薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第2章

12.予感

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“ティレル……”

胸を締め付けるこの悲しみは何だろう?
もしかして……、これは予感なのだろうか? もう二度と、彼には会えないという……。

いいえ、そんなはずはない! きっと……、きっとまた会える……。

“ティレル、待っていてね。必ず、あなたを探し出してみせる……”



腕の中の少女が何かつぶやいたので視線を落とすと、彼女は眠りながら涙を流していた。

男は思わず立ち止まった。侍女に仕度をさせたアイリーンを、主人のもとへ運んでいく途中なのだ。
まだ年端もいかない少女を、この先待っている運命を思うと、彼の心は痛んだ。

彼女を捕らえて主人に差し出したのは彼だった。
森の中で彼女とエリアードを襲い、仲間を全て失った後、一人、彼らの後を追っていた。

しかしエリアードと呼ばれているあの男の魔力は、自分のものより何十倍もレベルが上だ。
とてもかなう相手ではないとわかる。

そう報告したのだが、主人は彼を許さなかった。
必ず殺すか、捕らえるかしてこい、それまで、館に帰ることは許さないと言われた。

彼には、妻や子供がいる。人質に取られているも同然だった。逃げることもかなわない。
負けるとわかっている相手に魔力で戦いを仕掛けるなど、狂気の沙汰だ。
死ねと言われているようなものだった。

それでも、彼には他になすすべがなかった。
仕方なく、つかず離れず彼らの後を追い、機会をうかがっていたのだ。

しかしそれは容易なことではなかった。何しろエリアードの魔力は桁外れに強い。
少しでも近づきすぎると、必死で自分の魔力の気配を隠しているにもかかわらず、彼に感づかれてしまいそうだった。

そのためこの街に入ってすぐに、彼は彼らを見失ってしまった。
再びエリアードを見つけたのは全くの僥倖と言えた。

しかもエリアードは何かに気を取られていたらしく、普段の彼なら見落とすはずのない、間近に存在する他者の魔力の気配に気づかなかったのだ。

自分の行く末を考えて不安で眠れず、夜の街をうろついていると、自分のいる細い路地の先で直角に交わっている道を、エリアードがサッと横切っていくのが見えた。

一瞬、肝を冷やしたが、自分に気づいていない様子に胸をなで下ろし、後を追った。

追ったところで……彼を倒せるわけでもないのだが……と悶々と思い悩み、悩みつつも進んでいくうちに、彼は自分の後ろから、別の魔力の気配が近づいてくるのを感じた。

おそらくエリアードの方は、無意識でもそれができているのだろう。
彼の強い魔力の気配はしっかりとガードされ、彼を見知ってそうと知っている者にしか見破られないほどだ。

しかしこの、後ろの魔力の気配は……いかにも無防備だった。

彼は足を止めて振り返った。
……間違いない、これは、アイリーンだ。

“しめた! 彼女を捕らえれば館へ帰れる!”

しかしどうやって捕らえるか、それが問題だった。下手をすると前を行くエリアードに感づかれる。
彼は自分の魔力の気配をきっちりと隠し、ただの通行人のふりを装って元来た道を戻り始めた。

とっくに真夜中を過ぎ、明け方近いこんな時間に歩いている者など、他には誰もいないから、通行人のふりと言っても無理があるかも知れない……。

しかし、とにかく彼女に怪しまれないように近づいて、一瞬で片を付けなければならない。

彼女が小走りに近づいてくるのが見えた。金の髪が夜目にも明るく輝いて見える。
彼は何気なく歩いていきながら、緊張が高まってくるのを感じた。

すれ違ったら、「何か落としましたよ」と声をかけ、振り向いたところを……。と考えていたのだが。
驚いたことに、彼女の方から近づいてきた。

「あの……すみません」
ずっと駆けてきたのだろうか、息が上がっている。

「……何だい?」
「この道で、背の高い男の人と……すれ違いませんでしたか?」

「ああ……見たよ」
アイリーンはホッとしたように笑顔を浮かべた。

「ありがとうございました」と言って走り去ろうとするのを呼び止める。

「その人、ある家の中に入っていったけど……良ければ案内しようか?」

さりげなく近づきながら言うと、

「まぁ……それはご親切に」
アイリーンは嬉しげに微笑んだ。

微塵も疑っていない様子に罪悪感を感じながら、彼は彼女のみぞおちを殴って気を失わせた。
あっけないほどあっさりと、彼女の体が倒れかかってくる。

“悪く思わないでくれ……私も自分の身が可愛い……妻や子供も、守らなければならないんだ”
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