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第2部.アドニア〜リムウル 第2章
3.共寝
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アイリーンは、市というものを見たのは初めてだった。
街の中心である大通りと広場には、近隣の村の野菜や果物を売る農夫たちや、はるか遠方からもやってくる、様々な物を売る商人たちが所狭しと品物を広げている。
それらを買い求める人々でごった返し、通りのにぎわいはそうとうなものだ。
当然と言えば当然なのだが、見るもの聞くもの、全てが物珍しいのだろう、大きな瞳を好奇心でキラキラ輝かせ、きょろきょろしながら、アイリーンはエリアードの後ろを歩いていた。
そのため、ただでさえ人混みを歩くのに慣れていない彼女は、人とぶつかってばかりいる。
しかも、興味を引くものがあるとすぐに、フラフラとそちらへ寄って行ってしまうのだ。
エリアードは気が気ではなかった。
何度も、あやうく怒鳴りつけそうになり、そのたびに“従者は姫を怒鳴りつけたりしない……”と自分に言い聞かせて耐えた。
どうしてこうも警戒心がないのか。本当に、命を狙われているという自覚があるのか?
これだけ大勢人がいれば、どんなに神経を尖らせ、魔力のアンテナを張っていても、敵の気配は紛れてしまう。
全く目が離せない彼女にとうとう業を煮やしたエリアードは、彼女の肩をがっしりつかんで放さなくなってしまった。
そうでもしないと、どこへ行ってしまうか、誰について行ってしまうか、わかったものではないという気がした。
市で必要な物を買いそろえ、適当な宿を決めたときには、エリアードはかつてないほどの疲れを感じていた。
アイリーンが湯を使う間だけ外に出ていた彼は、部屋を一つしか取れなかったことを詫びながら、自分は床に寝るから、と言って早々に休もうとした。
「どうして? 一緒に寝ればいいじゃない? そりゃちょっと狭いかも知れないけど……床は固いわ」
「……」
ベッドの端に腰掛け、心底不思議そうに聞いてくるアイリーンに、一瞬、エリアードは絶句した。
“この、純粋培養のお姫様育ちめ……!”
軽いいらだちがまたもや彼を襲ってくる。
物心ついてからの彼女の孤独な生活を考えれば無理もないことだったが、度を過ぎた無知は、あまりにも危なっかしい。
それとも、従者というものは完全に無害だと、信じて疑っていないのだろうか。
ほんの少々、意地の悪い気持ちも手伝って、彼は何喰わぬ顔で答えた。
「そうですね。では失礼して……」
マントを脱ぐと彼女の隣に滑り込んで身を横たえた。
とたんに、彼女の体に緊張が走るのがわかる。
彼はその華奢な体に手を伸ばしてぐいと引き寄せ、自分の隣に横にならせた。
そのまま腕に力を込めて抱きしめると、ますます体を硬くしてとまどっている様子だ。
「狭いですからね、こうした方が落ち着くと思いますよ」
「え、え~っと……そ、そうね……」
言葉とは裏腹に落ち着かなげに身じろぎする様子に、彼はほくそ笑んだ。
しばらくしてから、「どうです? 眠れないでしょう?」と起きあがって、いくらかなりとも、彼女の認識を改めてやるつもりだった。
ところが……。
街の中心である大通りと広場には、近隣の村の野菜や果物を売る農夫たちや、はるか遠方からもやってくる、様々な物を売る商人たちが所狭しと品物を広げている。
それらを買い求める人々でごった返し、通りのにぎわいはそうとうなものだ。
当然と言えば当然なのだが、見るもの聞くもの、全てが物珍しいのだろう、大きな瞳を好奇心でキラキラ輝かせ、きょろきょろしながら、アイリーンはエリアードの後ろを歩いていた。
そのため、ただでさえ人混みを歩くのに慣れていない彼女は、人とぶつかってばかりいる。
しかも、興味を引くものがあるとすぐに、フラフラとそちらへ寄って行ってしまうのだ。
エリアードは気が気ではなかった。
何度も、あやうく怒鳴りつけそうになり、そのたびに“従者は姫を怒鳴りつけたりしない……”と自分に言い聞かせて耐えた。
どうしてこうも警戒心がないのか。本当に、命を狙われているという自覚があるのか?
これだけ大勢人がいれば、どんなに神経を尖らせ、魔力のアンテナを張っていても、敵の気配は紛れてしまう。
全く目が離せない彼女にとうとう業を煮やしたエリアードは、彼女の肩をがっしりつかんで放さなくなってしまった。
そうでもしないと、どこへ行ってしまうか、誰について行ってしまうか、わかったものではないという気がした。
市で必要な物を買いそろえ、適当な宿を決めたときには、エリアードはかつてないほどの疲れを感じていた。
アイリーンが湯を使う間だけ外に出ていた彼は、部屋を一つしか取れなかったことを詫びながら、自分は床に寝るから、と言って早々に休もうとした。
「どうして? 一緒に寝ればいいじゃない? そりゃちょっと狭いかも知れないけど……床は固いわ」
「……」
ベッドの端に腰掛け、心底不思議そうに聞いてくるアイリーンに、一瞬、エリアードは絶句した。
“この、純粋培養のお姫様育ちめ……!”
軽いいらだちがまたもや彼を襲ってくる。
物心ついてからの彼女の孤独な生活を考えれば無理もないことだったが、度を過ぎた無知は、あまりにも危なっかしい。
それとも、従者というものは完全に無害だと、信じて疑っていないのだろうか。
ほんの少々、意地の悪い気持ちも手伝って、彼は何喰わぬ顔で答えた。
「そうですね。では失礼して……」
マントを脱ぐと彼女の隣に滑り込んで身を横たえた。
とたんに、彼女の体に緊張が走るのがわかる。
彼はその華奢な体に手を伸ばしてぐいと引き寄せ、自分の隣に横にならせた。
そのまま腕に力を込めて抱きしめると、ますます体を硬くしてとまどっている様子だ。
「狭いですからね、こうした方が落ち着くと思いますよ」
「え、え~っと……そ、そうね……」
言葉とは裏腹に落ち着かなげに身じろぎする様子に、彼はほくそ笑んだ。
しばらくしてから、「どうです? 眠れないでしょう?」と起きあがって、いくらかなりとも、彼女の認識を改めてやるつもりだった。
ところが……。
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