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第1部.アドニア 第2章
8.縁談
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レスターは真面目な顔でアイリーンを眺め、やがて言った。
「だから強情だと言うんだよ、君は……。随分無理をしてるね。こんなに毎晩、しかも夜明けまでずっと宴にでているなんて、体が参ってしまって当然だよ。いったいどうしたの?」
そう言うレスターも明け方まで彼女につきあっているのだが、慣れているのか、それとも昼間十分休んでいるのか、白皙の美貌には陰りもなく、疲れた様子など微塵も見当たらない。
「……」
レスターは黙ってしまったアイリーンの隣に腰掛け、諭すように言った。
「……あのねぇ、こんなバカなことしても、縁談の話はなくならないよ?」
「え?」
アイリーンはびっくりしてレスターの顔を見た。
「縁談、って、私のですか?」
「ええっ? ぼくはてっきり……」
レスターはしまったという顔をしたが、後の祭りだった。
「……参ったな……なんて間抜けなんだ、ぼくは」
額に手をやって頭を支え、がっくりうなだれる。
「……お兄様?」
レスターはそのままの姿勢で、流れ落ちる髪の隙間から、横目でアイリーンを見て言った。
「……それじゃ、どうして急に宴に出るようになったか教えてくれるかい?」
さっと体を起こし、アイリーンの肩に手を置いて彼女の顔をのぞき込む。
「情報交換だよ、ね?」
「……」
アイリーンは目をそらし、またも黙り込んだ。
「ああもうっ! すぐそうやって黙る!」
レスターはじれったそうにアイリーンの手を軽くたたいた。
「ぼくが君の味方だって、もうそろそろ認めてくれてもいいだろう? 何があったの? 話してくれないかな?」
アイリーンは一瞬、ためらった。
けれど、やはり口を開こうとしなかった。
話したところで、どうなるものでもない。
むしろエンドルーアとは関係のないこの兄まで、巻き込んでしまうことになるのではないかと、それが心配だった。
あの男がどれほど危険な存在か、彼女は本能的に感じていたのだ。
「ありがとう、お兄様。でも私、その……」
レスターはため息を吐きつつ、ソファの背もたれに撤退した。
「わかったよ。話す気は、ないってことだ」
珍しく不機嫌そうに言う。
「ごめんなさい……」
アイリーンは申し訳なさそうに身を縮めた。
フーッと、またもや大きなため息をついたレスターは、耳に被さった金の髪をかきあげ、天を仰いだ。
耳飾りの緑の宝石が揺れている。
「……仕方ない。ではぼくは、情報提供に徹することにしよう」
「お兄様……」
「いいかい? 今から話すことは王とその側近の重臣たちの一部しか知らない機密事項だ。他言は無用、わかったね?」
アイリーンはおずおずとうなずいた。
自分の縁談話が、どうしてそれほどの機密なのだろうと思いながら。
「よし。……君が初めて自分の意志で出てきた、この前のあの宴、リムウルからの親善使節を迎えてのものだっただろう? ま、親善使節は毎年やりとりしている間柄だが、今回リムウルは、第二王子の妃として君を迎えたいと言ってきたんだ」
「……」
先日の宴の夜、客人たちが自分をこっそり盗み見ていたのには気づいていた。
けれど、それは単に、滅多に姿を見せない変わり者を珍しがってのことだと、アイリーンは思っていた。
「考えようによっては、悪い話じゃないよ。君に対して冷たく当たる勢力がないぶん、この国に居続けるより、君にとっては幸せかも知れない。でも問題なのはその理由だよ」
「理由……?」
レスターは厳しい目をしてうなずいた。
「君の母上はエンドルーアの王族の出だ。リムウルとエンドルーアの対立が緊迫してきて、リムウルは我が国との協定を再確認して来た。その証に、君を自国に迎えさせてほしいと言うことなんだ。我が国の手前、君をどうこうするつもりはないはずだけど、実質的には、人質だ。エンドルーアに対して少しでも優位に立ちたいんだ」
まさか自分の縁談の話にエンドルーアがからんでくるとは思ってもみなかった。
これは偶然なのだろうか、それとも……?
