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1章《始まりの音》
9話:ラストスパート
しおりを挟む夜が明けついに合宿最後の日を迎えた。
明日は朝には合宿所を出るので地区大会前に皆で練習が出来るのは今日が最後だった。
「天観さん、起きて下さい!」
「ん……星湖さん?おはよう……」
その日の私はアラームではなく星湖さんに起こされたのだった。
「おはようございます天観さん!今日は合宿最後の日なので良かったら一緒に朝のランニングに行きませんか?」
「ランニング?」
「はい!朝身体を動かすと気持ちが良いのでその後の練習も捗りますよ?合宿も今日で最後ですから一緒にどうですか?」
「えっと…うん、そうだね。一緒に行こうかな?」
私は一瞬考えたがせっかく誘ってくれているのに断るのは申し訳ないし、たまには変わった事をするのも良いかもしれないと思えば星湖さんとランニングに行く事にした。
私と星湖さんはジャージに着替えて外に出た。
この日も昨日と同じでスッキリ晴れて気持ちの良い朝だった。
「天観さん!地区大会絶対に突破しましょうね!」
外に出ると星湖さんは大きな声で私に声を掛けて来た。
私は少し驚いたけど笑みを浮かべ返事を返した。
「そうだね、絶対に突破しよ!」
何となく色々モヤモヤしていた気持ちが少し晴れていくのを感じた。
私は一人じゃないんだ、皆で頑張るんだと改めて心に誓った。
それから私は星湖さんとグラウンドを走った。
「星湖さんって体育系のイメージじゃなかったけど足早いんだね……私なんて付いていくのがやっとだよ……」
「ふふっ、人を見かけで判断すると痛い目を見てしまいますよ?でも、朝走るのは気持ちいいと思いませんか?」
「うっ……あはは……でも…確かに気持ちいいかも。」
私と星湖さんは暫くグラウンドを走ると木陰に腰掛け休憩した。
「今日も良い運動が出来ました!付き合って頂きありがとうございます!」
「え?そんな、私なんてむしろ足手まといになりそうなぐらいで申し訳ないよ!」
「申し訳なくなんてないですよ、本当に感謝してるんですよ?それに申し訳ないのは私の方ですから……」
「え?」
星湖さんは突然俯くと思い詰めたような顔で小さく呟いた。
私はそんな星湖さんの様子に首を傾げた。
「私、天観さんの気持を知っていながら酷いお願いしちゃったから。」
「へ?私の気持ち!?な、なんの事!?」
私は思いもしない話しに驚きが隠せず動揺した。
「ふふっ、天観さん自分の気持ちにまだ気付いてないんですか?それとも気を使ってくれてるんですか?」
星湖さんは私の反応を見ると可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「え?ま、待って!?本当に分かんないんだけど?」
「ふふっ……天観さんも翔馬くんも鈍感なんですね?でも……それぐらいが良いのかな……」
「え!?翔馬って!?なんで翔馬?」
私は話しを聞けば聞くほどに分からなくなっていた。
「気にしないで下さい。そろそろ皆さん準備をされる時間ですね?戻りましょうか?」
一人で混乱する私を横目に星湖さんが立ち上がると私も動揺しつつ立ち上がった。
「え?そ、そうだね……戻ろっか?」
私と星湖さんは立ち上がると施設に戻り部活の準備をした。
今日は最後の練習なだけあってみんな気合が入っていた。
私もほぼ完璧に演奏が出来る様になっていたので練習をしていても楽しかった。
そして丁度その頃天文部では……
「吹奏楽部、かなり曲が仕上がってるよね~?地区大会楽しみだよな~?羽月ちゃんの高校生活初の晴れ舞台だし確り応援してあげないとね~?」
「そうだな……」
「神峡さん?どうされたんですか?なんか元気が無いみたいですが……それより……昨日……天観さんを探しに出掛けた時……何故迷う事なく森へ行かれたんですか?天観さんの居場所を知っている様にも見えましたが?」
「……考え過ぎだ。たまたまだよ。施設内は吹奏楽部が総出で探してたみたいだしな?外しか無いと思っただけだよ。」
「……そうですか……ならば良いですが。」
「たっくん怖い顔~?なになに?ひょっとしてヤキモチとか?自分が羽月ちゃんを探し出せなかったから?」
「飛美陽さん?怒りますよ?」
「怖い怖い……すでに怒ってるじゃ~ん!」
「煩いですよ!そんな事より…あの計画の準備は良いんですか?」
「あっ!良くない良くない!早く準備しないと!」
と、何やら慌ただしくしている様だった。
そして、その日の練習も無事に終わり合宿最後の夜を迎えようとしていた。
私と星湖さんは練習が終わると明日には帰ると言う事で荷物を纏めていた。
すると突然吹奏楽部の部長が部屋に来た。
