかな?」

「私が声掛をけても、俺は適当に空見上げてるから。って言って望遠鏡を全然覗かないんですよね。」

「……うっ……それなら誰が言っても変わらないんじゃないかな?」

「そうなんですか?天観さんは昔から翔馬くんの事を知ってるんですよね?翔馬くんにとって天観さんは特別とかじゃないのかな?」

「と、特別!?そ、そんなんじゃないよ!ただの幼馴染みの友達ってだけだよ!」

「そうなんですか?」

「う、うん。」

私は星湖さんの問い掛けに恥ずかしくなり顔を真っ赤にしながら否定をした。
それを聞いていた翔馬が何処か不機嫌そうに私達の方へ歩いてきた。

「お前らも星の観察する気無いなら帰れよ。」

「翔馬………」

「あ、ごめんなさい!私は翔馬くんがあんまり楽しくなさそうに見えたから……天観さんが声を掛けたら翔馬くんも楽しそうにしてくれるかなって思って。本当にごめんなさい!」

「余計なお世話。」

翔馬はそれだけ言うと私達のそばを離れて空を見上げていた。私には翔馬が少し怒ってるように見えた。

「天観さんごめんね?私、余計なことしちゃいましたね。私は今日はもう部屋に戻りますね?明日も朝から練習だから……」

「え?あ、謝らないで!余計なことか……気にしないくて大丈夫だから!」

星湖さんは申し訳なさそうにな顔で謝ると1人で部屋に戻って行ってしまった。
私は翔馬と微妙な空気になってしまいその場に居づらくなると自分も戻るべきかと考えた。
だが、そんな事を考えているといきなり翔馬に声を掛けられた。

「羽月……ちょっと来い。」

「えっ?うん……」

私は翔馬が怒っているかもと思えば少し重い足取りで翔馬から2、3歩離れた辺りに移動した。

「……お前は特別とか思ってないかもしれないけど……俺にとっては特別だから。」

「えっ!?」

私が翔馬の近くに移動すると翔馬は小さな声でそう呟いた。
私は意味が理解できず顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

「……変な意味じゃない。けど、なんかちょっとモヤッとしたから。」

「う……うん……」

私は翔馬の言葉に頷くのがいっぱいいっぱいだった。
だが、そんな空気をかき消すように後ろから岳瑠くんの声が聞こえた。

「流れ星!!お願い事しないと!!」

「えっ?」

流れ星と言う言葉を聞くと私は空を見上げた、すると、いくつか立て続けに星が流れた。

「凄い……」

私は夜空を流れるいくつもの星に釘付けになった。そして“心の中でコンクールが上手く行きますように……”と願った。
翔馬も隣で空を見上げ流れる星を見つめていた。
翔馬にとって私が特別……どういう意味なんだろう……私は翔馬が言った言葉がいつまでも頭の中から離れなかった。
流れ星を見て暫くしてから私も部屋に戻った。
天文部はもう少し観察を続けると言われたので私は1人で部屋に戻った。
部屋まで歩いている時も私の頭の中は特別という言葉がずっと駆け巡っていた。
部屋に戻ると星湖さんはフルートと楽譜を出して練習していた。
練習と言っても夜は音を出さないようにと言われている為、指の動かし方ぐらいしか練習は出来ないので他の人達は夏の宿題をしてみたりおしゃべりをして過ごしている様だった。
お風呂は部活ごとに時間も決められて居たのでお風呂までの時間、私もフルートの練習をする事にした。

「星湖さん、私も一緒に練習させてもらっても良いかな?」

「天観さん?はい、どうぞ。」

私はさっきの屋上での事もあり星湖さんが気にしているんじゃないかと思ったのでさり気なく声を掛けてみた。
だが、星湖さんは気にしている様子はなく微笑み返事を返してくれた。
私はお風呂までの間、星湖さんと色々と注意点などを確認しながらフルートの練習をした。
お風呂の時間になると私は星湖さんと一緒にお風呂へ移動した。
シャンプー、リンス、ボディーソープ以外は自分の私物になるので私は必要な物を小さな鞄に詰めてお風呂へ移動した。
お風呂で頭や身体を洗ってから湯船に中に入ると、星湖さんが側に来て話しを始めた。

「天観さん、屋上ではごめんなさい。私、天観さんは翔馬くんにとって特別な人なのかなって思ってたから気になっちゃって………私、翔馬くんの事が好きなんです……だから、もし天観さんと翔馬くんが特別な関係ならって考えてて……変な事言っちゃって本当にごめんなさい。」

