薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第2章

14.謀反人

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アイリーンは仕方なく、馬車の中に入って腰を落とした。

心配そうに見上げてくる彼女に笑ってみせながら、ギメリックは言った。

「しばらくの辛抱だ、結界に集中しろ。ヤバいと思ったらすぐ知らせるんだぞ、いいな?」

兵士たちはすぐそこまで迫っていた。

ギメリックが 扉を閉めて馬車から飛び降りると、即座に剣戟の音が響き始める。

小さな馬車の窓から、アイリーンは一生懸命ギメリックの姿を目で追った。

彼の剣さばきは相変わらず鋭く無駄がないように見える。

それでもアイリーンは心配でたまらず、ハラハラしながらその姿を見守った。


時折、強い魔力の気配がわき起るのが感じられ、ギメリックが剣と魔力の両方を使って戦っていることがわかる。

アイリーンはその度に気合いを入れ、結界を保つことに懸命になった。


やがて彼女は悟った。

ギメリックは兵士を相手に剣で戦い、同時にルバートからの魔力戦に応じているらしい。

常人との息つく暇もない接近戦、しかも他人を巻き添えにする恐れがあったり、今のように魔力の消耗が激しいときは、魔力より武器で戦うことが必要になる。

しかし杖など持って歩けば、自分が魔力保持者だと吹聴しているようなものだろう。


“……だから剣が必要だったのね。

 でも……、あんなに魔力を消耗していたのに、大丈夫かしら……?”

アイリーンの心配をよそに、兵士たちは見る見るうちに倒され、数が減っていく。

ルバートも、このままではギメリックを倒せないと思ったのか、突然、アイリーンに向かって心で話しかけてきた。


“姫よ、先ほどの無礼な振る舞いについては、私が悪かった。詫びを言おう。

 しかしあなたを殺そうとしたことについては、手違いだったのだ。

 我々の主人エンドルーア王の姪に当たるあなたを害するなど、とんでもないこと……。

 あなたが謀反人に加担しているので、誤解してしまっただけなのだ”


“謀反人……?”

その言葉に引っかかりを覚えたが、アイリーンは自分を戒めた。

“いけない、ルバートの言うことに耳を貸してはダメ……”

しかし事情を知りたいという思いが、ついアイリーンの意識をルバートの言葉へと集中させてしまう。


ルバートはアイリーンが聞いているのを見透かしたように、心話を続ける。

“エンドルーア王が我らを密偵として送り込んでいるのは、何もアドニア侵略のための準備というわけではない。

 10年前、クーデター未遂事件を起こした犯罪人を狩るためなのだ”


“うそよ! あなたたちが自分の国の皇太子だと思っているあの男が、リムウルで何をしているか、知ってるの?”

思わず、心の中で強く叫んでしまい、アイリーンはあわてて息をひそめた。

探るような思念が手を伸ばしてくるのを感じ、アイリーンはしっかりと自分の心を閉ざした。

自分を守る結界を意識してガードを固める。

ルバートの思念波は彼女の心の外側をかすって通り過ぎて行った。


“……リムウルは我が国王に刃を向けた謀反人たちの引き渡しに応じなかった。

 10年も待ったのだ、いくら寛容な王といえども、これ以上は待てない”

好き勝手なことを言っている。そんなこと大嘘だ。

自国の行いを正当化しようとする詭弁だ、とアイリーンは思った。


“ それに、姫、あなたももうおわかりだろう。

 我ら魔力保持者には、肉体的な弱点がある。

 魔力は言わば送受備わってこそ、真価を発揮するもの。

 魔物に対すればこれほど強力な武器はないが、常人相手に魔力が直接及ぼせる力など、たかが知れている。

 魔力に対抗する訓練を受けた兵士が相手では、なおさらのこと我々の方が不利なのだ”


大きな心配と不安に襲われ、アイリーンはギメリックに目をやった。

ギメリックに対峙している兵士が、あと3人だけになっているのを見て、少し安心する。


“魔力保持者が国外に流出しないようエンドルーアが気をつかうのは、その秘密を守るため……。

 何しろ、神々の血が薄れたとはいえ今でもエンドルーアの貴族のうち約4割は、魔力保持者なのだからな。

 他国にこの秘密を知られれば、我らは安穏としてはいられないだろう。

 エンドルーアが長い歴史の中で守り抜いて来たものが、謀反人たちのために揺らごうとしているのだ。

 あなたもこの上は、エンドルーアに帰られた方がよい。

 魔力を使いこなすためには様々な知識と訓練が必要だ。きっと我らの王も歓迎してくださるだろう”
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