ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

レオナード一世

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第十三章 ウィルフレッド

ウィルフレッド 第二十二節

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「アオト…」
「久しぶりだねウィル」
アルマ化したアオトの腕に展開されたビームボウが俺に向けられる。その装甲は既にキースやサラと同じ白化している箇所があり、胸のアスティル・クリスタルから流れるエネルギーは赤色だった。

その姿と、どこか憔悴した感じが混じっているアオトの声が心を痛むほど刺さる。今の彼はサラやキースと同じく肉体崩壊による精神崩壊が進んでいて、分かれて行動してから俺と同じように精神がすり減らされているのが分かるから。

「最近ビリーを見かけなくなったけど、ウィルがやったの?」
「ああ…」
「そうなんだ。凄いよねウィル。この場所の情報もビリーからもらったの?」
「いや、キースが教えてくれた」
「ふぅん、そうなんだ」
アオトはどうでも良さそうに答えて頭をかしげた。

「アオト、あんたはキースの傍にいたんじゃなかったのか?なぜ彼を一人にして…」
「…あれはキースが自分で出て行ったんだよ」
「あの状態のキースが…?」
「ビリーがあんたを誘い出すメッセージがあったでしょ?あのメッセージは僕たちも傍受してたけど、それを聞いたキースが君の名前を呼びながらいきなり飛び出して…。ギルは、キースはもう長くないから、最後ぐらいは好きにやらせてって言ってたんだ」

既に肉体崩壊が限界になっていながらも助けに来たキースの姿が、最後の笑顔が頭を過ぎった。
(っ、キース…っ)
涙をこらえながら、俺は改めてアオトを見た。
「…ギルは、一緒じゃないのか?」
「僕一人だけだよ。ギルは別のシティでコードを追ってるんだ」
(コード…?)

「それよりもさ、ずっと僕達から離れたウィルがどうして今更ここに来たの?また一緒に『組織』と戦うために?それとも――」
アオトが構えたビームボウに僅かに力が入る。
「サラやキースみたいに僕たちを殺しに来たとか?」

思わず拳に力が入る。
「…サラとキースのことは弁解しない。俺がこの手で殺したのも同然だから。『組織』とも戦うつもりはいる。…いるけど、今のあんた達のやり方はいただけない」
アオトは微動だにしない。
「君とギルがあちこちに暴れているのは知っている。あんな戦い方じゃただの無差別テロだっ。正に今『組織』が言うような冷酷な異星人そのままなんだぞっ!上にあった警備員達もそうだ。君の腕前なら殺さずとも通れたはずじゃないか。それなのに…っ」

「…ぷふっ、あははははは!」
アオトが高笑いする。赤いエネルギーラインがさらに増えて体を走ったように見えた。

「おかしいこというねウィル。どうしてあんな人達に気をかける必要があるの?小さい頃からずっと僕をいじめていじめて…っ、アルマになって影で彼らのために変異体ミュータンテスと戦ってきたのに…っ、ビリーの嘘なんか信じてよってたかって僕達を糾弾してさぁ!……ああでもあれもただの独り相撲だったよね。ふふふ…、お笑いモノだよ。ようやく誰かを助けられる人になったと思ったら、結局はただのピエロだなんて、冗談にしてはたちが悪すぎるじゃないかぁ…」

今にも泣きそうなアオトの掠れた声に胸がえぐられるような気がした。
「アオト…」
「動かないでっ!!!」
彼の威嚇に足を止める。

「ねぇウィル…あんたはいったいどっちの味方なの?僕をいじめる連中に肩入れてさあ。僕達は家族ファミリーって言ったくせに、僕に何かあったら助けてくれるって言ったくせに、それは全部嘘だったのかいっ!?」
サラと同じように精神崩壊で不安定になっているアオトが声を荒げた。俺は彼を真っ直ぐに見据えて、答えた。

「…どっちもだ」
「え…」
「君も、傷ついて泣いてる誰かをも全て、俺は手の届く限り助ける。自分のために助けたい人を助ける。それだけだ。…俺がそういうお人よしなのは、君が一番知っているはずだろ?」
アオトは黙ったままだった。

「君が本当は誰かを傷つけるのが嫌だと俺は知っている。今のやり方じゃ、腹いせであの子を…好きだったあの子を半身不随にしてしまった時と同じなんだからっ」
ピクリとアオトが震える。

「君はあれほど後悔してたじゃないか…っ、あの子を傷つけたことをっ。もう二度とあんな自分になりたくないと嫌がってた君が、これ以上誰かを傷つけるところは見たくないんだ。あんたは…王子のツバメだ。人を助ける方がお似合いだからっ」
アオトの手が少しだけおろされる。彼を刺激しないよう、ゆっくりと一歩前に踏み出しては手を差し出し、必死に訴えた。

「武器を下ろしてくれアオト、一緒にギルのところに行って、改めてどうするか話し合おう」
「ウィ、ル……―――」


ヴォオオオオォォ!!!

