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第1部.アドニア 第3章
7.人影
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沈んだ様子のアイリーンを横目に、まるで独り言を言うようにレスターは話し続ける。
「兄上に王子が生まれていたらねぇ……ぼくも晴れて無罪放免、誰からも邪魔者になって心おきなく諸国漫遊の旅に出られるって言うのに。
妃をもらって2年も経つのに、全く何をしてるんだか。まさか作り方を知らないって訳でもないだろうに……おっと。
ごめん、レディの前で言うことじゃなかったね」
こんなときに何を言ってるんだか……と、あきれるアイリーンに向かってレスターは悪びれた様子もなく、茶目っ気たっぷりに笑いかけた。
朗らかでくったくのない笑顔につられ、思わず、アイリーンも笑ってしまう。
自分の笑顔に兄の目が和むのを見て、アイリーンは今度は胸がつまって何も言えなくなった。
彼が自分の気持ちを引き立てようとして、わざとおどけてみせているのだと悟ったからだ。
またもや泣き出しそうになり、あわててうつむく。
ふいに、 アイリーンは胸が痛くなるほどの不安を覚えた。
この兄は……自分のために命を落としかねない。
本当にこのままでいいのだろうか?
アイリーンは何か大切なことを忘れているような気がして、焦燥感に囚われつつもそれが何かどうしても思い出せなかった。
城の外へと扉を開いている門の所までやってきた。
馬が一頭、おとなしくつながれている。
レスターが用意しておいたものらしく、彼は迷わずその馬に歩み寄って行った。
が、ふとその足を止める。
自分の背中にアイリーンをかばうと、レスターは低く言った。
「誰だ?!」
ゆらりと馬の影が揺らぎ、そこから人影が別れて出てきた。
「……父上!」
アドニア王その人が、供も連れずに一人、佇んでいた。
月明かりに照らされたその姿からは、いつもの、大国の統治者らしい威風堂々として自信に満ちあふれた様は感じられなかった。
それは、深い悲しみと苦悩に打ちひしがれた、一人の父親の姿だった。
しかし、レスターは構えた姿勢を崩さず、固い声で尋ねた。
「……行かせて下さらないおつもりですか?」
「レスター、お前は……、お前には、行ってほしくないのだ。
……すまない、アイリーン……許してくれ……」
胸を引き裂かれるような深い苦悩をにじませた、弱々しい声だった。
「我が国存亡の危機に発展するかもしれぬ問題を抱えた今、お前までを失うわけにいかないのだ。
レスター、わかっているだろう、カイウスだけでは軍をまとめることはできない。
陰でお前がどんな役割を果たしているか、私が知らないとでも思うのか?
……頼む、この国のために、お前の助けが必要なのだ」
「兄上に王子が生まれていたらねぇ……ぼくも晴れて無罪放免、誰からも邪魔者になって心おきなく諸国漫遊の旅に出られるって言うのに。
妃をもらって2年も経つのに、全く何をしてるんだか。まさか作り方を知らないって訳でもないだろうに……おっと。
ごめん、レディの前で言うことじゃなかったね」
こんなときに何を言ってるんだか……と、あきれるアイリーンに向かってレスターは悪びれた様子もなく、茶目っ気たっぷりに笑いかけた。
朗らかでくったくのない笑顔につられ、思わず、アイリーンも笑ってしまう。
自分の笑顔に兄の目が和むのを見て、アイリーンは今度は胸がつまって何も言えなくなった。
彼が自分の気持ちを引き立てようとして、わざとおどけてみせているのだと悟ったからだ。
またもや泣き出しそうになり、あわててうつむく。
ふいに、 アイリーンは胸が痛くなるほどの不安を覚えた。
この兄は……自分のために命を落としかねない。
本当にこのままでいいのだろうか?
アイリーンは何か大切なことを忘れているような気がして、焦燥感に囚われつつもそれが何かどうしても思い出せなかった。
城の外へと扉を開いている門の所までやってきた。
馬が一頭、おとなしくつながれている。
レスターが用意しておいたものらしく、彼は迷わずその馬に歩み寄って行った。
が、ふとその足を止める。
自分の背中にアイリーンをかばうと、レスターは低く言った。
「誰だ?!」
ゆらりと馬の影が揺らぎ、そこから人影が別れて出てきた。
「……父上!」
アドニア王その人が、供も連れずに一人、佇んでいた。
月明かりに照らされたその姿からは、いつもの、大国の統治者らしい威風堂々として自信に満ちあふれた様は感じられなかった。
それは、深い悲しみと苦悩に打ちひしがれた、一人の父親の姿だった。
しかし、レスターは構えた姿勢を崩さず、固い声で尋ねた。
「……行かせて下さらないおつもりですか?」
「レスター、お前は……、お前には、行ってほしくないのだ。
……すまない、アイリーン……許してくれ……」
胸を引き裂かれるような深い苦悩をにじませた、弱々しい声だった。
「我が国存亡の危機に発展するかもしれぬ問題を抱えた今、お前までを失うわけにいかないのだ。
レスター、わかっているだろう、カイウスだけでは軍をまとめることはできない。
陰でお前がどんな役割を果たしているか、私が知らないとでも思うのか?
……頼む、この国のために、お前の助けが必要なのだ」
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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