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第3部.リムウル 第1章
27.混沌
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アイリーンは最後の気力を振り絞って、魔力で抵抗しようとした。
ルバートの時と同じように、自分の中の力を集め、ギメリックに向かって投げつける。
一瞬、目の前を閃光が走った気がした……。
けれど、力は吸収されたように彼の中に収まってしまい、何も起こらない。
圧倒的な力の差を前に、彼女の気丈さも、とうとう崩れ落ちた。
固く閉じたまぶたの奥から、涙があふれる。
“いや!……ティレル!……お兄様!!”
苦しげにひそめられた美しい眉、乱れた息をもらす甘い唇、こぼれ落ちる涙、か細い悲鳴さえも……
何もかもが、どうしようもなく彼の激情をかきたてる。今さら後へは引けなかった。
彼女にとってはひどいショックだろう。
しかしこれでもう、フレイヤの涙を担う重圧も、エンドルーアの脅威に対する恐れも、ティレルを殺す手助けをする胸の痛みや葛藤も……彼女を苦しめることは永遠にない。
呪われたエンドルーアの血から解放され、普通の娘として、ごく当たり前の生活ができるだろう。
彼女の身を危険に晒して、エンドルーアへと連れて行く必要もなくなるのだ。
それでいい、そのためなら……自分がどれほど恨まれ、憎まれようがかまわない。
“……そうだとも。
魔力を失ったお前をレナンダールまで送り届ければ……。
いや、明日、ソルグの村の住人を探しだし、彼らに託せばそれで事足りる。
……もう二度と会うこともない。
俺は石の力を手に入れて目的を果たし、やっと、死の安らかな翼の元で眠りにつくことができる……。
それだけを望んでこの数年、フレイヤの涙を探し続けてきたんだ!”
その、はずだった。しかし……。
“……どうして?……あなたを信じる気持ちになっていたのに……今になって裏切るのなら、どうして助けに来たりしたの? あのまま放っておいてくれたらよかったのに!”
信じた者に裏切られる気持ちは、嫌と言うほど味わっている彼だった。
彼女の悲嘆が胸に染みる。
“やめて、お願い……いや!!”
始まったときと同様、いきなり抱き上げられ、そのまま強く抱きしめられた。
アイリーンは何が何だかわからず、固く目を閉じたまま、ただ泣き続ける。
ギメリックは何度も、彼女の額に、そして唇に、口づけを落とした。
先ほどの奪うような激しいものではなく、いたわるような、そっと触れるだけのキスだった。
両のまぶたに触れたときは、あふれる涙を吸い取り、
「泣くな、俺が悪かった……」と苦しげにつぶやいた。
そして再び、激しく震える彼女の体を抱きしめる。
やはり自分にはこの少女を傷つけることは、できない……。
しかし目的を果たすためには、どうしても石の力が必要なのだ。
“ヴァイオレット……なぜだ?!
なぜ、血が繋がっているとはいえ、エンドルーア王家の争いには何の関係もないこの少女に……こんな過酷な運命を押しつけた?
アイリーン、お前は何も知らないのだ、ただ巻き込まれただけで……
もとはと言えば、全て俺の罪だというのに……!!”
乱暴されそうになったばかりだというのに不思議だったが、アイリーンは彼の腕に抱き包まれている感覚に心地よさを感じ、目を閉じたまま、おとなしくその身を委ねていた。
顔に押しつけられている彼の胸から、彼の心が伝わってくる……。
今はもう、彼の心には自分を害そうという気持ちは跡形もない。
彼の中にあるのは、自分に向けられた慈しみの心。
しかし同時に、その心に深い絶望が広がっていくのも感じる。
“……どうしたの……? 何がそんなに悲しいの?”
アイリーンは心話を使ったつもりだったが、ギメリックには伝わらなかったようだ。
“ああ、この人は……、こんなに深い闇を背負って、どうして生きていられるのだろう……”
彼自身の心が、果てのない闇の中に、今にも身を投じてしまいそうに揺らいでいるのがわかる。
“待って……行かないで! ダメよ……”
アイリーンは、どうして自分がそんなに焦っているのかわからないまま、必死で訴えかけた。
なぜか目を開けることができない。
混沌とした闇の中に、彼女の意識は吸い込まれていった。
ルバートの時と同じように、自分の中の力を集め、ギメリックに向かって投げつける。
一瞬、目の前を閃光が走った気がした……。
けれど、力は吸収されたように彼の中に収まってしまい、何も起こらない。
圧倒的な力の差を前に、彼女の気丈さも、とうとう崩れ落ちた。
固く閉じたまぶたの奥から、涙があふれる。
“いや!……ティレル!……お兄様!!”
