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第十五章 星の巫女
星の巫女 第二節
しおりを挟む「う、うぅ…」
徐々に意識が戻り、テムシーはゆっくりと目を開くと、自分の容態を見ているマティの顔が見えた。その隣に包みを背負ったクラリスもいた。
「目が覚めましたか、テムシー」
「マティ…。俺は、助かったのか」
テムシーは周りを見た。陽の光に照らされて輝く湖の傍だった。彼らが乗ってきた馬は湖畔で水を悠々と飲んでおり、周りには紫色の花が一面に咲いていた。
「ここは…」
「奇遇なものですね。あの時もここで貴方が受けた毒の解毒剤を調達したものです」
マティに助けられてテムシーはゆっくりと身を起こして木に背を持たせた。
「…これで君に二度も助けられたな」
「先日の森も加えると三度ですよ」
表情の乏しいテムシーが珍しく苦笑する。
「テムシー。さっき里が襲撃されたと言ってましたが、もう少し詳しく聞かせてくれますか?長たちは、戦士長はどうしたのです?」
「…戦士長は俺を逃がすために犠牲となった。災厄の手下達は数も錬度もいままでとは比べにならなかった。長も恐らく…」
「そう、ですか…」
沈痛そうなマティの顔に、クラリスも胸に物言えぬ苦味を感じた。
「彼らは守り岩を砕いたといってましたね。あれはマナも神秘も帯びないただの岩のはずなのに、砕いてなにになると言うのですか」
「分からん。単に我らの心を挫くためかもしれん。あれは掟より我らが守るべきものでもあるからな」
「ですが、邪神教団が目的もなく何の価値もない岩を破壊するだけに里を襲撃するとは考え難いです。何か私達には知らない理由が――」
「あの…」
二人は割って入るクラリスを見た。
「申し訳ありません。少し気になってたのですが、貴方がた…エル族でしたね。掟により岩を守るべきと仰ってましたが、その理由について何の言い伝えもなかったのですか?」
「勿論ある。エル族は聖なる森と共にあり、その守り岩は森の象徴、中心だ。我々が守るには当然のことだろう」
「そうでしょうか…。マティ殿の言うように教団が訳もなくそれを狙うとは考え難いですし、何か別の理由が隠されたとか、失伝したとかの可能性もあるのでは?」
テムシーが顔をしかめる。
「そんなはずない。掟は一族の祖先が決めた神聖なルール。嘘偽りなく伝えることも掟の一部。祖先が我らに隠し事などありえん」
強めの口調にクラリスは不満そうになる。
「大層なご自信ですね。掟は絶対間違わないとでも言いたいのですか?貴方がた一族が誤伝した可能性もなく?」
「当然だ。掟は一族の、家族の結束を強めるもの。結束なくして自然での生存はありえない。故に掟は絶対なのだ」
「そうですか?私には寧ろ思考停止を促す古臭いルールに聞こえてくるのですが」
「よそ者が我らの聖なる掟を侮辱するのかっ」
「お、お二人さんとも、落ち着いてっ」
今にも殴りあいそうな二人をなだめるマティ。クラリスはいまだ不服そうに追い討ちをかける。
「そもそも、その神聖な掟をマティ殿が破ったからこそ貴方は助かったのですよ。少しはその石頭をほぐしたらどうなんですか」
「そんなことっ、言われずとも――」
「ですからもうやめてくださいっ」
立ち上がろうとするテムシーを押さえるマティ。クラリスはこれ以上付き合えないと言わんばかりにそっぽ向いた。
「ふぅ…テムシー。あなたは里からおぞましい邪気が吹き出したと仰ってました。あくまで憶測ですが、あの守り岩、実はなにかを封印していたと考えられませんか?」
「ありえん。それなら掟や里にちゃんと言い伝えられてたはず――」
「ですが実際にはなかったですよ、テムシー。長からも他の兄弟たちの話からなに一つも」
「祖先は我らに隠し事をしてたと言いたいのかっ?」