重機関銃特有の銃声がアオトの後ろから轟き、徹甲弾の嵐がアオトに打ち込まれる。半壊した機械兵士ドールの一体がいつのまに再起動していたのだ。

「ウアアアァァァッ!」
「アオト!」
アオトのエネルギー矢が機械兵士ドールを粉砕すると、半狂乱に陥った彼は俺に向けて矢を乱射した。

――――――

「ちぇ、今日はあんまいい奴落ちてないね」
「しゃーない、今日はもう帰ってラブラビッツ決めてこよう」
「うん、そうしよう」

スガアアアァァンッ!

「うわぁっ!」「きゃああっ!?」
議会議事堂のドームが吹き飛ばされ、乱射される翠色のエネルギーの矢を避けながら、アルマ化した俺は追ってくるアオトとともに飛び出た。
「ウアアアァァァッ!」
「落ち着けアオト!やめるんだ!」

「う、うあああ!い、異星人だっ!」
下の方を見ると、先ほど周りをうろついてた少年少女達が俺達を見上げていた。
「あいつら、まだここに…っ!」

「ガアァァァッ!」
「くそっ!」
ナノマシンソードを即座に生成してアオトのビームボウの連射を弾くと、敷地内はたちまち戦場と化したかのように爆撃の雨が降り注ぐ。
「きゃああぁぁっ!」「うわ、は、早く逃げよう!」

「やめるんだアオト!下には人がいるんだぞ!」
少年少女達をかばうよう空中機動しようとするが、アスティル・クリスタル暴走状態のアオトのビームボウ連射は想像を遥かに上回る速度で打ち込まれ、弾くのに精一杯で身動きが取れなくなっていた。

「きゃああっ!」「アニー!」
逸らしそこねた矢の一つが逃げ惑う彼らの傍に着弾し、飛散る小石に足を掠められた少女一人が転倒してしまう。
「おいトニー!」「ほっとこう!逃げるのが先だ!」
彼女を庇う少年を置いて、残りの人達は爆風を掻い潜って逃げていく。

「ぐっ…!うおおおぉっ!」
瞬間的にアスティルエネルギーを高め、バリアを前方に集中してはエネルギー矢を弾きながら突進していく。
「ウアアァァッ!」
アオトが咄嗟にビームボウを剣に変形させては迎え撃つようにそれを振り下ろした。

ガァンッ!

酸性雨の幕が衝撃により球状に抉られては再び降り注ぎ、ギリギリと剣同士が空中で鍔迫り合う。
「ぐぅっ!アオト、落ち着け…!」
「ぐうぅぅぅ…っ!コーティングかああぁぁっ!」
アオトの剣に翠色のアスティルエネルギーが纏い、こちらの剣が切断されそうになる。
「ぐあっ!コーティングおおおおぉっ!」

剣の切断寸前に同じく剣をコーティングすると、アスティルエネルギーの衝突が酸性雨の幕を再度吹き飛ばした。
「うあっ!」「がぁっ!」
その衝撃で俺とアオトがそれぞれ地面に目がけて吹き飛ばされる。

ドォンっ!
「うあっ!」「きゃああっ!」
少女を担いで逃げようとする少年の傍にアオトが墜落し、二人は思わずよろめいて倒れてしまう。

「うっ、うううぅぅ…!」
ゆっくりと身を起こすアオトの目に、庇い合う少年少女の姿が映った。
「ト、トニー…っ」「アニーっ!」
「つぅ…!」
アオトの胸のアスティル・クリスタルから赤いエネルギーラインが全身を走る。

「…あは、あはははは…やっぱり…僕よりも…僕をいじめるあいつの方が…いいなんだね、シーナ…」
「え、え…?」
少年少女達が困惑する。
「どうしてなんだよシーナぁ…っ、僕の、僕の何がいけないんだ…何がいけなんだよぉっ!?」
再び展開されたビームボウの矢先が彼らに向けられ、眩く輝く極大なエネルギー矢が練り上げられる。アスティルバスターに匹敵するほどのエネルギー矢だった。

