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第2部.アドニア〜リムウル 第1章
4.森
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朝のまぶしい光の中で見る森は、素晴らしかった。
春から初夏へと移り変わっていくこの季節、木々の葉は鮮やかな新緑に彩られ、そこかしこに色とりどりの可憐な野の花が咲いている。
木漏れ日が金色の光の筋となって降り注ぐ中、馬を引いて歩いていたエリアードは立ち止まり、後ろを振り返った。
遅れて歩いていたアイリーンがそれに気づき、嬉しそうにパタパタと走り寄ってくる。
肩までに切りそろえられた金髪が以前の重みを失って一層柔らかそうにフワフワとなびき、微笑みをたたえ生き生きと輝くその顔に、さらに明るさを添えている。
エリアードに追いついて横並びになったとたん、アイリーンは行く手の木の根の上に一匹のリスがいてこちらをうかがっているのに気がついた。
歓声を上げ、今度はエリアードより前へ走っていく。
リスは素早く身をひるがえして木を上っていき、幹の中程に空いていたウロの中へと姿を消した。
アイリーンは木に駆け寄ると下枝につかまって体を持ち上げ、ウロの中をのぞき込もうとした。
エリアードが警告の声を発するより早く、アイリーンがつかまっていた細い枝は折れてしまった。
落下する彼女の体を、かろうじてエリアードが抱きとめる。
「……姫……いい加減になさってください……」
困り切った表情で、横抱きにした彼女を見下ろし、エリアードは言った。
「ご、ごめんなさい」
アイリーンはあわてて彼の腕から降りた。
ほんのり頬を染めている様子が初々しかった。
あまり無駄口をきかないエリアードが、よほど驚いたのか、ため息と共にさらに言葉をもらす。
「王家の姫君が、これほどおてんばな振る舞いをなさるとは思いませんでした」
失礼と言えば失礼な言葉だったが、アイリーンは気にもとめていない。
何しろ、見るもの全てに夢中だった。
また小走りになりながら、アイリーンは笑って言った。
「この服と靴、とっても動きやすいの!」
上流階級の貴族の女性は長い裾を引くドレスを着ているためもあって、優雅にゆっくりと歩くのが普通だった。
いくら動きやすい格好をしているからと言っても……と、彼女の意外な活発さに、エリアードは驚きを隠しきれない。
「ですが姫」
エリアードは少々きつく言葉を吐いた。
「そのようにしょっちゅう立ち止まったり、いきなり走り出したりされては、すぐに疲れておしまいになります。
長旅には、ペースを保った歩き方を……しませんと……」
アイリーンの顔が見る見る曇るのを見て、エリアードの声は尻すぼみにしぼんでいった。
アイリーンは悲しげに尋ねた。
「あの、エリアード、それはつまり……立ち止まってお花を眺めたり、チョウチョを追いかけたりも、しちゃいけないってこと?」
「ええ、まあ、できるだけ……」
「……わかったわ」
アイリーンはしょんぼりと肩を落とした。
この日の朝、明るい光の元で馬の足を子細に調べたエリアードは、無理をさせすぎたことを悟った。
馬を休ませるために、しばらく徒歩で旅する必要があると判断したのだが、アイリーンの体力がどれだけもつかが気がかりだったのだ。
追っ手の方は、ここまで来れば、あまり心配していなかった。
城下街および首都の警備兵は、首都の行政局の指揮下にある。
行政局の管轄範囲を離れれば、後は王宮がその権を掌握する軍の管轄だ。
王やレスターがうまくやってくれているはずだった。
第一、誰が魔女など本気で捕らえようと思うだろう。
都からいなくなってもらえれば、それだけで一安心というものだ。
エリアードは寡黙な質らしく、口数が少なかった。
少々気詰まりに感じる瞬間も度々訪れたが、アイリーンはあまり気にしないよう務めていた。
ユリアが元気にしているのか聞きたかったが、声をかけるのがはばかられた。
もしかしたら……この人は、私がお姉様を殺したと思っているのかもしれない、とアイリーンは思った。