「1年のみんな揃ってる?せっかくゆっくりしてる所申し訳ないんだけど……みんな屋上に集まってくれる?」
いきなりの事でみんな驚いていたが一先ず部長の言う通り皆で屋上に向かう事にした。
私と星湖さんは一緒に屋上に向かった。
「部長さんいきなりどうしたんでしょうか……」
「う~ん、何か有ったのかな?」
私も星湖さんも何があるのか分からなかったのでお互い首を傾げていた。
そして屋上に着くと外は日が暮れて薄っすら暗くなっていた。
だが………
「えっ!?」
私も星湖さんも屋上に広がる光景に驚きが隠せなかった。
「これで全員揃ったかな?天文部主催の星空パーティへようこそ!」
岳瑠くんの説明を聞き周りを見回すと屋上は綺麗に飾り付けされ机や椅子も置かれ本当のパーティ会場の様になっていた。
「コレって?」
「練習合宿を終えた吹奏楽部の皆にサプライズパーティを企画したんだ!今日は思いっ切り楽しんでストレス発散して地区大会では全力で頑張ってほしいからさ!」
「この飾り付けも岳瑠くん達がやってくれたの?」
「そうそう!部長や先生達にお願いして計画したんだ!」
「ふふっ、とても素敵です。ありがとうございます!」
「彩綾夏ちゃんも喜んでくれたみたいで良かった!今日が合宿最後だからたくさん天体観測もしていってよ!」
「ありがとうございます!」
私も星湖さんも予想もしていないサプライズパーティに驚きと喜びが隠せなかった。
私と星湖さんは岳瑠くんに案内されるままテーブルに向かい椅子に腰掛けた。
テーブルにはたくさん食べ物が並べられていた。
「この食べ物も岳瑠くん達が作ったの?」
「そんな訳ないだろ。」
岳瑠くんに声を掛けたつもりが何故か後ろから翔馬の声がして私は慌てて振り返った。
「翔馬!?い、居たんだ……」
「は?当たり前だろ?居ちゃ悪いのかよ?」
「そんな事言ってないよ!ちょっと驚いただけ……ごめん。」
「ま、良いけど……で、料理だけど……先生に協力してもらって買い出ししてきたのもあるから。」
「そ、そうなんだ……」
なんとなく話し辛く私は浮かない顔で返事を返してしまい、その様子が気に入らなかったのか翔馬がいきなり私の頬を抓ってきた……
「いだっ……な……なに?」
「なんとなく。お前、俺の事避けてんの?」
「えっ!!そ、そんな事ないよ!」
「ふ~ん?なら付き合え。」
「はっ?へ?なに?」
翔馬は不服そうな顔をするといきなり私の腕を掴みテーブルから少し離れた辺りまで連れ出した。
「ちょっと、いきなりなに!?」
「なに!?じゃねぇ!」
翔馬は今まで一度も聞いたこと無いような強い口調で叱る様に声を出した。
「翔馬……」
「ムカつくんだよ。なんかイライラする。意味分かんぇけど。羽月によそよそしい態度されるのは気に入らねぇ。お前は笑ってろよ……悩みとかなんかあんなら相談しろよ!そんでいつも楽しそうに笑ってろよ!」
「えっ………」
翔馬は怒っているのかと思ったがその顔は真剣で何処か寂しげにも見えた。
翔馬の言葉には話したくても話せなかった数日間の寂しさや辛さ……心配……不安が込められているようにも見えた。
「ごめんなさい……私も……凄くモヤモヤしてしんどくて……翔馬の事を考えると練習に集中出来なくなっちゃって……よく分かんない気持ちに押し潰されそうになっちゃって……だから考えない様にってしてたら自然と翔馬を避けるようになっちゃって……本当にごめんなさい。」
私は不器用ながら自分の心の内を翔馬に伝えた。
「羽月……そっか……俺、お前の事を応援してやりたくて……部長に頼んで天文部の夏合宿を吹奏楽部と被らせて貰ったんだけど……逆に邪魔しちゃったのかもしれないな……本当…夢を応援するとか言って羽月に辛い思いさせてバカみたいだな。」
「えっ?そう……だったの?邪魔だなんて、そんな事ないよ!翔馬達が居てくれて私は嬉しかったもん!確かに避けちゃう様な形になっちゃったのは申し訳ないけど……それでも……皆も居るって凄く安心感が有ったから……」
「……ありがとな羽月。でも、俺達が居なくてもお前ならやれてるよ。お前はもう昔みたいに一人じゃない。だから俺も安心だよ。」
「翔馬……?」
その時の翔馬の顔はどこか寂しげに見えた……
手を離したら何処かに消えてしまいそうな気がして私は思わず翔馬の手を取った……
「翔馬……また居なくなったりしないよね……前みたいにいきなり……もう嫌だよ……あんな思いしたくない……勝手に安心しないでよ……私にとって翔馬や岳瑠くん…拓弥くん……龍慈くんも雅哉くんもみんな大切な友達なんだよ!翔馬以外の皆には初めて会ったはずなのに……皆昔から知ってた様な気がするんだ……変だよね……でもそれくらい大切なんだよ!だから居なくても大丈夫なんて言わないで!」
「羽月……お前……」