「事実がそう示していると言いたいだけです。実際、掟があそこまで厳しいのも、本当は邪悪な何かを封印するためだからと思えば合点もいきます。そうではありませんか?」
テムシーはそれ以上口応えしなかった。ただマティの言葉を吟味してるかのように静かに俯いた。
マティは立ち上がり、クラリスに話しかける。
「クラリス殿、貴方は先に聖剣を持って急いでください。私は後で追いつきますから」
「マティ殿?ですが…」
「それに教団の追手がいつ追ってくるか分かりませんし、二手に分けた方が相手の注意を分散できましょう」
「いけませんマティ殿。でしたら貴方よりも私の方が囮になります」
「女…」
「いえ、クラリス殿。逃げ足なら私の方が速い、囮役として最適なんです」
「だめですっ、それじゃ――」
「女っ」
二人がテムシーの方を向いた。
「お前の後ろの包み、妙な明かりをしているが、魔晶石製のものか?」
「え…」
その時クラリスとマティは始めて、彼女の背中の包みが薄い光を発していることに気付いた。
「これは…っ?」
慌てて包みを開くと、三人とも目を見開いた。聖剣ヘリオスが鞘ごとに淡い光を明滅させているからだ。その厳かで神秘的な明かりにテムシーが思わず声を上げる。
「…っ、その光、まさか母なる女神様の…っ」
「せ、聖剣がっ?何が起こってるの、前に一度もこんなことにはなってないのに…」
マティは大地の谷でのエウトーレの言葉を思い出す。
「ひょっとしたら、これが兆し…?」
「兆しですか?」
「ある方が言ってました、神器は時が来たら覚醒の兆しを見せると。まさか邪神の覚醒が近いから?だから教団も本拠地から出て里を襲撃したと」
「っ、でしたら早く聖剣をラナ様に届けないとっ」
「俺の馬を使え」
痛みに耐えてテムシーが立ち上がる。
「テムシーっ?まだ立っては――」
「問題ない。傷は殆ど塞がったし、毒は既に完全に消えた。…変わり者の君のお陰でな」
馬にかけてた自分の戦斧をおろし、テムシーはそのまま手綱をマティに渡す。
「災厄の追手が来たら俺が食い止める。君はあのよそ者と一緒に道を急ぐがいい」
「ですが、それでは貴方が…」
「『命の貸し借りは残さない』。それに…掟になくとも、今はその剣を送り届けるのが急務なぐらい俺にも分かる。俺より頭の良い君ならなおさらではないか?」
「テムシー…」
お互いを暫く見つめると、マティは頷いた。
「分かりました。クラリス殿っ」
「ええっ」
マティがひらりと馬上に跨り、剣を背負いなおすクラリスを後ろに乗せた。
「ありがとうございます、テムシー。どうか無茶はしないでください。貴方とはまた昔みたいにじっくりお話したいのですから」
テムシーは返事しなかった。ただ小さく頷きにも似た動きをして、そのまま振り返って離れていく。
(相変わらずですね、テムシー)
「マティ殿…」
「いきましょうクラリス殿。しっかり掴まってください」
「ええ」
馬が大きく嘶くと、マティとクラリスを乗せて駆け出した。テムシーは一度だけ振り返ると、やがて反対側の森へと消えていった。
******
エステラ王国内の平原を横切り、王都セレンティアを目指す女神連合軍。その先頭でいつものカイ達七人が、轡を並べながら会話していた。
「三国諸侯の召集だって?」
レクスが頷く。
「そうだよ。ガルシア様の屋敷でラナ様が手紙を出すっていってたでしょ。あれは三国の各諸侯に、僕たちとともに戦ってくれる方に、いま向かってるエステラ王都セレンティアに集合って内容だよ。エステラの諸侯は女王にお願いして、ルーネウスの方はロバルト陛下を介して出してるんだ。連合軍の結成自体が陛下の立案だったしね」
ラナが馬をカイ達に並べさせる。
「そしてヘリティアの方は私とガルシアが送り先の相手を選別して送ったわ。宰相派に知らされたら面倒だからね。あの時、皇国内は免税令の取り消しで混乱してたから、国境の管制も緩むと睨んでたの」
