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第3部.リムウル 第4章
16.意に染まぬ初夜
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「ギメリック!」
いつものようにギメリックが一人、小屋に帰ろうとしているところを、カーラは呼び止めた。
どう言い聞かされているのか、そばにはアイリーンも控えている。
ニッコリ笑って、カーラは言った。
「今夜から彼女をよろしくね」
「え? もう……いや、その……」
ギメリックは少々うろたえ気味に、カーラの満面の笑顔と、アイリーンの何も考えていなさげな無防備な顔を見比べた。
「約束だったでしょ?」
「どうしても、ダメか……?」
「ええ、もちろんよ」
カーラの笑顔に送り出され、二人は夜道を帰って行った。
見送るカーラの後ろから、ゲイルが声をかける。
「なんか、ギメリック様……あんまり嬉しそうに見えないなぁ。オレの気のせいか?」
カーラは困惑した表情でチラリと振り向いた。
そしてすぐにまた向き直って、腕組みしながら、どこかぎこちない二人の後ろ姿を見守る。
「う~ん……なぜかしら? ただ照れてるだけ、とも思えないのよね……」
「あっ……ギメリック、」
黙って後ろを歩いていたアイリーンが突然、腕に触れてきたので、ギメリックはギョッとした。
「ね、ほらほら、見て!……星が映ってる……」
ギメリックの密かな動揺には気づかぬ様子で、アイリーンは夢中になって彼の腕をひっぱり、もう一方の手で道の脇を指差した。
ちょうど、泉のそばを通りかかったところだった。
見ると、なるほど確かに、暗い水面のところどころに、星の輝きが見える。
「……キレイね……」
アイリーンは美しく神秘的なその光景に魅せられて、ギメリックの腕を掴んだまま、息を詰めて見入っている。
旅の間、手櫛ですいて整えていただけだった金の髪は、カーラの手によるものだろう、以前のようにきれいにブラシがかけられ、一層つやつやとして星明かりの下でも明るく輝いていた。
両耳の上で一本ずつ編まれた細い三つ編みが、後ろで一つにまとめられている。
そのため、白い貝殻のような耳とやわらかそうな耳たぶが目を引いた。
「ああ」
ギメリックは無感動な声を返し、また先に立って歩き出した。
取り残された格好のアイリーンが少し鼻白むのを感じながら、ギメリックは軽くため息を吐く。
イルベリウスが襲ってきたあの日……ポルとともに村へ帰ってみると、アイリーンはカーラの家にいた。
カーラはギメリックに、アイリーンに月のモノが訪れたため、彼女を自分の家で預かると申し出たのだ。
ただし終わったら、ギメリックの元に彼女を返すという条件で……。
ギメリックはできればずっと預かって欲しいと頼んだのだが、断られてしまった。
村人たちが何を期待しているのかは、わかっている。
彼らは、ギメリックがアイリーンと結ばれることによって再び石の主となり、エンドルーアの王となることを望んでいるのだろう。
その気持ちは、わからないでもない。
何と言ってもアイリーンは彼らにとって他国の王女であり、しかも見るからに頼りなげな彼女に、戦いを強いることが忍びないのだ。
ギメリックとて彼女を戦わせるより自らの手で自分の罪をつぐないたい、つぐなうべきだとも思う。
しかし……それは、ヴァイオレットの意志に背くことだ。
彼女がギメリックに何の手がかりも残さずアイリーンに石を託したことが、それを物語っている。
その認識は、いまだに彼の心に鈍い痛みをもたらした。
無言で先を行くギメリックの背中を眺めて、アイリーンはしかめ面をしていた。
ギメリックは以前に比べ、アイリーンやポルやカーラには、随分と和らいだ表情を見せるようになった。
常に彼の雰囲気を支配していた、張りつめ過ぎた糸が今にも切れてしまいそうな緊張感や危うさといったものは、感じられなくなった。
