薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第3章

13.手紙

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よほど無視して先を急ごうかと思ったが、こんなことが大した時間稼ぎにならないことぐらい、わかりきっている。

あの考え深いレスターが、そんな意味のないことをさせるだろうか……?

「ええぃ! くそっ!」

ウィリアムは悪態をつき、驚いている宿の主人を尻目に部屋に駆け戻った。

“脱ぐって……どこまで?”

納得できない顔をしながらも、まずはマントを脱ぎ、次に肩から斜めに提げている革の剣帯を取る。

そして腰のところで袖無しの胴着とその下のシャツを同時に絞っているベルトを外し、胴着を脱いだ時。

服の中に仕込んであったらしい、手紙が落ちてきた。


“これか……!”

読んでいくウィリアムの顔が、さっと引き締まった。

その手紙は……

ベルガードの領主、ルバートがアイリーンとギメリックを探していた形跡がある。

しかし彼女たちのことは最重要機密事項として、王宮内のごく限られた人間にしか知らされていないはずだ。

確かに自分は会議での結論が出る前に城を出たから、その後どういう方針になったかは不明だが、それにしても他にも色々、彼には不審な点がある。

自分が思うに、ルバートがエンドルーアの密偵である可能性があるので、それを王に知らせてほしい、という内容だった。

「う~……!」

一言うなったまま、手紙を凝視し続けていたウィリアムはやがて、がっくり肩を落とした。

“レスター様!……あんまりです! 私が無視できないことを見越して、こんな……”

手紙の口調は命令ではない。懇願だった。

しかし、ウィリアムの魂には、底の底までアドニアの武人としての忠誠心が染みついている。

レスターに付き従うために同じくアドニアでの身分を捨てた彼だったが、これからエンドルーアと戦になろうかという今、国の存亡を左右するかも知れない重大な情報を、王宮に伝えないわけにはいかなかった。


ウィリアムは、何とか自分は帰らずに誰かにこの情報を託すことを考えてみた。

都市から都市、時には国から国へと渡り歩いている商人などに、手紙を託すことは普通に行われていた。

しかし……と、ウィリアムは頭を抱えた。

コトは非常に重大だ。もしも一般の民に情報が漏れたり、まして敵の手に渡って握りつぶされたりしては……大変なことになる。

だからこそ、レスターは用心に用心を重ね、この手紙が万が一にも他人の目に触れることのないように、こんな手の込んだ方法でウィリアムに手紙の存在を知らせたのだろう。

“F”と書かれた手紙も、服を脱ぐことを指示した手紙も、それだけ読んだのでは何のことかはわからない。

もし宿の主人が好奇心に負けて手紙を読んだとしても、部屋で眠っているウィリアムが衣服の下に何か大切な物を持っていると勘ぐられることもないし、誰かが井戸のそばで手紙を見つけたとしても、その手紙とウィリアムを結びつけることはできない。

さらに、たとえ不測の事態によってウィリアムに二つの手紙が届かなくても、そうなれば必ず自分に追いついてくるはずだから秘密の手紙は無事だと、そこまでレスターは考え抜いたに違いない。


“どうしても、私自身が帰るしかないのか……そうだっ! 国境警備兵がいる! そこから軍人を一人選んで……いや、ダメだ!!”

ウィリアムはレスターのそばに長年仕え、彼のやり方をよく知っていた。

ウィリアムが思いつきそうなことぐらい、彼にはお見通しだろう。

ここぞというときに効果的にウソをつくこともわきまえている。

警備隊の者に、後から来るウィリアムの言を信じないようにさせることなど、彼にとっては朝飯前なのだ。

きっともう、手を打ってあるに違いない……。


「……ああ、ああ!! わかりましたよ、帰ればいいんでしょう、帰れば!!」

ウィリアムは恨めしそうに宙を睨み、彼には薄情と思える主人の顔を思い浮かべた。

どうせ今頃、あの人は……どんなときにも茶目っ気たっぷりのあの主人は、笑っているに違いない。

狐につままれたような顔をして服を脱ぐ、間抜けな私の姿を想像して……!

「いいですとも……見ていてご覧なさい!

 私はあきらめませんからね、きっとまた、追いついてみせますから……!!」
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