ウィルフレッドと同じ馬に同乗しているエリネが感心する。
「なるほど。これなら王都に着けばすぐに帝都へ向かう準備ができるんですね」
「ええ、諸侯達への説明に説得、兵力の移動にも時間はかかるし、今の私達にとって時間は大切だからね。無駄は可能な限り省いていきたいのよ」
「すげぇな…三国の諸侯がセレンティアで一同に集まるのか…」
少し興奮気味なカイを微笑ましそうに見るウィルフレッド。
「王都セレンティアか…、この世界の首都規模の都市に行くのは初めてだが、具体的にはどんな感じなんだ、アイシャ?」
「それはもう、とても美しい都ですよ。森に囲まれた湖の傍にある王都セレンティアは一年中温和な気候で過ごしやすいですし、建物はほとんど白を基調にして、都を横切る川や木々の緑と相まってとても綺麗なんです」
ミーナが補足する。
「首都の規模こそ三国最小だが、さっきアイシャの言うように、その風景は白亜の都と呼ばれるぐらい人気な都だ。女王のいる白塔城にある星原の庭も、三国のなかで最も美しい庭と呼ばれているな」
二人の説明にウィルフレッドの期待が膨らむ。
「そうか…早く見てみたいものだな、エリー。…エリー?」
俯いて考え事をしていたエリネが我に返る。
「え?あ、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてました」
「…これからのことを考えてたんだな」
エリネが小さく頷く。
「王都にいる女王…伯母のことを考えてました。いったい、どんな人なのかなって、お母さんやお父さんについて、何を教えられるのかなって、つい気になってしまって…」
言葉の裏に隠された不安を感じ取って、ウィルフレッドは片手でそっとエリネを抱きしめる。
「ウィルさん…」
「大丈夫だ。どんな話が出てくるか分からないが、俺が一緒にそれを受け止めるから」
「…うん、ありがとう」
そっと頭を彼の胸に寄せるエリネ。いつものように、温かい温もりと心臓音が不安を取り除いていく。自分の髪にウィルフレッドが愛おしく口付けすると、口元が緩んで幸せが笑顔になって溢れた。いつもここでからかうアイシャ達だが、ただ静かにそれを見守った。
「うん?ちょっと、なんか前方に煙が立ってない?」
レクスが指差す方向をカイ達が見やる。遥か前方の森の向こう側から、複数の煙が立ち上がっていた。
「ほんとだ。誰かそこでキャンプでもしてるのか?」
「いや、あれは…」
異常を察したのはウィルフレッドだけでなく、前方に意識を集中したエリネもだった。
「違うわお兄ちゃん、これ…誰かが戦ってる音がする、しかも大規模のよ」
「戦いだって…?」
「ラナ様ぁーーーー!」
馬で先行していた斥候が慌ててラナの方に戻る。
「どうしたっ、前方に何かあったのか?」
「はいっ、ここより先の林で戦闘が行われています!しかもそこに、踊る悪魔の旗印がありました!」
ラナ達全員が瞠目する。
「邪神教団だとっ?」
「はっ!みな黒いローブを着て魔獣を使役してましたから間違いないかと!」
レクスが前に出る。
「他の旗印はっ?教団達は誰と戦っているのっ?」
「他には赤獅子の旗や、雷の塔と一角獣に盾の旗が見えました!」
アイシャが声を上げた。
「赤獅子…っ、それ、王女ルヴィア様の旗印ですっ」
ラナの目色が凜と変わり、高く手を挙げた。
「全軍、全速前進せよ!救援に向かうのだっ!」
******
「ぐうっ!無事かエーテルデ殿っ!?」
「なんの!これぐらいなんともないっ!」
エーテルデを囲んだ死霊兵を切り払ったばかりのシャフナスは、配下の騎士とともにさらに襲い掛かる死霊兵と対峙する。それぞれの陣営の旗が入り乱れるようになびき、騎士達の吼え声と、教団の信者達が召喚した魔獣の吠え声が混じる混沌の戦場。その旗色は、教団の方に傾いていた。
「モウオオォォッ!」
