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転生……?
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「異世界転生流行りすぎだろ。さすがにもう新しいファンタジー減ってきたな」
たまの休みに昼間からペラペラと小説をめくりながらベットで思い耽る。
週休の1日目、朝剃らなかった髭が生えた新社会人の姿がそこにはあった。就活用に短髪にした頭にまだ若さの残る顔つき、体は趣味で動かしている程度だからかまぁ、一般的な体型だ。
そんな男が呼んでいるライトノベルは転生物。転生してはスキルを授かり俺TUEEEEする。どの本にも違いはあれどほぼテンプレ。
確かにその違いを楽しんで転生物のライトノベルを買い続けているが、今ひとつ目新しさを感じられない。
ユニークなスキルも掘り尽くしてきているのか最近では悪役令嬢などを筆頭に新しく要素を追加することでジャンルを守っている。
「でもなあ……そうじゃなくて新しいスキルとか世界観が見たいんだよな」
どの作品も面白いがひとつ頭の抜けた作品を求めてしまっている自分がいる。数々の転生物を読み続けたせいで満足できていない。
ワクワクと胸踊る様なファンタジーを求めているのだ。
「でも確かにもうスキルって出尽くした感あるよな。最近じゃ鍋まで使いだしたし」
ここ最近出たユニークな作品もあったが俺はスキルや能力が好きだ。
剣聖、賢者、拳闘士、神官……。いわゆるジョブと呼ばれる様な原点にして頂点が好きだ。
「もし転生するなら俺は何ができるのだろう」
布団で本を読んでいたからかキリのいいところで睡魔が襲う。無理をして読む必要も無い、少しだけ仮眠をとろうと俺は目を閉じた。
「んあ……寝すぎたか?」
目の前が白くぼやぼやしている。変な時間に寝てしまったせいだろうか、目を擦りながら体を起こす。
一向に目の前がクリアになる気配がなくぼやぼやしたままだ。寝起きの頭も何かがおかしいと警鐘を鳴らしている。
「これ霧か? 俺の部屋なのに……火事か!」
白い霧は煙なのだろうか、家が燃えたことなどないから俺に判断はできない。ただこんなに部屋が白いモヤで覆われるのはそれしか考えられない。
シャツを口元に上げてドアがあるはずの方向に走る。落ち着いて避難など考える余裕もなくどたどたと走る。
「……あれ?」
ドアまでたった数歩のはずなのになぜかドアがない。それどころか壁にすらぶつからない。ドアを開けていたとしてもここは俺の家ではなきとはっきりと理解する。
「ここはどこだ」
「落ち着きましたか?」
「うわぁ!」
突如走ってきた方向から声をかけられ大きく飛び退く。
そこには美女と言う言葉があまりにも似合いすぎるピンクのロングヘアーの女性が立っていた。ローマの様に布を巻いているだけではそのスタイルを隠しきれず女性耐性のない俺はサッと目をそらす。
ピンク髪の美少女の夢を見るだなんていくらファンタジーを読んでいたからとはいえさすがにこの歳で恥ずかしいものがある。
しかし急に声をかけられ驚いて転んだにもかかわらず床は熱くない。床を触りながらこれが火事でないと体も理解する。
「すみません。そんなに驚かれると思わず」
「いや……え? 君だれ?」
「神の真名を明かす訳にもいきませんしこれっきりですのでお好きなようにお呼びください、佐久間様」
「俺の名前? 知り合いに君みたいな人いないし、表札見て入ってきた泥棒とか?」
あまりのイレギュラーなことに頭が追いつかない。自分の話していることと体が合わない。泥棒なら逃げなければならないのに、この人の放つ雰囲気がそうでは無いことを物語っている。
「貴方を私の管理する世界のひとつにお呼び致しました」
「世界?」
「ええ、私の神としての仕事は現実世界から見込みのある若者を私の世界へと呼ぶこと」
「異世界転生じゃん」
「最近ではそう呼ばれているらしいですね。最近の文学作品はどれも本物ですよ」
「あれ創作じゃなかったのか……」
俺が読みこんだどの作品もがノンフィクション。寝起きなのにあまりの話のボリュームに頭痛がしてくる。
見込みというのも転生に対しての情報量辺りが選ばれ理由だろうか。
「そろそろ私の世界に着きます。そしたらこの霧も晴れますから」
「転生するのは分かったけどスキルはくれないんですか?
「……」
「女神様?」
なんだか神妙な面持ち。神様だけに。
「転生への知識が深いのですから気づきますよね……」
「え、神様?」
「そうです。貴方に授けられるスキルはもう残っていません」
「そんなことって……」
「私も候補者の数を絞ってスキルが不足しないようにするつもりでしたが、何かの手違いで掛け持ちしている世界に予想以上の転生者が増えまして」
そんな馬鹿な。せっかく転生したのにスキルなし。そんなことがあってたまるか。
俺は何かないのかと頭をフルに働かせ神様から何か恩恵を受けようと必死に考えた。
「いや、でもステータス! ステータスとかなら圧倒的に強く」
「なりません。例えば過剰な筋力値は体を壊しますし、知識が無造作に上がれば脳が焼ききれます」
STR、INTなどの数値はあるらしいが無理やり上げたステータスでは俺の体が持たないらしい。
「なら神様の権限で二つとないアイテムを……」
「だせません。私が管理する世界のバランスを私が壊してどうするのですか。神の定例会議で評価されるのですからね」
「神様も大変なんだな」
スキルもダメ、ステもダメ、武器も防具もダメ……俺の転生ライフは何となく仕事をこなしてたまの休みを無駄にしていた現実世界とそう変わらないのだろう。
期待に胸を膨らませ、身を乗り出して伸びていた背中を猫背に戻し地面にへたりこんだ。
「さ、佐久間様? 大丈夫でしょうか」
「何がさ。もう村人でも何でも好きに転生させてくれよ。適当に生きておくからさ」
「えぇっと……では、転生の注意事項とご案内をさせていただきますね?」
「巻きでお願いします」
俺の落胆ぶりに女神も動揺を隠せない。あせあせと腰布の裏から丸めて紐でくくられた紙を取り出す。
「では一つ目、これは契約のようなものになりますが転生に同意いただけない場合、記憶を消して元の世界へ返します」
「転生も同意制なんだな」
「このご時世強引にはできませんから」
「呼ぶのは強引なのにな」
「こうでもしなければ転生させられませんので」
「神様も世知辛いね……」
転生しようとしているのに管理職に揉まれるというのは現実を思い出させる。
ファンタジーの世界なのに俺は強く現実世界を思い出して少し嫌な気持ちになった。
たまの休みに昼間からペラペラと小説をめくりながらベットで思い耽る。
週休の1日目、朝剃らなかった髭が生えた新社会人の姿がそこにはあった。就活用に短髪にした頭にまだ若さの残る顔つき、体は趣味で動かしている程度だからかまぁ、一般的な体型だ。
そんな男が呼んでいるライトノベルは転生物。転生してはスキルを授かり俺TUEEEEする。どの本にも違いはあれどほぼテンプレ。
確かにその違いを楽しんで転生物のライトノベルを買い続けているが、今ひとつ目新しさを感じられない。
ユニークなスキルも掘り尽くしてきているのか最近では悪役令嬢などを筆頭に新しく要素を追加することでジャンルを守っている。
「でもなあ……そうじゃなくて新しいスキルとか世界観が見たいんだよな」
どの作品も面白いがひとつ頭の抜けた作品を求めてしまっている自分がいる。数々の転生物を読み続けたせいで満足できていない。
ワクワクと胸踊る様なファンタジーを求めているのだ。
「でも確かにもうスキルって出尽くした感あるよな。最近じゃ鍋まで使いだしたし」
ここ最近出たユニークな作品もあったが俺はスキルや能力が好きだ。
剣聖、賢者、拳闘士、神官……。いわゆるジョブと呼ばれる様な原点にして頂点が好きだ。
「もし転生するなら俺は何ができるのだろう」
布団で本を読んでいたからかキリのいいところで睡魔が襲う。無理をして読む必要も無い、少しだけ仮眠をとろうと俺は目を閉じた。
「んあ……寝すぎたか?」
目の前が白くぼやぼやしている。変な時間に寝てしまったせいだろうか、目を擦りながら体を起こす。
一向に目の前がクリアになる気配がなくぼやぼやしたままだ。寝起きの頭も何かがおかしいと警鐘を鳴らしている。
「これ霧か? 俺の部屋なのに……火事か!」
白い霧は煙なのだろうか、家が燃えたことなどないから俺に判断はできない。ただこんなに部屋が白いモヤで覆われるのはそれしか考えられない。
シャツを口元に上げてドアがあるはずの方向に走る。落ち着いて避難など考える余裕もなくどたどたと走る。
「……あれ?」
