薄明宮の奪還

ria

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第1部.アドニア 第2章

10.寝室

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「エンドルーア王に、もっと子供がいてもおかしくないが、何しろこの10年の情報が欠けている。エンドルーアについて今わかるのは、これぐらいかな。他に、知りたいことは?」

アイリーンは首を振った。
あまりにもたくさんのことが一度に押し寄せてきた気分だった。
一人になって、今聞いたことをゆっくり考えてみたかった。

するとレスターはフッと表情を緩めた。
普段見せない真面目な様子が、いつもの調子に戻る。

「おかしな子だね。君の夫になるかも知れない、リムウルの第二王子がどんな奴か、聞かないの?」
「あ……」
我ながら間が抜けている、とアイリーンも思ったが、どういうわけかちっとも知りたいという気分になれなかった。

「何だか、実感がわかなくて……」
「ふぅん……それじゃリムウルのことはまた今度ということにして、と。で、ティレルって誰?」

「!!」
いきなりティレルの名が出てきて、アイリーンは心臓がひっくり返るかと思うほど驚いた。

「えっ、なっ、ど、どうして……?」
「さっき寝言で呼んでたんだよ。君にそんな知り合いいたかなぁ?」

「し、し、知りません、私……ただ夢を見ていたと……」
レスターは可笑しそうに、クスクス笑った。
「君は本当にウソをつくのが下手だね。さぁて、どうしようかなぁ?」

その笑顔は何か悪だくみを考えているときの顔、とアイリーンは身構えた。
案の定、レスターはいきなりアイリーンを抱き上げて立ち上がった。

「きゃっ!! ななな何っ、何するんですかっお兄様っ!!」
「はいはい、騒がない騒がない」

レスターはそのまま、アイリーンを寝室に連れて行った。
寝室には灯りが一つもなかったが、窓から薄青い月の光が煌々と差し込んで、意外なほど明るい。

「君は軽いねぇ。やっぱり、もう少し食べた方がいいよ」
「お兄様っ、降ろしてっ!」

じたばたしようにも、見かけより力のあるレスターにしっかり抱きかかえられると手も足も出ない。
とうとうベッドの上まで運ばれてしまった。

アイリーンをベッドの上に下ろすと、レスターは笑みを浮かべて顔を寄せてきた。
「ぼくの情報料は高いよ。さて、何で支払ってもらおうかな?」
「……っ!」

思わず閉じた両のまぶたの上に、彼の唇が軽く触れていった。
「はい、よく眠れるおまじない。今日はもうおやすみ」

そう言うと、レスターはアイリーンの頭にポンと手を置いてくしゃくしゃとかき回し、それから窓に近寄って空を見上げた。
「夜明けまでには、まだずいぶん間がある。それじゃ、また明日ね」

戸口に向かうレスターに、アイリーンはあわてて言った。
「あっ、あのっ、明日は……」
「ん? 何?」
「その……もう少し、体を休めた方がいいと思うので、明日は宴には行かないで、部屋にいます……」
「ふぅん? うん、まぁ、それがいいだろうね」

不審に思っているのだろうが、聞いても無駄だとわかっているのだろう、レスターはもう何も言わなかった。
「じゃ、おやすみ」

出て行こうとするレスターに、アイリーンは呼びかけた。
「お兄様!」
レスターが振り向く。
「あの、ありがとう、本当に……」

鮮やかな花がほころぶように、レスターは微笑んだ。
「忘れないで、ぼくは君の味方だよ。困ったことがあったら、いつでも言っておいで」
「……」

「今までのつぐないさ。ぼくは君に、とても大きな借りがある。ちょっとやそっとじゃ、返し切れないほどのね……どうやら君は覚えていないらしいけど。だから気兼ねしなくていいんだよ」
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