翔馬は私の話しを聞き何故か驚いた様な顔をしていたが翔馬はそのまま私の手を確り握り返してくれた。
そして私と翔馬の手を握るように2つの手が重なった。
その手は岳瑠くんと拓弥くんの手だった……私は驚き二人の顔を見た。
「岳瑠くん?拓弥くん?」
「ごめんね?聴こえちゃってさ?なんか気づいたら手が勝手にね?」
「不本意ですが……私も勝手に……」
私が二人の顔を見ると岳瑠くんは何処か楽しそうにしていたが拓弥くんは恥ずかしそうに目を逸していた。
「ほら!翔馬!羽月ちゃんにここまで言わせといて何も言わないのかよ?」
「翔馬……約束して。もう居なくならない…私の夢を応援するなら最後まで応援するって。」
「岳瑠……羽月……」
「最初に天観さんの夢を応援すると言ったのは何処の誰でしたっけ?」
「拓弥………」
翔馬は私達の顔を見ると深く深呼吸して改めてわたしの手を強く握った。
「約束するよ。羽月の夢……最後まで応援する。」
翔馬がその言葉を言って直ぐの事だった、後ろからパ~ン!!とたくさんのクラッカーの音が鳴り響きキラキラしたカラーテープが私達の方へ飛んできた。
「なに?」
「わ~お!」
「やれやれですね……」
「煩い………」
私達はいきなりの事に驚いたが皆表情は穏やかで少し微笑んでいた。
それから私達は天文部、吹奏楽部の垣根を越えて思いっ切り楽しんだ。
途中、屋上の電気を消して天体観測を楽しんだりととても楽しい合宿最終日になった。
その日の夜、寝る前に雅哉くんと龍慈くんに連絡を入れ、サプライズパーティの話しをしたら2人は凄く残念そうにしていた。4人だけ楽しんでズルイと言っていたが2人とも最後には地区大会頑張れとメッセージをくれた。
明日の朝には合宿所を出て1日休んだら地区大会……当日までに自分のパートをしっかりと練習して本番に挑む事になる。全く心配はないかと言えば嘘になるが一人じゃないと思えば何でも超えられる気がしていた。
私は不安と期待を胸に就寝した………
翌朝____
「よし!楽器の積み込み完了!」
私は朝早くから起きて部員の人達と一緒に持ってきた楽器を車へ積み込んでいた。
同じく天文部も荷物の積み込みをしていた。
帰りのバスは天文部も吹奏楽部も一緒なので翔馬達と一緒に帰る事になっていた。
「羽月ちゃ~ん!席隣同士に座ろうよ~?」
積み込み作業を終えた岳瑠くんが私に声を掛けて来た。
私は声のする方へ振り返った……だが……
「え?」
「岳瑠~?お前は俺達と一緒に座るよな?」
私が振り返ると岳瑠くんの声に気付いた翔馬が岳瑠くんの制服の襟をガシッと掴み少し怖い顔で岳瑠くんを睨んでいる姿が目に入った。
「あ……あはは……」
私がそんなやり取りを苦笑いで眺めていると星湖さんが声を掛けて来た。
「ふふっ、翔馬くんと飛美陽さん本当に仲良しですね?」
「え?仲良し?……そ、そうなのかな……?」
私は星湖さんの言葉に2つ返事で頷く事は出来なかった、星湖さんの目にはあの二人が仲良しに見えるんだ……と星湖さんの感覚に疑問を感じてしまったのだ。
「羽月さん?良かったら一緒に座りませんか?」
「え?う……うん……えっと……星湖さん?今、羽月って……」
「はい、これからは私も名前で呼ばせて頂いても宜しいですか?羽月さんも宜しければ私の事名前で呼んで下さい!」
「え?えっと……う、うん!ありがとう……さ……彩綾夏ちゃん!」
「はい、私もありがとうございます羽月さん!」
と、私はこの合宿で星湖さん……じゃなくて彩綾夏ちゃんと更に仲良くなれた気がした。
その時、そんな楽しそうな姿を少し面白くなさそうに翔馬が見て居た事に私は気付きもしなかった。
「……なんかムカつく……」
「神峡さん……変なライバル意識は持たないで下さいよ?」
「わ~お、翔馬が女の子にヤキモチ?可愛いやつめ~」
「煩い!お前らさっさとバス乗るぞ!」
そんなこんなで私の高校生活初めての部活合宿は幕を閉じた。
色々有ったけど、また大切な思い出が1つ増えたのだった……………
???____
?「心が乱れ初めている……忘れるなよ………」
1章《始まりの音》END
[作者コメント:どうも、始めまして?小説を書いてる霜月秋穂でございます!
さて、ここまでが約君の1章となります次の話しからは2章となっていきます!
この小説は羽月ちゃんが卒業するまでを1シーズンとさせて頂いて、今現在2シーズンまで考えては居るのですが2シーズンは今後の反響次第で書くかもです。
まあ、何方にしても1シーズンはまだまだ続きますし最後の方には皆様が「え!?」と驚く様な展開を考えて居ますので最後までお付き合い頂ければと思っています!
今後とも約君5つの絆を宜しくお願い致します!]
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