「星湖さん……特別……だ、大丈夫だよ。翔馬は本当に……友達だから。」

「ふふっ、ありがとうございます天観さん。ちょっと気持ちが楽になりました。私、このまま翔馬くんが好きな気持ちを諦めずに持っていても大丈夫なんだって思えたから。」

「う、うん、大丈夫だよ。」

私は星湖さんの話しを聴きながら考え込んでいた。
翔馬の事が好きと素直に言う星湖さんが羨ましかった。
私は翔馬は友達だって自分に言い聞かせながら過ごして居たから。
私の気持ちはどうなんだろう……星湖さんの気持ちを聞いて心の中がモヤモヤしていた。
翔馬の特別ってどういう意味なんだろう……分からない自分の気持ちが更に分からなくなってしまった。
私は心の中がモヤモヤしたままで合宿の初日を終えた。
その日の夜は色々と考え過ぎてしまい中々眠れなかった。

次の日の朝、私は目覚ましがなる前に起きてしまった。
他の人はまだ眠っているみたいだったが星湖さんの姿だけがなかった。
まだ時間も早かったので私は支度を済ませると少し外の空気を吸う為に部屋を出た。
施設の入口から外に出ると深く深呼吸をして周りを見回した。

すると、運動場に人影が見えたので私は運動場の方へ歩いて行った。
だが、私は途中で足を止めた。
なぜかというと、運動場に居たのは星湖さんと翔馬だったからだ。
私は昨夜の星湖さんの話しを思い出し足が止まってしまったのだ。
二人は一緒に運動場を走っているみたいだった。

「今声を掛けたら……邪魔……しちゃうもんね……」

私は二人の様子を見ていると胸が苦しくなり、その場に居られなくなると少し俯き気味に走って施設の中へ戻った。
私はまともに前を見ず走っていたので部屋の近くの廊下で人とぶつかってしまった。

(ドンッ)

「あっ!ごめんなさい!」

私はその人の顔をまともに見ずに頭だけ下げて再び逃げる様に部屋の方へ向って走った……
だが……
部屋に着く前に私は誰かにいきなり腕を捕まれた。
私は驚き振り返ったがそこに居たのは心配そうな顔をした岳瑠くんだった。

「っ………岳瑠くん……?」

「ごめん、なんか羽月ちゃんいつもと様子が違ってたから……放っておけなくて。」

「いつもと……そ、そんな事無いよ!」

私は様子が違うと言われドキッとしたが自分でも自分が良く分からなかったのでどう答えれば良いのかも分からないし、何より心配を掛けたくなかたので笑顔を見せ返事を返した。

「やっぱり何か有ったんだね。」

「えっ?無いよ!岳瑠くん気にし過ぎだよ。」

「羽月ちゃんがそう言う笑顔作る時は何かあった時だし、さっきオレにぶつかった事も気付かなかったよね?」

「えっ………」

そう、さっき私が廊下でぶつかった人が岳瑠くんだったのだ。
私は岳瑠くんに言われるまで誰にぶつかったのかなんて全く分かっていなかった。

「ご、ごめん!岳瑠くん……」

「謝らなくて良いよ、羽月ちゃん…ひょっとして翔馬と何か有った?翔馬、朝早くから走りに出掛けたから。」

「何か?……そういう訳でも無いけど……」

「はっきりしない言い方……やっぱり何か有ったんだね。」

私はこれ以上問い詰められると話さない訳にはいかないと思い無理矢理話しを終わらせる事にした。
自分の中で自分の気持ちの整理が出来ていないのにどう話せば良いのかも分からなかったからだ。

「本当に何もないよ!ごめん!部活の準備が有るから部屋に戻るね!」

私は最もな理由を付けて話しを終わらせると走って部屋の中へ戻った。
後ろから岳瑠くんが私の名前を呼んでいたが私は振り向かなかった。

その日の午前の練習は心の中がモヤモヤしてしまい練習に集中出来なかった。
私はこの心のモヤモヤが何なのか分からずどうすればスッキリするのかも見つけだせずにいた……
私はあまり食欲も無く簡単にお昼を済ませればフルートを手に持ち屋上へ上がった。
私は屋上に着くと深く息を吸い深呼吸をした……
そして気持を落ち着けながらフルートを吹いてみた
……何も考えずだだフルートに集中して………

私はコンクールの課題曲を最後まで奏でた……

「………ふぅ………今はコンクールの事だけを考えないとだよね。」

私は一曲奏で終えると改めて自分のやるべき事を心に刻み午後の練習に向った。
午後の練習では午前の練習が嘘の様に上手く奏でる事が出来た。
そして私は練習を終え部屋へ戻る途中に廊下で翔馬に会った。

「羽月、練習終わったのか?」

「翔馬……うん。」

「そっか……そうだ、良かったら今日も天体観測見に来ないか?」

「ごめん、辞めとく。今は練習に集中したいから。」

「羽月……?」

私は翔馬の誘いをあっさり断るとそのまま部屋に歩いて行った。
星湖さんの事もあり私は翔馬の事を考えたく無かったのかもしれない………
その後も合宿の間、私はコンクールの練習に集中し、気付けば翔馬だけではなく岳瑠くん達とも連絡のやり取りをしなくなっていた……




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