「いやぁぁっ!」「うああぁっ!」
「やめろアオトっ!」
先ほどの衝撃による激痛に耐えながら、俺は間一髪で彼らとアオトの間に立った。
「やめるんだ…っ」
後ろで泣き喚く少年少女を庇うよう剣を構える。アオトはさっきみたいにビームボウを構えたまま動かない。

「目の前を良く見ろっ。いまの彼らは昔の君と同じで暴力に怯えている…。今の君は、君をいじめてきた人達になりかけようとしてるんだぞっ!」
アオトは極大の矢を維持したまま動かない。

(うぐ…っ)
ズキンと胸に激痛が走った。至近距離でのアスティルエネルギーの衝突によるダメージは想像以上で、傷が治ったばかりもあって体が十全に動かない。これではアスティル・クリスタルの暴走エネルギーが注がれたアオトの極大矢を防ぎ切ることはできないし、避けては後ろの彼らに当たってしまう。もし、アオトがそれを打ち出そうとするのなら、それを止める方法は、一つしか―――

「…お願いだアオト…、落ち着いてくれ…っ。俺は…っ、俺は君まで傷つけたくない……っ」
自分の声が、半ば泣きそうにかすれていた。

アオトは返事しない。俺は必死に訴えた。
「君は憧れていたんだろう…っ?人々を助けるツバメに…っ、誰かにとってのツバメに…っ!だから…っ」

長い沈黙だった。ざあざあと降りしきる酸性雨と、後ろの二人の嗚咽音という静寂だけが、俺とアオトを包む。




「……………ツバメなんて」

「アオト」

「ツバメなんて、ただの作り話だよ」

「アオトーーーーーーッ!」

世界が無音になった。キースの時のように結晶を励起させ、剣に輝く青のアスティルエネルギーをコーティングし纏わせては、アオトめがけて飛び出した。俺が間に合ったのか、それともアオトがわざと撃たなかったのかは分からない。手にアオトの体を両断した感覚が伝わった。射撃を阻害され、エネルギー矢は酸性雨を切り裂きながら、空へと飛翔していった。

酸性雨が、俺とアオトの涙となって飛散した。


******


博物館群の敷地から離れた廃墟の屋上に、元の姿に戻った俺は、上半身だけになったアオトを抱えながら座り込んでいた。彼の首に下げられたツバメの首飾りが、酸性雨を浴びて鈍く光っていた。

「けほっ!………ウィル……」
「アオト…」
小さく喀血し、弱々しく目を開くアオトは俺を見ると、小さく微笑んだ。
「は…はは…なんだかお互い、ひどい有様、だね…君なんか、顔が雨でぐちゃぐちゃ、だよ…」

思わず泣き出した。酸性雨に涙を流されながら。
「アオト…!すまない…っ、すまないっ!俺は…っ、俺は自分のために、あんたを…!」
「謝らなくても…いいよ…。僕も本当は…分かってるんだ…自分のしてる、ことが…どれほど虚しいのか…。ギルが段々と、過激になっていくのが…。でも…でも、止めれなかったんだ…頭が痛くて、胸が凄く痛くて…心が一杯で、暴れせずには、いられなかったんだ…ギルを止める勇気が、なかったんだ…っ」

「分かってる…分かってるさ…」
「…ふふ、でももう大丈夫…今はもう頭痛もしなくなったし…とても、穏やかな気持ちだよ…。きっと、ウィルが僕を、止めてくれたんだから…同じ過ちを、せずに、済んだから…すごく、感謝してるよ…。その場に、いなかったけど…サラとキースも、多分…似たようなこと、言ってたんじゃない、かな」
サラとキースが亡くなった時の光景が脳内を過ぎった。
「アオト…っ」

「……ねぇウィル…僕たちは、僕はどこから間違っちゃったのかな…ただ…いじめられずに…誰かを助けられる、何かになりたくて…優しい人になりたかったけど、なれなかった…僕が、弱いから?それとも、こんな世界で、子供じみたおとぎ話なんか信じるから?」

俺は言葉に詰まった。それはアオトだけの問いじゃない。一人で逃亡してた時にずっと考えてたことでもあるから。何故自分達は、今のようになってしまったのだと。ビリーのせいなのか?『組織』が全て悪いから?自分達が何も考えずに『組織』に盲従してたからか?そう言い付けるのはきっと簡単だ、だが…。何度も何度も考えてると、本当の理由は、やはり…。

「別に、何かが間違ったわけじゃない。ただ…」
アオトの呆然とした瞳を見つめ、俺は答えた。
。それだけだ。だから君が弱いとかそういうの関係ないんだ。アオト。君は…俺達はただ、自分なりに一生懸命生きようとした、それだけなんだ…っ」