王の命令だから仕方なく私を送ってくれているだけで……。
春から初夏へと移り変わっていくこの季節、木々の葉は鮮やかな新緑に彩られ、そこかしこに色とりどりの可憐な野の花が咲いている。
木漏れ日が金色の光の筋となって降り注ぐ中、馬を引いて歩いていたエリアードは立ち止まり、後ろを振り返った。
遅れて歩いていたアイリーンがそれに気づき、嬉しそうにパタパタと走り寄ってくる。
肩までに切りそろえられた金髪が以前の重みを失って一層柔らかそうにフワフワとなびき、微笑みをたたえ生き生きと輝くその顔に、さらに明るさを添えている。
エリアードに追いついて横並びになったとたん、アイリーンは行く手の木の根の上に一匹のリスがいてこちらをうかがっているのに気がついた。
歓声を上げ、今度はエリアードより前へ走っていく。
リスは素早く身をひるがえして木を上っていき、幹の中程に空いていたウロの中へと姿を消した。
アイリーンは木に駆け寄ると下枝につかまって体を持ち上げ、ウロの中をのぞき込もうとした。
エリアードが警告の声を発するより早く、アイリーンがつかまっていた細い枝は折れてしまった。
落下する彼女の体を、かろうじてエリアードが抱きとめる。
「……姫……いい加減になさってください……」
困り切った表情で、横抱きにした彼女を見下ろし、エリアードは言った。
「ご、ごめんなさい」
アイリーンはあわてて彼の腕から降りた。
ほんのり頬を染めている様子が初々しかった。
あまり無駄口をきかないエリアードが、よほど驚いたのか、ため息と共にさらに言葉をもらす。
「王家の姫君が、これほどおてんばな振る舞いをなさるとは思いませんでした」
失礼と言えば失礼な言葉だったが、アイリーンは気にもとめていない。
何しろ、見るもの全てに夢中だった。
また小走りになりながら、アイリーンは笑って言った。
「この服と靴、とっても動きやすいの!」
上流階級の貴族の女性は長い裾を引くドレスを着ているためもあって、優雅にゆっくりと歩くのが普通だった。
いくら動きやすい格好をしているからと言っても……と、彼女の意外な活発さに、エリアードは驚きを隠しきれない。
「ですが姫」
エリアードは少々きつく言葉を吐いた。
「そのようにしょっちゅう立ち止まったり、いきなり走り出したりされては、すぐに疲れておしまいになります。
長旅には、ペースを保った歩き方を……しませんと……」
アイリーンの顔が見る見る曇るのを見て、エリアードの声は尻すぼみにしぼんでいった。
アイリーンは悲しげに尋ねた。
「あの、エリアード、それはつまり……立ち止まってお花を眺めたり、チョウチョを追いかけたりも、しちゃいけないってこと?」
「ええ、まあ、できるだけ……」
「……わかったわ」
アイリーンはしょんぼりと肩を落とした。
この日の朝、明るい光の元で馬の足を子細に調べたエリアードは、無理をさせすぎたことを悟った。
馬を休ませるために、しばらく徒歩で旅する必要があると判断したのだが、アイリーンの体力がどれだけもつかが気がかりだったのだ。
追っ手の方は、ここまで来れば、あまり心配していなかった。
城下街および首都の警備兵は、首都の行政局の指揮下にある。
行政局の管轄範囲を離れれば、後は王宮がその権を掌握する軍の管轄だ。
王やレスターがうまくやってくれているはずだった。
第一、誰が魔女など本気で捕らえようと思うだろう。
都からいなくなってもらえれば、それだけで一安心というものだ。
エリアードは寡黙な質らしく、口数が少なかった。
少々気詰まりに感じる瞬間も度々訪れたが、アイリーンはあまり気にしないよう務めていた。
ユリアが元気にしているのか聞きたかったが、声をかけるのがはばかられた。
もしかしたら……この人は、私がお姉様を殺したと思っているのかもしれない、とアイリーンは思った。
王の命令だから仕方なく私を送ってくれているだけで……。
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