162 / 198
第3部.リムウル 第4章
5.苦渋
しおりを挟む
ギメリックの声に含まれる何かが、アイリーンの顔を上げさせた。
トパーズの瞳の中に苦渋の表情を読み取り、アイリーンは眉をひそめる。
「……なぜ、そのことにまであなたが負い目を感じなくちゃいけないの?」
心の中を見透かされ、ギメリックは重く息を吐いた。
まっすぐに見上げてくるアイリーンの瞳から目をそらし、胸に支える塊を吐き出すように言う。
「……助けてやれる、はずだった。
最初に気付いたのは俺で、知らせを受けてヴァイオレットも俺の父も、どうにかしようと考えていた矢先だったんだ。
あんなことさえなければ、お前のティレルはあれほどまでに狂うこともなく、侵略軍を指揮するようなことにもならなかったはず……っ!!」
いきなりアイリーンがギメリックの耳をぎゅっと引っ張り、自分の方に彼の顔を向けさせたので、ギメリックは驚いて彼女を見下ろした。
まだまつげの先に涙の粒を光らせながら、しかし彼女の瞳は怒っていた。
「ねぇ、ギメリック、何もかも自分のせいだと思うのは、やめましょうよ。
あなた言ったじゃない、済んでしまったことを言っても始まらない、って。
もちろん、そんな言葉一つで全てが許されるわけじゃない、それはわかる。
でも、あなたはもう充分すぎるほど苦しんできたわ。
きっとエンドルーアの人たちもわかってくれると思うの……」
ギメリックは無言でまた顔を背けた。
そして彼女を押しやり、腰掛けていたベッドから立って戸口へ向かう。
「ギメリック……?」
ドアの前で振り返り、彼は言った。
「お前には出来ないだろう、たとえ石の魔力を自由に使いこなせるようになっても……。
だから、俺がやつを殺してやる。お前は狂王を倒すことに全力を傾けろ」
背をむけ、ドアを開けて出て行こうとするギメリックを見てアイリーンは慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って! まさか今から彼を殺しに行くって言うんじゃ……」
肩越しに彼がまた振り返る。
「バカか。そばにいると言っただろう。
……外に寝にいくだけだ。お前ももう少し横になって、朝まで休め」
さっさと扉を閉めて出て行ってしまった彼を追いかけようとして、アイリーンはバッタリその場に倒れてしまった。体に力が入らず、動けない。
しかし心の中には、わき上がってきた怒りのエネルギーが充満していた。
「……ギメリックの……」
“バカ~~~~ッッ!!!”
思いっきり心話で叫んだので、またも激しい頭痛が襲ってくる。
しかしアイリーンはかまわず叫び続けた。
“なんでそんな憎まれ口を言うのよ?!
フレイヤの涙なしでティレルを殺せるなら、あなたはとっくにそうしていたはずよ!
それができないから石を捜していたのでしょう?!”