苦しげにひそめられた美しい眉、乱れた息をもらす甘い唇、こぼれ落ちる涙、か細い悲鳴さえも……
何もかもが、どうしようもなく彼の激情をかきたてる。今さら後へは引けなかった。
彼女にとってはひどいショックだろう。
しかしこれでもう、フレイヤの涙を担う重圧も、エンドルーアの脅威に対する恐れも、ティレルを殺す手助けをする胸の痛みや葛藤も……彼女を苦しめることは永遠にない。
呪われたエンドルーアの血から解放され、普通の娘として、ごく当たり前の生活ができるだろう。
彼女の身を危険に晒して、エンドルーアへと連れて行く必要もなくなるのだ。
それでいい、そのためなら……自分がどれほど恨まれ、憎まれようがかまわない。
“……そうだとも。
魔力を失ったお前をレナンダールまで送り届ければ……。
いや、明日、ソルグの村の住人を探しだし、彼らに託せばそれで事足りる。
……もう二度と会うこともない。
俺は石の力を手に入れて目的を果たし、やっと、死の安らかな翼の元で眠りにつくことができる……。
それだけを望んでこの数年、フレイヤの涙を探し続けてきたんだ!”
その、はずだった。しかし……。
“……どうして?……あなたを信じる気持ちになっていたのに……今になって裏切るのなら、どうして助けに来たりしたの? あのまま放っておいてくれたらよかったのに!”
信じた者に裏切られる気持ちは、嫌と言うほど味わっている彼だった。
彼女の悲嘆が胸に染みる。
“やめて、お願い……いや!!”
始まったときと同様、いきなり抱き上げられ、そのまま強く抱きしめられた。
アイリーンは何が何だかわからず、固く目を閉じたまま、ただ泣き続ける。
ギメリックは何度も、彼女の額に、そして唇に、口づけを落とした。
先ほどの奪うような激しいものではなく、いたわるような、そっと触れるだけのキスだった。
両のまぶたに触れたときは、あふれる涙を吸い取り、
「泣くな、俺が悪かった……」と苦しげにつぶやいた。
そして再び、激しく震える彼女の体を抱きしめる。
やはり自分にはこの少女を傷つけることは、できない……。
しかし目的を果たすためには、どうしても石の力が必要なのだ。
“ヴァイオレット……なぜだ?!
なぜ、血が繋がっているとはいえ、エンドルーア王家の争いには何の関係もないこの少女に……こんな過酷な運命を押しつけた?
アイリーン、お前は何も知らないのだ、ただ巻き込まれただけで……
もとはと言えば、全て俺の罪だというのに……!!”
乱暴されそうになったばかりだというのに不思議だったが、アイリーンは彼の腕に抱き包まれている感覚に心地よさを感じ、目を閉じたまま、おとなしくその身を委ねていた。
顔に押しつけられている彼の胸から、彼の心が伝わってくる……。
今はもう、彼の心には自分を害そうという気持ちは跡形もない。
彼の中にあるのは、自分に向けられた慈しみの心。
しかし同時に、その心に深い絶望が広がっていくのも感じる。
“……どうしたの……? 何がそんなに悲しいの?”
アイリーンは心話を使ったつもりだったが、ギメリックには伝わらなかったようだ。
“ああ、この人は……、こんなに深い闇を背負って、どうして生きていられるのだろう……”
彼自身の心が、果てのない闇の中に、今にも身を投じてしまいそうに揺らいでいるのがわかる。
“待って……行かないで! ダメよ……”
アイリーンは、どうして自分がそんなに焦っているのかわからないまま、必死で訴えかけた。
なぜか目を開けることができない。
混沌とした闇の中に、彼女の意識は吸い込まれていった。
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ありがとうございます💞
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