薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第2章

7.影

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どうとでもなりそうなほど、華奢な体だった。
魔力にもまだ目覚めたばかり、今なら、たやすく命を奪ってしまえるだろう。

このまま生かしておいて、果たして本当に、時が満ちたその時……自分の思うとおりにさせることができるのかどうか……?

一見、おとなしく従順かと思えば、時折見せる腹立たしいほどのこの頑固さ、強情さはどうだろう?

彼女の御しがたさ、気丈さと気高さを改めて思い知っていた。


しかしやはり、自分にはこの少女を殺すことはできそうもない……。

そもそも最初から、それができれば今頃は……こんなところで、こんなやっかいな旅などしていない。


彼は、 腕の中の彼女の温もりと柔らかさに、心を乱されている自分を自覚せざるを得なかった。

となると、先ほどはどうしてもできなかった行為を、怒りにまかせて……いや、怒りの余韻が煽る激情にまかせて、してしまいそうになる。


エリアードは彼女をつき放し、さっと身をひるがえした。
部屋から出て行こうとする彼に、アイリーンは困惑した声をかける。

「エリアード……?」
「少し外の風に当たってきます。あなたはここから出ないで下さい、危険ですから」

振り向きもせずに出て行く彼の背中を、アイリーンは悲しい気持ちで見送った。

“何てバカなことを言ってしまったのだろう!
 一人でレナンダールへ行く、なんて……
 エリアードの言うとおり、そんなこと、自分にできるはずがないのに……。
 彼が怒るのも当たり前だわ……”


ため息をついて窓の外を見ると、ちょうどエリアードが宿から出て、細い路地を遠ざかっていくのが見えた。

ぼんやりとそれを目で追ううち、アイリーンはあることに気づいてハッと身を乗り出した。
“何かしら……、あれは……?”

彼の後を追うように、一つの影のような姿が移動していく。
“もしかして、敵……? 大変!!”

エリアードはむろん気づいていない。不意に襲われたら、いくら彼でも……。

“エリアード!!”
アイリーンは必死になって彼に心で呼びかけた。

しかし、怒りのために心を閉ざしているのだろうか? 彼は全く気づかない様子だ。

“あっ、そうだわ、結界が張ってあるんだった……!”

この部屋の中からは、彼に心で話しかけても届かない。
と言って、声を出しても、もう届きそうにない距離だ。

アイリーンはあわてて部屋を飛び出した。
“早く知らせなくちゃ……!!”

宿の狭い階段を駆け下り、戸口から路地に出ると、彼が去った方向に目を走らせる。

心で会話する方法を習ったとき、彼に注意されたことを思い出していた。

「あなたから私に呼びかけるときは、私を目で確認してからにして下さい。
 うまく結界が張れないうちは、不特定多数に向かって呼びかけるのは危険です。
 もし敵が近くにいたら、魔力の気配を悟られてしまいますから」

闇に包まれた路地を見透かしてみたが、エリアードの姿はもう見あたらない。

アイリーンは泣きそうになったが、まだそんなに遠くには行っていないはずだ、と心を奮い立たせ、路地の突き当たりまで走った。

T字路の先端で素早く両側を確認したけれど、やはり彼の姿はどこにもなかった。

“どうしよう……エリアード、どっちへ行っちゃったの?”

仕方なく、勘だけを頼りに、アイリーンは夜の街をさらに先へと進んで行った。
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