クレイヴは幼い頃からのギメリックの性格を熟知していて、魔力戦となれば必ず彼の心の中にある罪の意識を責め立て、死の安息へと誘いをかける……。
そしてティレルは、かつて彼を弟のようにかわいがっていたギメリックの優しさにつけ込み、弱者の顔をして隙をうかがう……。
自身の中に、どうしようもない虚無の暗黒があることを自覚していたギメリックには、精神戦で彼らに勝つ自信がなかったのだ。
しかし、エンドルーアやソルグの村の人々ために、負ける訳にはいかない戦いだった。
そのために彼は、何年もフレイヤの涙を探してさまようことになったのだ。
アイリーンは床の上で体を丸め、キリキリと頭を締め付ける痛みに耐えてさらに心話を送った。
“私が戦うわ! そしてティレルを殺さなくても薄明宮を取り返せるように、うんと魔力をつけて強くなる!! だから……”
「もういい、やめろ!!」
ギメリックの腕に抱き上げられても、アイリーンはあまりにもつらくて目を開けることすらできない。
しかしその唇から、小さく声が漏れた。
「もう、苦しまないで……」
トパーズの瞳の中に苦渋の表情を読み取り、アイリーンは眉をひそめる。
「……なぜ、そのことにまであなたが負い目を感じなくちゃいけないの?」
心の中を見透かされ、ギメリックは重く息を吐いた。
まっすぐに見上げてくるアイリーンの瞳から目をそらし、胸に支える塊を吐き出すように言う。
「……助けてやれる、はずだった。
最初に気付いたのは俺で、知らせを受けてヴァイオレットも俺の父も、どうにかしようと考えていた矢先だったんだ。
あんなことさえなければ、お前のティレルはあれほどまでに狂うこともなく、侵略軍を指揮するようなことにもならなかったはず……っ!!」
いきなりアイリーンがギメリックの耳をぎゅっと引っ張り、自分の方に彼の顔を向けさせたので、ギメリックは驚いて彼女を見下ろした。
まだまつげの先に涙の粒を光らせながら、しかし彼女の瞳は怒っていた。
「ねぇ、ギメリック、何もかも自分のせいだと思うのは、やめましょうよ。
あなた言ったじゃない、済んでしまったことを言っても始まらない、って。
もちろん、そんな言葉一つで全てが許されるわけじゃない、それはわかる。
でも、あなたはもう充分すぎるほど苦しんできたわ。
きっとエンドルーアの人たちもわかってくれると思うの……」
ギメリックは無言でまた顔を背けた。
そして彼女を押しやり、腰掛けていたベッドから立って戸口へ向かう。
「ギメリック……?」
ドアの前で振り返り、彼は言った。
「お前には出来ないだろう、たとえ石の魔力を自由に使いこなせるようになっても……。
だから、俺がやつを殺してやる。お前は狂王を倒すことに全力を傾けろ」
背をむけ、ドアを開けて出て行こうとするギメリックを見てアイリーンは慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って! まさか今から彼を殺しに行くって言うんじゃ……」
肩越しに彼がまた振り返る。
「バカか。そばにいると言っただろう。
……外に寝にいくだけだ。お前ももう少し横になって、朝まで休め」
さっさと扉を閉めて出て行ってしまった彼を追いかけようとして、アイリーンはバッタリその場に倒れてしまった。体に力が入らず、動けない。
しかし心の中には、わき上がってきた怒りのエネルギーが充満していた。
「……ギメリックの……」
“バカ~~~~ッッ!!!”
思いっきり心話で叫んだので、またも激しい頭痛が襲ってくる。
しかしアイリーンはかまわず叫び続けた。
“なんでそんな憎まれ口を言うのよ?!
フレイヤの涙なしでティレルを殺せるなら、あなたはとっくにそうしていたはずよ!
それができないから石を捜していたのでしょう?!”
クレイヴは幼い頃からのギメリックの性格を熟知していて、魔力戦となれば必ず彼の心の中にある罪の意識を責め立て、死の安息へと誘いをかける……。
そしてティレルは、かつて彼を弟のようにかわいがっていたギメリックの優しさにつけ込み、弱者の顔をして隙をうかがう……。
自身の中に、どうしようもない虚無の暗黒があることを自覚していたギメリックには、精神戦で彼らに勝つ自信がなかったのだ。
しかし、エンドルーアやソルグの村の人々ために、負ける訳にはいかない戦いだった。
そのために彼は、何年もフレイヤの涙を探してさまようことになったのだ。
アイリーンは床の上で体を丸め、キリキリと頭を締め付ける痛みに耐えてさらに心話を送った。
“私が戦うわ! そしてティレルを殺さなくても薄明宮を取り返せるように、うんと魔力をつけて強くなる!! だから……”
「もういい、やめろ!!」
ギメリックの腕に抱き上げられても、アイリーンはあまりにもつらくて目を開けることすらできない。
しかしその唇から、小さく声が漏れた。
「もう、苦しまないで……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される
七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる