薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第3章

2.昔日

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「王子!」

舌足らずの声に呼ばれ、ギメリックは振り向いた。

いつものように塔に登ろうと、中庭を横切っているところだった。

「見つけた~」

はしゃいだ声をあげているのは、近づいてくるレティス卿の腕に抱かれた、従弟いとこのティレルだ。

父のゆっくりとした足取りがもどかしいのか、彼は暴れて地面に降ろしてもらうと、満面の笑みを浮かべてこちらへ駆けてきた。



今年4歳になるこの小さな従弟いとこは、どういうわけかギメリックをまるで自分の兄のように慕っている。

魔力を持つ者が多い宮中で、何かと敬遠されるギメリックにとって、そんな彼が可愛くないわけがない。

しかし最近になってギメリックは、それは自分が、彼の父であるレティス卿に似ているからではないか、と思うようになっていた。


レティス卿(クレイヴ・オー・ドルシィ・レティス)は、ギメリックの父であるエンドルーア王、エムリストの弟である。

王家の慣習に従い、エムリストが16歳で王位を継いだとき、爵位を受けて臣下に下った。

その黒髪が示す通り強い魔力の持ち主である彼は、王を補佐する12人の魔法使い、暦司こよみつかさと呼ばれる役職を、もう長きに渡って勤めていた。


宮中のうわさ話は、幼い耳にも容赦なく響いてくる。

今やギメリックは知っていた。

自分に親しく話しかける人間がごくわずかである理由は、強い魔力への恐れと、王家の嫡男という身分に対する敬い……その二つだけではないことを。

まだ7歳になったばかりだと言うのに妙に大人びた、冷めた態度が身に付いてしまったのは、むしろ当然の成り行きと言えるかも知れない。



「お邪魔ではありませんか? この子が王子に会わせろと言ってきかないものですから……」

礼儀正しく自分の前に膝をついたレティス卿の冷たい美貌を、ギメリックは静かに見返した。

同じ黒髪に生まれついたギメリックの、本当の父親ではないかとうわさされている男。

髪の色が同じという点を差し引いても、確かにギメリックと彼はよく似ていた。

少し切れ長の、鋭い視線を放つ目元。

整った眉、通った鼻筋、形の良い薄い唇。

白磁の肌の印象とともに、物静かであまり表情を顕わにしないこともあり、その顔はまるで雪花石膏で作った古の神々の彫刻のようだと、賞賛と揶揄を込めて人々は語った。


だが……ギメリックは信じていた。

叔父と甥なのだから、似ていて当然だと言うヴァイオレットや父の言葉を。

それ故、叔父の青い瞳が自分をじっと見つめる視線を感じても、彼は特に動揺することもなく、その視線を平静に受け止めるのが常だった。

また、うわさを耳にしているだろう叔父自身も、そのことについて一言も触れようとはしなかった。

めったにそんな機会はないとはいえ、たとえ二人きりになったとしても、王の息子に対する臣下としての態度を崩すことも、一度もなかった。


「私はこれから昼の部の魔術の講師を務め、そのまま夜の塔の詰め番に入りますので、この子は侍女に預けて屋敷まで送らせようと思うのですが……」

「いやだ! 王子と遊ぶんだ!!」

ティレルはギメリックにしがみついていた腕にいっそう力を込め、父親の目から隠れるようにギメリックの後ろに回った。

「……この調子なのです」

困った様子で言うクレイヴに、ギメリックは言った。

「いいよ。午後からは特に予定はないから」

「うわ~ぃ!」

飛び上がって喜ぶティレルに、釘を刺すように言う。

「ただし、夕方になったら家へ帰るんだよ」

「うん、わかってる!! さぁ行こう行こう!!」

ティレルは先に立って、ギメリックが行こうとしていた方向へ歩き出そうとする。

“塔は小さい子には危ないな……庭で遊ぼう”

ギメリックはそう思い、従弟の小さな手を取った。

「こっちだよ。何して遊ぶ?」

「かくれんぼ!」

無邪気な笑顔で元気よく答える様子に、思わず、頬が緩む。

天使のような、という形容が本当に似合う、愛らしい笑顔。

光り輝く明るい色の髪、青い瞳、小さな紅いくちびる……



……誰かに似てるな。誰だったろう……。



……あぁ、アイリーンだ。


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