刺々しい鎧などで武装されたタウラーの一撃が騎士達を蹴散らす。
「フシュシューーー」
冷気を撒き散らす死霊鎧達が騎士達の攻撃を弾いては陣形を崩しす。
「我が僕よ―――」
教団信者達が死霊兵などを次々と召喚してくる。
「シャアァっ!」
「ぐぁっ!」
そしておどろおどろしい黒の鎧を纏った今までに見ない手練れの兵士達が、信者達の魔法や魔獣に援護されながら騎士達を薙ぎ倒してくる。それはもはや今まで隠密行動を前提とした教団の作業員たちではない。れっきとした一つの軍勢である。
そして、教団の軍勢の後方にある木の上から戦場を観察している人影が一人。
(奇襲はどうやらうまく行ってるようですね)
目に不気味な赤いオーラを堪えるエリクが満足げに頷く。
(もっとも、上手く行き過ぎてアレを試すチャンスがないのですが…)
騎士達が押さえ込まれていく。その場の戦闘を予想しなかった少人数の三騎士団の苦戦は必然的だった。騎士や兵士達をまとめ、燃える赤髪をなびかせては勇敢に戦う獅子姫がいなかったら、既に全滅していたのだろう。
「たぁっ!」「クカカカカッ!」
その髪と同じぐらい真っ赤な毛並みを持つ駿馬で戦場を駆けるルヴィアの槍が死霊兵たちをなぎ払う。
「五番隊!後方に注意しなさい!囲まれますよ!」
陣頭指揮を取るルヴィアにタウラーが大きなメイスを振り回して突進してくる。
「モアアアアァッ!」
そのタウラーの横からさらにエルフの女騎士が仕掛ける。
「――森霊獅!」
「モガアァァッ!?」
翠色の獅子にからまれ、タウラーが悶える。
「ルヴィア様っ、お怪我はありませんかっ!?」
「助かりましたシスティっ!」
戦場に悪寒を誘う教団の角笛が吹かれる。敵の第二陣がさらに後方から沸いて出たのだ。ルヴィアは訝しむ。
(おかしい。召喚可能なタウラーとかはともかく、これほど規模の敵兵や魔獣がエステラに入るのであれば国境あたりで観測できたはずっ。まさかずっと王都近くで潜伏していた…っ?)
戦況が芳しくないと見て、ルヴィアは決断する。
「システィっ!三番隊を率いてエーテルデ殿とシャフナス殿とともに左翼から包囲を突破するのです!これより全軍撤退する!」
「承知しました!」
撤退に移る騎士団らの動きをエリクが察した。
「さすが勇猛と知られる獅子姫ルヴィア殿、見事な判断ですね」
木の上からエリクが下の教団兵達に指示を下した。
「リノケラスを前へ」
エリクの指示を受け、六名以上の屈強な教団兵が図太い鎖で一匹の猛獣を後方から前へと引きずり出した。六本足に分厚い鱗、さながら棘の生えた兜のような頭、その先端に太い角。そして身体に鎧が武装された魔獣、リノケラスがフゥフゥと息を吐いてはその六本足で地面を重々しく踏み鳴らす。
――――――
「うわっ、なんだあのバカでかい魔獣はっ?」
戦場を俯瞰できる小さな丘の上に到達したカイやミーナ達。
「あれはリノケラスだっ。平原に生息する温順な性格の生き物だが、恐らく教団が戦闘用に調教した奴に違いない」
「あんなものが騎士団に突っ込んだら…。ラナちゃん、早く助けてあげませんとっ」
タウラーや死霊鎧が人々を蹂躙する戦場を見て、ウィルフレッドが思わず胸のクリスタルに触れた。
(大型の魔獣がこんなに…っ。このままじゃ死傷がさらに広がって…っ。やはりアルマ化して速攻に倒したほうが――)
彼の考えを察したエリネが心配そう振り返る。
「ウィルさん…?」
「エリー…っ」
「ウィルくんっ!」
ラナの一喝が、彼の動きを止めた。
「この前に話したことを忘れてしまったのっ?勝手に魔人化するなんて許さないわっ!」
「ラナ…っ」
「それに言ったでしょ、もっと私達を信頼してって。ここは私達に任せなさいっ」
不敵な笑みを見せ、ラナは腰の剣を抜けた。
「一番隊から三番隊へ!私に続け!レクス殿!残りの隊の指揮を!」
「ま~かせてっ!」
――――――
「エーデルテ殿!シャフナス殿!」