彼の目が少し見開くと、嬉しそうに微笑んだ。
「…はは、ウィルは、やっぱ優しいや…げふっ!」
「アオト!」
アオトが大きく喀血し、体の灰化が段々と広がっていく。時が近い。

「はぁ…はぁ…ウィルの精神は、まだ、大丈夫、なんだね…?」
「ああ、少なくとも今はまだ…」
「そうかぁ……良く聞いて。ギルは…ギルは、軌道エレベーターを狙っている…永い冬ロング・ウィンターをもう一度、引き起こそうとしているんだ…」

「なんだって…」
「この前、ギルが言ったんだ…『組織』を潰したら…平和ボケした人達も思い知らせてやるって…そのために…軌道エレベーターをぶち壊してやるって…。ギルは、もう、結構前からおかしくなってはいるけど…あんな顔をしたギルは…はじめて見たよ…」

アオトがツバメの首飾りを引きぢっては、俺の胸に押し付けた。
「こ、この中のマイクロチップに…全てが載っているから…っ、がふっ!」
「アオト!もう喋るな…っ!」
「はぁ…っ、僕は、ロドニー邸の時は…ギルを止めることができなかった…。あの子に手をかけるのを、本当は止めれたはずなのに…。今でも忘れないよ…あの子が死ぬ前に…僕を見つめてたあの目が…ずっと、こびりついてて…」
ロドニーの娘と思しき子が自分を見つめる目にある恐怖を思い出し、思わず唇を噛み締めた。

「けほっ!…ウィ、ウィル…ギルを止めて…僕たちのように、間違いを重ねないように…。今、ギルを止めれるのは、君しかいない…いや…君が、止めるべきなんだ…。ギルを、『組織』の奴らに…やらせちゃいけないんだ……っ」

崩れ始めるアオトの手を、ツバメの首飾りを渡すその手を俺は握り返した。力強く。
「ああ…分かっている…っ」
「うん…君にだけ、辛いこと押付けて、ごめん…僕、弱いからさ…」
アオトが穏やかに微笑む。その笑顔に白い亀裂が広がっていく。

「僕達の分まで…生きて…最後、まで…僕の、ツバメ、さん」
「アオト…っ!」
「ああ…僕も誰かの…ツバメさんに…なりたかった、なあ…」

アオトが砕けた。翠色のアスティル・クリスタルだけが寂しい輝きを発しながら床に落ちる。
灰となった彼の残滓を酸性雨が全て流していった。アオトの名前を泣き喚く俺の声さえも。


******


ブツンとその光景が途切れ、レクス達のいる部屋が真っ黒になった。
「わっ!ちょっとミーナ殿?魔法がまた不安定になってるの?」
「いや、これは――」

「うっ、うぅ………」
誰かが泣いていた。

「エ、エリー…」
「エリーちゃん…」
カイやアイシャ達全員が、暗闇の中で座り込みながら、先ほどのウィルフレッドのように泣き出しているエリネを見た。

「うぇっ、うぅぅ…っ」
「エリー」
ミーナが優しく語り掛ける。
「今おぬしが感じるその感情はウィルの記憶によるものだから、あまり思い詰めるでない」
「うん…分かって、ます…それでも…ぐす…私、ウィルさんのために…泣いてあげたい…」
「エリー…」

「キュ…」
ルルが床に横たわっている、同じく悲しそうに涙を流すエリネの肉体に近寄ってその頬を舐め、ラナもまたそっと屈んで彼女の涙を拭いてあげた。カイがそっとエリネの肉体の傍に屈み、いたわるようにその手を握りしめながら、横でいまだに小さく呻っているウィルフレッドを見た。

「…兄貴さあ、俺達の教会で食事してた時、いきなり泣きだしてたんだ。最初は妙な人だなって思ってたんだけど、ようやくその理由が理解できたよ。兄貴…あの日からずっと、ずっと一人だったんだな……」

レクスが軽く頬をかく。
「うん。最初に出会った時は、なんだか影のある人とは思ってたけど、想像以上の人生を送ってたんだね…。世界を牛耳る秘密結社で戦いに明け暮れて、余命を宣告されては人々に追われて、家族同然の仲間たちの死を全部見送ってて…しかも半分は自分で手をかけてると来た。うちらの世界ではちょっとぐらいハードだよ」

