薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第3章

3.ブルーグリーンの瞳

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「あんた、何でフードを降ろさないんだい? 暑苦しくないか?」

グラスを重ね、胃袋も満たされて気分良くなった少年は、少しからかうつもりで、そう口にした。

もちろん理由はわかっている。お忍びで来ている都合上、あまり顔を人目にさらしたくないのだろう。

しかし寒くもないこの季節、屋内でフードを被っている者など他に誰もいなかった。

「……ああ、かえって目立ってしまってるかな、やっぱり」
「うん」

男は苦笑いを浮かべ、フードを降ろした。
現れた白っぽい金髪は美しいものだったが、この地方ではさほど珍しいわけではない。

しかし、狭いテーブルをはさんで向かい合う少年の近さからなら、天井に吊された獣脂のランプに照らされた男の瞳が、ちょっと見ない珍しい色合いであることが見て取れた。

“きれいなブルーグリーン……って、え?……まさか……”

顔色を変えた少年の様子に、男は再び困ったように眉をひそめた。

「人目を忍ぶには、いささか不利な身の上でね」
そう言うと笑って、自分の人差し指を唇に当てて見せる。

“うそだろう、おい!”

驚いた少年があわてて身を引いた拍子に、手元にあったグラスに手が触れた。

倒れたグラスから中身がこぼれ、となりの男の衣服にかかる。
悪いことに、いかにもたちの悪そうな荒くれ者、といった風情の男だった。

「おい、何してくれてるんだ、ええ?」
案の定、男が少年をにらみつける。

「すみません、私が彼を驚かせてしまったものですから。許してやってくれませんか」
フードを被りなおし、レスターは立ち上がって言った。

「ふん! 謝って済むと思っているのか、弁償しろ、弁償!!」

「あ……」
顔色を失った少年が、硬貨を詰め込んだ袋に手を伸ばす。

その手を、テーブルのこちら側に回ってきたレスターが素早く押しとどめた。

男と少年の間に割って入ると、
「これを……」と片方のピアスを外し、男に差し出す。

うさんくさそうに光に透かして見る男に、柔らかな笑みを浮かべてレスターは言った。

「エメラルドですよ、もちろん本物です。
 信じられないと言うなら、明日、一緒に鑑定士の所へ行きましょう。
 それまでここで飲み明かしませんか? 私のおごりで」

「……朝まで? マジでか? お前のおごりで?」
男はぎょろりとした目を剥いて、レスターの顔を眺めた。

「ええ」
ニッコリと笑いかける彼の顔は、相手の毒気を抜くような邪気のなさだった。

このようなところに来る男達は酒が飲みたくて来ているのだ。
おごると言われれば嬉しくないわけがない。

「よーし、気に入った! 今夜は飲み明かすぞ!!」

上機嫌になった男は 腕を上げ、
「じゃんじゃん持ってこい!」と店主に向かって叫んだ。

「あ、あの……」
まごついている少年の手を取って、レスターはそっと彼を壁際へと押しやった。

「君はもう家へ帰るといい。早く休んで風邪を治さないとね。
 でも悪いけど、やっぱり少し硬貨を分けてもらうよ。
 あいつ、飲みそうだし……持ち合わせだけじゃ少々不安だ」

声を潜めてそう言うと、彼は苦笑した。

「それでもあのまま、君の稼ぎを全部巻き上げられるよりは良かったと、思ってくれるかい?
 穏便に済ませておかないと、後で君が困るだろう。店に迷惑もかかるしね」

「だけど、あなたの宝石が……!」

「いいんだ、どうせ手放すつもりだった。明日、これも売ってしまうことにするよ」と、片耳に残ったピアスを指さしてみせる。 

それから小さく、ため息をついた。
「この目も一緒に売ってしまえたらねぇ」

本当に困ったもんだ、というその様子に、少年はぷっと吹き出した。
「無理だよ……! 確かに宝石みたいにきれいだけどね!」

意気消沈していた少年の顔が明るくなったのを見て、レスターの瞳が微笑んだ。

「だけど心配しないで。おれ、師匠がアドニアの首都にいた頃の話をしょっちゅう聞かされてて……あなたのことも色々……だからすぐにわかったんだ」

少年は硬貨の入った袋をそのまま、レスターの手に押しつけた。
「これ、預けとく! 明日の朝、残りを取りに来るから!!」
「あっ……」

レスターが止めようとする暇もなく、少年は機敏に身を翻すと、狭い店の中を器用に人をよけながら走り去って行った。

その姿を見送りながら、レスターは眉間にしわを寄せる。

“明日の朝だって? 困ったなぁ。まさかとは思うが……嫌な予感がするぞ”

「おーい、色男! 何してる、早く来い、一緒に飲もうぜ!!」

見ると、さっきの男が禿げ頭をテカらせ、ビールのジョッキを高々と差し上げて呼んでいる。
回りにいる、連れらしい数人の男達もすっかり出来上がりつつある雰囲気だ。

“おいおい、まだしらふでいてもらわなくちゃ困る……”

と思いながら、レスターは笑顔を浮かべて彼らの輪の中へと入っていった。
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