騎士と共に教団兵士の包囲を切り抜き、エルフのシスティが二人の元へ駆けつける。
「どうか私に続いてください!敵の包囲網を突破します!」
「承知した!…ルヴィア様はっ!?」
システィは遠方で死霊鎧の片手を刺し落としたばかりのルヴィアを見やる。
「ルヴィア様ならご心配なく、すぐに私達に追いつきますから」
「しかし――」
「早くっ、でないと退路を断たれて――」
「フオオォォッ!」
ルヴィアやシスティ達はけたたましい吠え声の方を向いた。全身刺々しく武装されたリノケラスが、騎士と教団兵もろとも突き飛ばしながら、重々しい六本の足で大地を揺るがしてはルヴィア目がけ突進してくる。
「いけないっ!ルヴィア様っ!」「くっ…!」
システィが叫ぶ。ルヴィアは迎撃しようとも、既に死者である死霊兵たちに囲まれて身動きが取れないっ。リノケラスの死の質量が彼女に迫った。
「フオオォォアアアァァッ!」
システィは絶望的に叫んだ。
「ルヴィア様ーーーー!」
「―――光槌!」
白熱の光の束がリノケラスに直撃した。
「フォアアァァッ!?」
身体の一部を吹き飛ばすほどの一撃に、リノケラスは地面を削りながら倒れこんだ。
「なっ…」「え…っ」
ルヴィアが、システィが、エーデルテやシャフナス、そしてエリクを含む戦場全ての視線が、戦場へと駆け込んだ太陽に注目した。
暗雲を切り裂かんばかりの輝きを背に、彼女は魔法を撃った左手をおろし、輝けるエルドグラムを高々と掲げては凛として名乗りを上げた。
「恐れるな!三国の戦士達よ!ヘリティア皇国が第一皇女、太陽の巫女ラナ・ヘスティリオス・ヘリティアがここにいるが故に!」
騎士達がどよめく。
「ラ、ラナ様…?」「太陽の…女神エテルネ様の巫女…?」「あの、女神連合軍を率いて各地で常勝不敗を誇り、教団の悪行をも退けてると言われるラナ様…っ?」
エーデルテの声が震える。
「お、おおっ、ラナ殿下…っ!」
日の明かりを受けて輝くエルドグラムを掲げるラナの勇姿と強き言葉は、一瞬にして戦場を覆う絶望をはらった。
「フ、フォォォ…っ」
身体を一部えぐられたリノケラスが立ち上がろうとする。
「――凍結獄!」
「フギャアアァッ!」
巨大な冷気の塊が、リノケラスを体の芯まで凍えさせた。
「みなさま!心を強くもってください!」
美しき青の髪がなびく。夜の闇を高潔な月の明かりが照らすかのように、アイシャが毅然として降り立った。
「ルーネウス第三王女、月の巫女アイシャ・フェルナンデス・ルーネウスは皆様とともにあります!」
「ア、アイシャ様っ!?」
シャフナスが騎士達とともに驚愕する。
「間違いない、あれはわが国のアイシャ様だっ」「月の巫女、女神ルミアナ様の力を賜った…っ!」
空気が一変した戦場を見て、ウィルフレッドでさえ思わず二人に見とれる。
「ウィルさん」
エリネが呼びかける。
「ラナ様の言ったとおりですよ。今の貴方はもう一人ではないんです。全部一人で背負い込まないでくださいね」「キュッ」
「エリー…」
エリネがルルとともに馬上から降り手は杖を手に持った。
「ウィルさん、いってきますっ」
「…ああっ」
ラナとアイシャの気迫に気圧されていた教団信者達が再び動き出す。
「ひ、ひるむな!魔法を撃ち続け…」
「――星天光!」
無数の流星の矢が、魔法をしかけようとする教団信者たちに降り注ぐ。
「「「うおおおっ!?」」」
青色の爆発が連鎖して砂塵を巻き上げる。ミーナがエリネに教えた女神スティーナ由来の攻撃魔法だ。
「あの子は…?」「誰なんだ…」
騎士達が一同に、戦場へと駆け込んだ見知らぬ村娘エリネを見た。視線を肌で感じる彼女は緊張を和らげるよう軽く一息吸う。
(落ち着いて…。巫女であろうと王族であろうと、私は私よ。ほかの誰でもなく私は自分のために戦うの。お兄ちゃん達と、…ウィルさんと一緒にいられるためにっ!だらか今の私は…!)