ラナが立ち上がってはウィルフレッドを見た。
「だからウィルくんは私達に遠慮して何かあったのかを言わなかったんでしょうね。真面目すぎるのよ、困るぐらいに」

「…ウィルさん…」
少し落ち着いてきたエリネに、ミーナが再び声をかける。
「エリー、すまないが記憶はまだ続いている。頼めるか?」
「ぐす…はい…っ」
小さく涙を拭いてエリネは立ち上がり、暗闇の奥でぼんやりと続く光景に顔を向けた。胸に強く決意を固めては、エリネは記憶の時間軸のさらに奥へと歩み出した。

(ウィルさん、どうか最後まで見せてください…っ)


******


ある廃ビルので、俺はアオトが預けてくれたツバメの首飾りに隠されたマイクロチップのデータを、体の生体端末を通して確認していた。そこには、俺がアオトやギル達から離れて以来、彼らが戦いながら『上層部』からかき集めてきた『組織』の情報がぎっしり詰まっていた。

その中で一番目に付いたのが、レイチェルシティの地下で建造されている最新鋭の戦術艦ヌトに関する情報だった。アウター1の動力源であるマンサーラより作り出されたアスティル・クリスタル、メルセゲルを使って瞬間移動ワープが可能な宇宙船だ。それによる拠点制圧と宙間航海や、長期間航海を想定した生活機能、たった一人で船の全てを操作できる高性能インターフェイスなど、地球現存全ての技術の集大成とも言える艦だ。

別名義だが、その建設責任者はビリーのようで、アルマのデータや変異体ミュータンテスのサンプル・ナノマシンなど、『組織』が研究した異星人アウトランダーの技術の全てが、多数の最新鋭武装と共に船に積まれてある。建設はビリーの後任者が近いうちに完成させられ、その後自律的に打ち上げられる予定だが、アオトにより注記されたその目的地に思わず瞠目した。
(『組織』の最高指導者がいる場所だって…っ?)

異星人や『組織』の技術の粋を集めて作られ、誰も乗せず『上層部』さえも行き先を知られていないその艦が向かう先は、恐らく最高指導者の場所に行く可能性が一番高いとのギルの推測だ。

議会議事堂でアオトが入手したコードと、バレーシティでギルが入手したコード二つが合わせて、レイチェルシティにあるヌトの建造ドッグへのアクセスコードとなるようになっている。ギルはそれを使ってヌトに潜り込み、最高指導者を倒した後でそのままヌトでいずれかの軌道エレベーターを破壊するよう計画している。お互いのコードは既に相互転送済みで、二人はバレーシティで現地合流する予定だった。

チップに含まれてるアクセスコードを確認すると、ふともう一つのファイルに気付く。
(これは、影像ファイル…?)
ファイルを再生させると、ざざっとしたノイズが走り、どこか諦観している顔で座っているアオトの姿があった。

「このファイルを見ることになるのは、多分…いや、きっとウィルに違いないと思う。なんとなくだけど、ウィルなら僕達みたいに頭がいかれることはないと思うから」
(アオト…?)

「まだ僕が正気を保てられるうちに、君に言いたいことを記録しておくよ。…今まで本当にありがとう、ウィル。例え感情抑制手術を受けても、僕が今まで持ちこたえられることができたのは、君が僕の話をいつも真剣に聞いてくれたからだと思うし、なによりも初めて出会った時、君が僕に手を差し伸べたから」

憔悴しきった顔で穏やかな笑顔をアオトは見せる。
「適正テストで君の手を握った時、僕はまだまだこの世界は捨てたものじゃないと思えるようになれたんだ。前に歩ける力をもらえたんだ。君の理由がどんなものであっても、そのお陰で僕がたいぶ救われたのは紛れもない事実だよ。その心をどうかずっと忘れないで。君はきっとこれからも大勢の人々を助けていくと信じてる。僕の心が君に救われたように」

脳内で再生される影像なのに、涙でぼやけたかのように感じられた。
「輝かしい日々をこんな僕と分かち合ってくれてありがとう。…僕の大事な友達、僕のツバメさん。願わくば君に、真の平穏が訪れますように」

影像が途切れる。外の酸性雨の音だけが部屋に響き渡る。手元にあるツバメの首飾りを握り、俺は俯いて小さく泣き出した。
(…っ、助けられたのは、俺の方なんだ…アオト…っ)

暫くして、俺は立ち上がった。アオトのツバメの首飾りをつけ、キースが最後に着たサイバーコートを着て、サラのグローブを手に着ける。逃亡生活ですっかり長くなった髪をなびかせては、レイチェルシティの場所を再確認した。

(ギル、今行くからなっ)



【続く】

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