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第3部.リムウル 第3章
4.狂王
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「……久しぶりだな。皇太子殿」
すぐそばに立つ人の気配に、ギメリックは目を開けてそちらを見た。
全ての元凶であり、親の敵であるその男の顔を、片時も忘れたことはない。
しかし10年の歳月が負わせた加齢のしるし以上の衰えを、ギメリックは彼の容貌の中に感じ取った。
「……やつれたものだな、クレイヴ。そんなに、“あれ”は恐ろしいか?」
「黙れ。きさまこそこのザマは何だ? 10年もの間、私の目から隠れ逃れてきたと言うのに……。何をどうしくじってのこの失態か、ぜひお聞かせ願いたいものだな」
もちろん、この男も馬鹿ではない、とギメリックは思った。
何かがおかしいと勘ぐってはいるだろう。
しかし奴にとっては千載一遇のチャンス、肉体を離れ魂だけでここに来ている以上、限られた時間の中で、とにかく邪魔者を殺すことを最優先するはずだ。
それにかけるしかない。
ギメリックは言うことを聞かない肉体からスルリと抜け出て、クレイヴの魂と対峙した。
こうして顔を合わせた以上は、かなわぬまでも出来るだけの戦いをしてぎりぎりまでこの場所にクレイヴをとどめることが、アイリーンたちの安全を守ることにつながる。
それに、タイムリミットがくるまで持ちこたえれば、自分にも、わずかながらの勝算がないこともない。
ギメリックは自分の中の闘志をかき立てて、クレイヴに向かって行った。
* * *
馬の背に激しく揺られる感触。
濡れてまといつく衣類の不快感に、アイリーンは目覚めた。
状況が飲み込めないまま、身じろぎをする。
「あ……起きたの?」
「誰……? あなたは……」
自分の体を目の前の男の子と一緒に包み込んでいるマントが目に入り、アイリーンはハッとした。
「馬を止めて! ギメリックはどこ?!」
「あ、あの人、自分のことは忘れろ、君を連れて逃げろって……」
「ダメ! 私は戻るわ。あなたは逃げて、出来るだけ遠くへ!」
即座にそう言い、心話で馬に止まってと呼びかけながらマントをほどく。
「そんなぁ、できないよ、そんなこと……わっ?!」
抗議の声を上げるポルの体を、アイリーンは魔力で持ち上げてそっと地面に降ろした。
「ごめんなさい、あなたまで守れる、自信がないの」
ここで議論をしている余地はない。
せっぱつまった彼女の瞳が、そう告げていた。
「アイリーン……!!」
「ごめんなさい、私、行かないと……!」
さらに止めようとするポルを置いて、アイリーンは元来た方へと馬を走らせた。
その後ろ姿に向かって、ポルは声の限りに叫んだ。
「石を……石の力を使っちゃダメだって……!!」
しかしアイリーンは最後まで聞いていなかった。
ただ、ペンダントが再び自分の首にかかっていることは気配で感じていた。
“以前より重い……気がするのはなぜ? 魔力が……私に備わったから?”
この石について、自分が知っていることはほんのわずかだ。
しかし魔力に目覚めた今、石を身につけることによって、そこに秘められた無限のパワーを感じることができる。
その力は太古の神々の力に通じるもの、しかし同時に、何か堪え難い恐怖につながっていると感じさせる……。
アイリーンは背筋を走り抜けた悪寒に、体を震わせた。
雨に濡れ、体温を奪われているせいばかりではない。
この感覚は以前にもどこかで味わったことがある……と考え、アイリーンは思い当たった。
そうだ、ギメリックの魔力の気配、あれに似ている……。
“ギメリック……!! どこ?!……返事をして!!”
心話で呼びかけてみたが、答えはない。
雨が激しくなってきた。
できる限りの早さで馬を駆っていると雨が目に入ってくる。
アイリーンは片腕で目をかばいながら、森の中を走って行った。
すぐそばに立つ人の気配に、ギメリックは目を開けてそちらを見た。
全ての元凶であり、親の敵であるその男の顔を、片時も忘れたことはない。
しかし10年の歳月が負わせた加齢のしるし以上の衰えを、ギメリックは彼の容貌の中に感じ取った。
「……やつれたものだな、クレイヴ。そんなに、“あれ”は恐ろしいか?」
「黙れ。きさまこそこのザマは何だ? 10年もの間、私の目から隠れ逃れてきたと言うのに……。何をどうしくじってのこの失態か、ぜひお聞かせ願いたいものだな」
もちろん、この男も馬鹿ではない、とギメリックは思った。
何かがおかしいと勘ぐってはいるだろう。
しかし奴にとっては千載一遇のチャンス、肉体を離れ魂だけでここに来ている以上、限られた時間の中で、とにかく邪魔者を殺すことを最優先するはずだ。
それにかけるしかない。
ギメリックは言うことを聞かない肉体からスルリと抜け出て、クレイヴの魂と対峙した。
こうして顔を合わせた以上は、かなわぬまでも出来るだけの戦いをしてぎりぎりまでこの場所にクレイヴをとどめることが、アイリーンたちの安全を守ることにつながる。
それに、タイムリミットがくるまで持ちこたえれば、自分にも、わずかながらの勝算がないこともない。
ギメリックは自分の中の闘志をかき立てて、クレイヴに向かって行った。
* * *
馬の背に激しく揺られる感触。
濡れてまといつく衣類の不快感に、アイリーンは目覚めた。
状況が飲み込めないまま、身じろぎをする。
「あ……起きたの?」
「誰……? あなたは……」
自分の体を目の前の男の子と一緒に包み込んでいるマントが目に入り、アイリーンはハッとした。
「馬を止めて! ギメリックはどこ?!」
「あ、あの人、自分のことは忘れろ、君を連れて逃げろって……」
「ダメ! 私は戻るわ。あなたは逃げて、出来るだけ遠くへ!」
即座にそう言い、心話で馬に止まってと呼びかけながらマントをほどく。
「そんなぁ、できないよ、そんなこと……わっ?!」
抗議の声を上げるポルの体を、アイリーンは魔力で持ち上げてそっと地面に降ろした。
「ごめんなさい、あなたまで守れる、自信がないの」
ここで議論をしている余地はない。
せっぱつまった彼女の瞳が、そう告げていた。
「アイリーン……!!」
「ごめんなさい、私、行かないと……!」
さらに止めようとするポルを置いて、アイリーンは元来た方へと馬を走らせた。
その後ろ姿に向かって、ポルは声の限りに叫んだ。
「石を……石の力を使っちゃダメだって……!!」
しかしアイリーンは最後まで聞いていなかった。
ただ、ペンダントが再び自分の首にかかっていることは気配で感じていた。
“以前より重い……気がするのはなぜ? 魔力が……私に備わったから?”
この石について、自分が知っていることはほんのわずかだ。
しかし魔力に目覚めた今、石を身につけることによって、そこに秘められた無限のパワーを感じることができる。
その力は太古の神々の力に通じるもの、しかし同時に、何か堪え難い恐怖につながっていると感じさせる……。
アイリーンは背筋を走り抜けた悪寒に、体を震わせた。
雨に濡れ、体温を奪われているせいばかりではない。
この感覚は以前にもどこかで味わったことがある……と考え、アイリーンは思い当たった。
そうだ、ギメリックの魔力の気配、あれに似ている……。
“ギメリック……!! どこ?!……返事をして!!”
心話で呼びかけてみたが、答えはない。
雨が激しくなってきた。
できる限りの早さで馬を駆っていると雨が目に入ってくる。
アイリーンは片腕で目をかばいながら、森の中を走って行った。
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