決意を胸に、エリネは両手を広げて声高に名乗り挙げた。
「私はブラン村のエリネ!スティーナ様の力を受け継ぎし星の巫女、エリネ・セインテールです!皆さんもう大丈夫ですよ!」「キュッ!」
肩のルルもまた誇らしげに胸を張った。
「あ、あの子、今なんて言ったっ!?」「ほ、星の…」「星の巫女ですってっ!?」
その言葉に連合軍含めた全ての騎士達は勿論、誰よりもルヴィアが、システィが驚愕した。戦場が騒然する。後方に控えてるエリクでさえも、悦びの声をあげた。
「ザナエル様、ついに見つけましたよ…っ。ずっと行方不明だった星の巫女がっ」
(エリーちゃん…)
アイシャとラナ達がエリネを見る。それを感じとったエリネは堅く頷く。二人も笑顔で返すと、ラナは再びエルドグラムを掲げる。空から陽の光が祝福するかのようにその勇姿を照らした。
「騎士よ、兵士達よ!女神の巫女はいまここに集った!恐れるなかれ!相手がいかな恐ろしき怪物を解き放とうとも、三女神達の加護は我らとともに在るのだっ!己が信ずる信念のために!われらが愛する者たちのためにっ!ハルフェンの民よ、女神の子らよっ!」
ラナの剣先が邪神教団へと向けられる。
「邪神の走狗どもを地獄に追い帰せぇぇっ!!!」
先ほどまで疲労困憊だった騎士達が万雷の歓声を挙げ、ラナとともに突進する!アランが吹く勇壮な角笛の音と鬨の声が大気をも震わせる!先ほどまで敗戦濃厚だった騎士や兵士達は、新たに命を吹き込まれたかのように再び武器を取り、怒涛の勢いで邪神教団を、魔獣たちを押し返していく!
「エーデルテ殿!」
「分かってる!雷塔騎士団!突撃せよ!」
「システィ!騎士達を率いてラナ様の援護を!」
「は、はいっ!」
ルヴィアの指示で我に返ったシスティが慌てて行動し、エリネの方を一瞥した。
(ティア様…っ)
かつてない高揚した士気とともに戦況が覆されていくのを見て、ウィルフレッドは心の底から震えた。
(凄い…女神の巫女が特別なのは分かってたが、三人揃うとここまでになるなんて)
そして同時に深い感慨が沸きあがる。身体に熱が入る。
(ありがとう、みんな、エリー…。俺はもう、あの冷たい雨の中で寂しく泣く孤独な子ではないんだな)
自分の世界とは異なる誇りと信念が人々を支える戦場で、彼は腰の双剣を抜いた。
(ならば俺もできることを…みんなを、エリーを助けよう!)
既に前へと出たレクスやカイ、ミーナを追うように、ウィルフレッドは駆け出した。
【続く】
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