とにかく、自分の身の回りで何かが動き出している。
アイリーンは迫ってくる大きな運命のようなものを感じ、不安で胸が締め付けられるような気がした。
「だから強情だと言うんだよ、君は……。随分無理をしてるね。こんなに毎晩、しかも夜明けまでずっと宴にでているなんて、体が参ってしまって当然だよ。いったいどうしたの?」
そう言うレスターも明け方まで彼女につきあっているのだが、慣れているのか、それとも昼間十分休んでいるのか、白皙の美貌には陰りもなく、疲れた様子など微塵も見当たらない。
「……」
レスターは黙ってしまったアイリーンの隣に腰掛け、諭すように言った。
「……あのねぇ、こんなバカなことしても、縁談の話はなくならないよ?」
「え?」
アイリーンはびっくりしてレスターの顔を見た。
「縁談、って、私のですか?」
「ええっ? ぼくはてっきり……」
レスターはしまったという顔をしたが、後の祭りだった。
「……参ったな……なんて間抜けなんだ、ぼくは」
額に手をやって頭を支え、がっくりうなだれる。
「……お兄様?」
レスターはそのままの姿勢で、流れ落ちる髪の隙間から、横目でアイリーンを見て言った。
「……それじゃ、どうして急に宴に出るようになったか教えてくれるかい?」
さっと体を起こし、アイリーンの肩に手を置いて彼女の顔をのぞき込む。
「情報交換だよ、ね?」
「……」
アイリーンは目をそらし、またも黙り込んだ。
「ああもうっ! すぐそうやって黙る!」
レスターはじれったそうにアイリーンの手を軽くたたいた。
「ぼくが君の味方だって、もうそろそろ認めてくれてもいいだろう? 何があったの? 話してくれないかな?」
アイリーンは一瞬、ためらった。
けれど、やはり口を開こうとしなかった。
話したところで、どうなるものでもない。
むしろエンドルーアとは関係のないこの兄まで、巻き込んでしまうことになるのではないかと、それが心配だった。
あの男がどれほど危険な存在か、彼女は本能的に感じていたのだ。
「ありがとう、お兄様。でも私、その……」
レスターはため息を吐きつつ、ソファの背もたれに撤退した。
「わかったよ。話す気は、ないってことだ」
珍しく不機嫌そうに言う。
「ごめんなさい……」
アイリーンは申し訳なさそうに身を縮めた。
フーッと、またもや大きなため息をついたレスターは、耳に被さった金の髪をかきあげ、天を仰いだ。
耳飾りの緑の宝石が揺れている。
「……仕方ない。ではぼくは、情報提供に徹することにしよう」
「お兄様……」
「いいかい? 今から話すことは王とその側近の重臣たちの一部しか知らない機密事項だ。他言は無用、わかったね?」
アイリーンはおずおずとうなずいた。
自分の縁談話が、どうしてそれほどの機密なのだろうと思いながら。
「よし。……君が初めて自分の意志で出てきた、この前のあの宴、リムウルからの親善使節を迎えてのものだっただろう? ま、親善使節は毎年やりとりしている間柄だが、今回リムウルは、第二王子の妃として君を迎えたいと言ってきたんだ」
「……」
先日の宴の夜、客人たちが自分をこっそり盗み見ていたのには気づいていた。
けれど、それは単に、滅多に姿を見せない変わり者を珍しがってのことだと、アイリーンは思っていた。
「考えようによっては、悪い話じゃないよ。君に対して冷たく当たる勢力がないぶん、この国に居続けるより、君にとっては幸せかも知れない。でも問題なのはその理由だよ」
「理由……?」
レスターは厳しい目をしてうなずいた。
「君の母上はエンドルーアの王族の出だ。リムウルとエンドルーアの対立が緊迫してきて、リムウルは我が国との協定を再確認して来た。その証に、君を自国に迎えさせてほしいと言うことなんだ。我が国の手前、君をどうこうするつもりはないはずだけど、実質的には、人質だ。エンドルーアに対して少しでも優位に立ちたいんだ」
まさか自分の縁談の話にエンドルーアがからんでくるとは思ってもみなかった。
これは偶然なのだろうか、それとも……?
とにかく、自分の身の回りで何かが動き出している。
アイリーンは迫ってくる大きな運命のようなものを感じ、不安で胸が締め付けられるような気がした。
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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