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第3部.リムウル 第2章
12.痴話喧嘩
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気がつかないうちに、すっかり夜は明けていた。
霧が立ちこめて太陽は見えなかったが、森には白々とした明るさが満ちてきていた。
その光に柔らかく照らされた狭い馬車の中に、アイリーンは立っていた。
足下には、ルバートが倒れて気を失っている。
「隙を見て、その剣で殴ってやったわ」
得意げに言うアイリーンの左頬が赤く、少し腫れているようだ。
唇が切れて血が付いていた。
「奴に何をされた?!」
ギメリックが、彼女を引っ張り上げながら問いただす。
アイリーンはギメリックの横に並ぶと、怒った顔でルバートを見下ろした。
「キスされそうになったから鼻にかみついたら、殴られたの。
それから首を絞められて……もう少しで気を失うところだった」
「~~っ!! このバカ!! 心話なら使っていいと言っただろう?! なんで俺を呼ばなかった?」
アイリーンは怒りの余韻で興奮した面持ちをギメリックに向けた。
「バカって言わないでよ!! 本気で殺すつもりじゃないって、わかったからよ。
それに金属の痛みに比べたらこれぐらい平気よ、何ともないわ」
「平気なものか、切れているじゃないか、見せてみろ」
プイッと顔を背けた彼女のあごをつまんでこちらを向かせようとしたが、アイリーンはその手を振り払って挑むように彼を見上げた。
「私、自分がこんな目に遭う理由を、聞く権利があると思うわ。
いい加減話してくれてもいいでしょう?!」
怒りのため気丈さが前面に出た彼女の顔は少し上気し、見上げてくる大きな青い瞳が、キラキラと強く輝いていた。
ギメリックは顔を背け、ボソボソとつぶやいた。
「そんなことより、こいつらをどうにかしないとな……」
「ごまかさないでよ!」
「うるさい! 後だ、あと!!」
そう叫んでギメリックは馬車から飛び降りた。
アイリーンも後に続き、ギメリックがそこでひっくり返っているのを見て驚いた。
「ど、どうしたの?」
“くそっ……怒鳴ったら目眩が……”
さすがの彼も魔力を消耗しすぎたのだと気づき、アイリーンはあわてて彼のそばにひざまづいた。
その拍子に、彼が持っている剣に直接、手が触れる。
「きゃっ!!」
「バカ! 気をつけろ!!」
突然襲って来た鋭い痛みと罵倒された悔しさ、そして自分でも訳の分からない感情のために少し涙ぐみ、アイリーンは言った。
「……バカって言わないでよ……」
ギメリックはギクリとし、剣で体を支えて半身を起こしながら
「泣くな!」と一喝した。
「泣いてないわ!」
アイリーンは素早く彼の体の反対側に回り込み、彼が立ち上がるのに手を貸した。
“こんな痛い思い、ずっとしてたの……?”
魔力を持つ者が剣を携帯するつらさについては、ルバートの館で聞いていた。
なのに、ほとんど失念していたのは……ギメリックがよほど注意して、自分に剣が触れないよう気をつけてくれていたからだ、とアイリーンは気づいた。
“ そう言えば、私の肩を抱く時もいつも同じ側……剣を吊るしていない方だったわ”
自分と旅することがこの男にどれほどの忍耐を強いてきたのか、もちろん全てを知ることはできなかった。
が、この時アイリーンには何となく、感じることができたのだ。
ギメリックが低くうなり声を上げる。
どうやら自分のふがいなさに腹を立てているようだった。
額に汗を浮かばせた彼のしかめっ面を見上げ、アイリーンは言った。
「ねぇ、その剣、つらいんじゃないの? 私、代わりに持つわ、少しの間なら……」
「バカか! 使えない奴が持っていて何になる?」
「またバカって言った!!」
「いちいち反応するな!」
「痴話喧嘩もそこまでだ」
降って来た声を振り仰ぐと、馬車の上にルバートが立っていた。
霧が立ちこめて太陽は見えなかったが、森には白々とした明るさが満ちてきていた。
その光に柔らかく照らされた狭い馬車の中に、アイリーンは立っていた。
足下には、ルバートが倒れて気を失っている。
「隙を見て、その剣で殴ってやったわ」
得意げに言うアイリーンの左頬が赤く、少し腫れているようだ。
唇が切れて血が付いていた。
「奴に何をされた?!」
ギメリックが、彼女を引っ張り上げながら問いただす。
アイリーンはギメリックの横に並ぶと、怒った顔でルバートを見下ろした。
「キスされそうになったから鼻にかみついたら、殴られたの。
それから首を絞められて……もう少しで気を失うところだった」
「~~っ!! このバカ!! 心話なら使っていいと言っただろう?! なんで俺を呼ばなかった?」
アイリーンは怒りの余韻で興奮した面持ちをギメリックに向けた。
「バカって言わないでよ!! 本気で殺すつもりじゃないって、わかったからよ。
それに金属の痛みに比べたらこれぐらい平気よ、何ともないわ」
「平気なものか、切れているじゃないか、見せてみろ」
プイッと顔を背けた彼女のあごをつまんでこちらを向かせようとしたが、アイリーンはその手を振り払って挑むように彼を見上げた。
「私、自分がこんな目に遭う理由を、聞く権利があると思うわ。
いい加減話してくれてもいいでしょう?!」
怒りのため気丈さが前面に出た彼女の顔は少し上気し、見上げてくる大きな青い瞳が、キラキラと強く輝いていた。
ギメリックは顔を背け、ボソボソとつぶやいた。
「そんなことより、こいつらをどうにかしないとな……」
「ごまかさないでよ!」
「うるさい! 後だ、あと!!」
そう叫んでギメリックは馬車から飛び降りた。
アイリーンも後に続き、ギメリックがそこでひっくり返っているのを見て驚いた。
「ど、どうしたの?」
“くそっ……怒鳴ったら目眩が……”
さすがの彼も魔力を消耗しすぎたのだと気づき、アイリーンはあわてて彼のそばにひざまづいた。
その拍子に、彼が持っている剣に直接、手が触れる。
「きゃっ!!」
「バカ! 気をつけろ!!」
突然襲って来た鋭い痛みと罵倒された悔しさ、そして自分でも訳の分からない感情のために少し涙ぐみ、アイリーンは言った。
「……バカって言わないでよ……」
ギメリックはギクリとし、剣で体を支えて半身を起こしながら
「泣くな!」と一喝した。
「泣いてないわ!」
アイリーンは素早く彼の体の反対側に回り込み、彼が立ち上がるのに手を貸した。
“こんな痛い思い、ずっとしてたの……?”
魔力を持つ者が剣を携帯するつらさについては、ルバートの館で聞いていた。
なのに、ほとんど失念していたのは……ギメリックがよほど注意して、自分に剣が触れないよう気をつけてくれていたからだ、とアイリーンは気づいた。
“ そう言えば、私の肩を抱く時もいつも同じ側……剣を吊るしていない方だったわ”
自分と旅することがこの男にどれほどの忍耐を強いてきたのか、もちろん全てを知ることはできなかった。
が、この時アイリーンには何となく、感じることができたのだ。
ギメリックが低くうなり声を上げる。
どうやら自分のふがいなさに腹を立てているようだった。
額に汗を浮かばせた彼のしかめっ面を見上げ、アイリーンは言った。
「ねぇ、その剣、つらいんじゃないの? 私、代わりに持つわ、少しの間なら……」
「バカか! 使えない奴が持っていて何になる?」
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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