しかし素っ気ない態度や極端に口数が少ないのは相変わらずで、特にポルとカーラ以外の村人たちが同席している場合にはそれが顕著だった。
いつものようにギメリックが一人、小屋に帰ろうとしているところを、カーラは呼び止めた。
どう言い聞かされているのか、そばにはアイリーンも控えている。
ニッコリ笑って、カーラは言った。
「今夜から彼女をよろしくね」
「え? もう……いや、その……」
ギメリックは少々うろたえ気味に、カーラの満面の笑顔と、アイリーンの何も考えていなさげな無防備な顔を見比べた。
「約束だったでしょ?」
「どうしても、ダメか……?」
「ええ、もちろんよ」
カーラの笑顔に送り出され、二人は夜道を帰って行った。
見送るカーラの後ろから、ゲイルが声をかける。
「なんか、ギメリック様……あんまり嬉しそうに見えないなぁ。オレの気のせいか?」
カーラは困惑した表情でチラリと振り向いた。
そしてすぐにまた向き直って、腕組みしながら、どこかぎこちない二人の後ろ姿を見守る。
「う~ん……なぜかしら? ただ照れてるだけ、とも思えないのよね……」
「あっ……ギメリック、」
黙って後ろを歩いていたアイリーンが突然、腕に触れてきたので、ギメリックはギョッとした。
「ね、ほらほら、見て!……星が映ってる……」
ギメリックの密かな動揺には気づかぬ様子で、アイリーンは夢中になって彼の腕をひっぱり、もう一方の手で道の脇を指差した。
ちょうど、泉のそばを通りかかったところだった。
見ると、なるほど確かに、暗い水面のところどころに、星の輝きが見える。
「……キレイね……」
アイリーンは美しく神秘的なその光景に魅せられて、ギメリックの腕を掴んだまま、息を詰めて見入っている。
旅の間、手櫛ですいて整えていただけだった金の髪は、カーラの手によるものだろう、以前のようにきれいにブラシがかけられ、一層つやつやとして星明かりの下でも明るく輝いていた。
両耳の上で一本ずつ編まれた細い三つ編みが、後ろで一つにまとめられている。
そのため、白い貝殻のような耳とやわらかそうな耳たぶが目を引いた。
「ああ」
ギメリックは無感動な声を返し、また先に立って歩き出した。
取り残された格好のアイリーンが少し鼻白むのを感じながら、ギメリックは軽くため息を吐く。
イルベリウスが襲ってきたあの日……ポルとともに村へ帰ってみると、アイリーンはカーラの家にいた。
カーラはギメリックに、アイリーンに月のモノが訪れたため、彼女を自分の家で預かると申し出たのだ。
ただし終わったら、ギメリックの元に彼女を返すという条件で……。
ギメリックはできればずっと預かって欲しいと頼んだのだが、断られてしまった。
村人たちが何を期待しているのかは、わかっている。
彼らは、ギメリックがアイリーンと結ばれることによって再び石の主となり、エンドルーアの王となることを望んでいるのだろう。
その気持ちは、わからないでもない。
何と言ってもアイリーンは彼らにとって他国の王女であり、しかも見るからに頼りなげな彼女に、戦いを強いることが忍びないのだ。
ギメリックとて彼女を戦わせるより自らの手で自分の罪をつぐないたい、つぐなうべきだとも思う。
しかし……それは、ヴァイオレットの意志に背くことだ。
彼女がギメリックに何の手がかりも残さずアイリーンに石を託したことが、それを物語っている。
その認識は、いまだに彼の心に鈍い痛みをもたらした。
無言で先を行くギメリックの背中を眺めて、アイリーンはしかめ面をしていた。
ギメリックは以前に比べ、アイリーンやポルやカーラには、随分と和らいだ表情を見せるようになった。
常に彼の雰囲気を支配していた、張りつめ過ぎた糸が今にも切れてしまいそうな緊張感や危うさといったものは、感じられなくなった。
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