ドアまでたった数歩のはずなのになぜかドアがない。それどころか壁にすらぶつからない。ドアを開けていたとしてもここは俺の家ではなきとはっきりと理解する。
「ここはどこだ」
「落ち着きましたか?」
「うわぁ!」
突如走ってきた方向から声をかけられ大きく飛び退く。
そこには美女と言う言葉があまりにも似合いすぎるピンクのロングヘアーの女性が立っていた。ローマの様に布を巻いているだけではそのスタイルを隠しきれず女性耐性のない俺はサッと目をそらす。
ピンク髪の美少女の夢を見るだなんていくらファンタジーを読んでいたからとはいえさすがにこの歳で恥ずかしいものがある。
しかし急に声をかけられ驚いて転んだにもかかわらず床は熱くない。床を触りながらこれが火事でないと体も理解する。
「すみません。そんなに驚かれると思わず」
「いや……え? 君だれ?」
「神の真名を明かす訳にもいきませんしこれっきりですのでお好きなようにお呼びください、佐久間様」
「俺の名前? 知り合いに君みたいな人いないし、表札見て入ってきた泥棒とか?」
あまりのイレギュラーなことに頭が追いつかない。自分の話していることと体が合わない。泥棒なら逃げなければならないのに、この人の放つ雰囲気がそうでは無いことを物語っている。
「貴方を私の管理する世界のひとつにお呼び致しました」
「世界?」
「ええ、私の神としての仕事は現実世界から見込みのある若者を私の世界へと呼ぶこと」
「異世界転生じゃん」
「最近ではそう呼ばれているらしいですね。最近の文学作品はどれも本物ですよ」
「あれ創作じゃなかったのか……」
俺が読みこんだどの作品もがノンフィクション。寝起きなのにあまりの話のボリュームに頭痛がしてくる。
見込みというのも転生に対しての情報量辺りが選ばれ理由だろうか。
「そろそろ私の世界に着きます。そしたらこの霧も晴れますから」
「転生するのは分かったけどスキルはくれないんですか?
「……」
「女神様?」
なんだか神妙な面持ち。神様だけに。
「転生への知識が深いのですから気づきますよね……」
「え、神様?」
「そうです。貴方に授けられるスキルはもう残っていません」
「そんなことって……」
「私も候補者の数を絞ってスキルが不足しないようにするつもりでしたが、何かの手違いで掛け持ちしている世界に予想以上の転生者が増えまして」
そんな馬鹿な。せっかく転生したのにスキルなし。そんなことがあってたまるか。
俺は何かないのかと頭をフルに働かせ神様から何か恩恵を受けようと必死に考えた。
「いや、でもステータス! ステータスとかなら圧倒的に強く」
「なりません。例えば過剰な筋力値は体を壊しますし、知識が無造作に上がれば脳が焼ききれます」
STR、INTなどの数値はあるらしいが無理やり上げたステータスでは俺の体が持たないらしい。
「なら神様の権限で二つとないアイテムを……」
「だせません。私が管理する世界のバランスを私が壊してどうするのですか。神の定例会議で評価されるのですからね」
「神様も大変なんだな」
スキルもダメ、ステもダメ、武器も防具もダメ……俺の転生ライフは何となく仕事をこなしてたまの休みを無駄にしていた現実世界とそう変わらないのだろう。
期待に胸を膨らませ、身を乗り出して伸びていた背中を猫背に戻し地面にへたりこんだ。
「さ、佐久間様? 大丈夫でしょうか」
「何がさ。もう村人でも何でも好きに転生させてくれよ。適当に生きておくからさ」
「えぇっと……では、転生の注意事項とご案内をさせていただきますね?」
「巻きでお願いします」
俺の落胆ぶりに女神も動揺を隠せない。あせあせと腰布の裏から丸めて紐でくくられた紙を取り出す。
「では一つ目、これは契約のようなものになりますが転生に同意いただけない場合、記憶を消して元の世界へ返します」
「転生も同意制なんだな」
「このご時世強引にはできませんから」
「呼ぶのは強引なのにな」
「こうでもしなければ転生させられませんので」
「神様も世知辛いね……」
転生しようとしているのに管理職に揉まれるというのは現実を思い出させる。
ファンタジーの世界なのに俺は強く現実世界を思い出して少し嫌な気持ちになった。
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