薄明宮の奪還

ria

文字の大きさ
140 / 198
第3部.リムウル 第3章

13.彼方からの訪問者

しおりを挟む
風もないのに、高い梢の先の木の葉が揺れた。

その気配に、ヴァイオレットは眺めていたフレイヤの涙をサッと手の中に握り込み、窓の外を見た。


月齢3日の今夜、月はとうに沈んでしまい、外は真の闇だった。

しかしヴァイオレットの目には、小屋の周りの木々の姿がよく見える。

そのうちの一本の木の下に、淡く金色に光る人影があった。

ヴァイオレットは一瞬、ついこの前に村で亡くなった老人の、残留思念かと思った。

しかしそれは、金の髪に紫の瞳をした、美しい少女だった。


悪いものではなさそうだ……。そう思い、ヴァイオレットは緊張を解いた。

もっとも、結界で守られているこの村は、ここに存在することすら敵には知られていない。

悪いものなど入り込めるはずはないのだ。


ヴァイオレットが窓のそばに寄ると、少女もおずおずと近づいてきた。

途方に暮れたような、悲しげな顔をしたその少女が、何かつぶやいたようだったが、その声は聞き取れない。

ヴァイオレットは彼女に話しかけた。

「まぁ……珍しいお客様だこと。でも、……」

しばし眉をひそめ、じっと少女を見つめる。

「早く帰った方がいいわ、肉体との絆が切れかけているわよ?……ずいぶん遠くから来たのね」

そこでヴァイオレットは少し目を見開いて、驚いたようにつぶやいた。

「まさか……時を旅して来たの?」

少女はますます困惑した表情を浮かべ、わからない、と言うように、少し首を傾げた。

唇が動いたが、やはり声は聞き取れない。

おそらくこちらの声も彼女には届いていないのだろう……。

「帰れないの? 少しだけなら、手を貸してあげられるわ。

 さぁ……力を受け取って。元いたところへ……」

ヴァイオレットが力を送った次の瞬間、少女の姿は消えた。





時折、こんなふうに、人には見えないものを感じたり見たりすることがある。

エンドルーアには魔力を持つ者が大勢いたが、その中でも、ヴァイオレットは特別な存在だった。

自分は、この世で果たすべき役目を負って生まれて来た魂。

いつのころからだろう。それを自覚したのは……。


うっすらと残る前世の記憶と共に子供時代を過ごし、強い魔力故に16才という異例の若さで、王宮の大神殿に仕える神官の職に就いた。

そして悟った。

王宮の地下深くに封じられている魔物を見張ること、そして魔物を封じる結界をメンテナンスする血筋が、絶えることのないよう尽力すること。

それが自分の“役目”だと……。


その時、世継ぎの王子ギメリックは3歳。

彼に初めて目通りしたとき、彼女は、役目を果たすために守るべき相手を見つけたのだった。


エンドルーアの国民は皆、3歳の時、“応答の儀”と呼ばれる儀式を受ける。

貴族や王族の儀式は王宮内の大神殿で、庶民の儀式はそれぞれの地域にある神殿で行われた。

表向きには女神フレイヤの加護を得るため、そして戸籍の確認のためとされているこの儀式は、魔力の有無を調べて国が魔力保持者を管理するという、重要な機能をも果たしていた。

王家に生まれた者の魔力の有無は、王位継承権に深く関わってくる。

そのため、王族の儀式は特に慎重に執り行われる。

ギメリックの応答の儀には、大神殿の神官となったヴァイオレットも立会人の一人として参加した。


神殿内の暗い一室に、親と離されたった一人でしばらく待機していなければならないその儀式の最中に、怖がって泣き出してしまう子供も多かった。

しかしギメリックは終始、暗闇を怖がる様子もなく、幼子とは思えない落ち着きと、王家の嫡男にふさわしい強い魔力の片鱗をうかがわせていた。

ヴァイオレットは満足だった。これでしばらくは、結界は安泰だと。


しかし……その魔力の強さが、まさかこんな事態を招いてしまうとは……誰に想像できただろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...