薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
11 / 198
第1部.アドニア 第2章

5.保護者

しおりを挟む
「姫、飲み物をどうぞ」
「あ……、ありがとう」

アイリーンが受け取とろうとしたグラスを、後ろから伸びてきた手が先に取り上げた。

きらびやかな大きな指輪をした、長い指を持つ優美な手だった。

「この子にあまり強い酒を勧めないでほしいね。まだ慣れてないんだから」

ソファに座っていたアイリーンは振り向き、手の主を見上げた。

彼女の回りに集まっていた何人もの貴族の青年たちの間に割り込んで、先ほど皆に請われて竪琴を弾きに行ったレスターが立っていた。

いつも口元に浮かべている微笑みはそのままだが、彼の少し切れ長の目には、剣呑な光が宿っている。

「悪いね、君たち。彼女、ちょっと疲れてるようだから、しばらくそっとしておいてやってくれないかな?」

やんわりとした口調の中に否とは言わせぬ強い意志をちらつかせたその言葉に、青年たちは、バツが悪そうに口の中でモゴモゴ言いながら散り散りに去って行った。

クスクスと笑いだしたレスターにアイリーンが驚いた目を向けると、いつもと変わらぬおどけた様子で、彼は言った。

「シスコンの兄が妹にガードを張っていると憤慨する、彼らのうわさ話が聞こえてくるようだ。人の恋路を邪魔するのは、いや全く、実に楽しいねぇ」

「お兄様……? あの、竪琴は?」
「今から弾きに行くよ。君が困っている様子だったから、引き返してきただけ」

それにしては随分面白がっている、と思いながらも、その気遣いをありがたいと思い、アイリーンは礼を言った。


実際、この5日間というもの、レスターなしではどうしていいかわからなかっただろう。

彼は最初の夜以来、特にしつこく理由を尋ねることもなく、連夜の宴会通いにつきあってくれていた。

アイリーンにはそれだけで十分ありがたかったが、どういうわけか不慣れなアイリーンの保護者めいた振る舞いを、彼自身とても楽しんでいる様子だった。

「アイリーン、教えただろう? 片手に飲み物の入ったグラスを常に持っていれば、新しいのは勧められなくて済む、って。えーと……」

レスターは盆の上にグラスをいくつも並べて人々の間を動き回っている小姓を一人、呼び止めた。

「ほら、これ」
シャンパンを選び取り、アイリーンに手渡した。

「全部飲んでしまわないようにね。もし別のを勧められても断ること。体調が万全でないときは、あまり飲まない方がいい。ひどいことになるよ」

そう言い残し、レスターは去って行った。

“体調、か……”
アイリーンは、一つ、深いため息をついた。

睡眠不足も極限に達すると、眠気は、常につきまとうと言うよりも、こちらが気を抜いた隙に一気に襲いかかってくるという感じになる。

黒髪の見知らぬ男に襲われて以来、アイリーンは、やっとの思いで緊張に耐えてきた。

昼間は、何かと理由を付けて部屋に侍女を呼び、身の回りの世話や用事を頼んで一人にならないようにすることができた。

その間、しばらくでもうたた寝をすることもできた。

でも夜になると、侍女たちは皆、控えの部屋に帰ってしまう。

普通なら、自分付きの侍女がいて当然の身分なのだが、第一王妃の嫌がらせから始まって、今ではアイリーン自身、特に不自由も感じていなかったのだ。

そんなわけで、夜一人にならないためには、こうして宴の席に出ることぐらいしか、アイリーンは考えつかなかった。

それに宴に出席することは、エンドルーアの情報を集めるにも好都合。
まさに一石二鳥……と、思ったのだが。

そうはうまく運ばなかった。
エンドルーアに関する情報を知っている者は、ほとんど皆無に等しかったのだ。

“やっぱり、レスター兄様に聞いてみるのが一番かしら……でも……”

ちゃらちゃらと遊び回っているだけに見えるレスターだが、何と言ってもこの国の第二位の王位継承権を持つ王子なのだ。

国を支える重鎮の一人として、それなりの情報は持っているはずだと踏んで、最初はレスターに聞いてみようと思っていたのだが。

それを考え直したのは、彼に詮索の機会を与えることになりそうだと思ったからだった。それに……

“明日は満月、ティレルに会える……”

無事、ティレルに会えたら、彼が何もかも話してくれる、きっと……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...