短編ファンタジー

aoimiyuko

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人ならざる者と人間のお話

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この時代の僕はとても孤独だった

他の人と明らかに違うと言って迫害され続けた。

普通の人ならそこで捕まって魔女狩りのように火刑にでもされていたんだろうけど、僕は既に人じゃない存在に近くなっていたもんで、僕を捕まえることは誰も出来なかったのさ

人間の街はとても住みにくい
だから、落ち着いた森の奥に家を建てることにしたのさ


ある日遊びで占いをしていた。
その時に水晶玉から出てきた不思議なちいさい子がこう言った

貴方は今とてもラッキーな運勢です☆
今なら生涯一緒にいられるパートナーを見つけられるかも知れません☆

…そう言って僕の目の前から消えていった。

その占いの結果には条件があり、僕と一緒で寂しい人を見つけないといけないそうだ。

僕と同じくらい寂しい人…?

その占いを信じて僕は生涯のパートナー探しをする事にした。


まず僕は寂しい人発見機を開発した

僕の家には今までにないほど客人が集まった

寂しい人発見機は見た目は鏡に近い。
客人は鏡に向かって正面に立つ
そうするとその人の大事な人、思い出の場所、宝物、何かが浮かび上がってくる

そう、何かが浮かび上がるってことは寂しくないってことさ

今日の客人も全て、僕のパートナーには相応しくなさそうだ。



真夜中、客人もくる気配はない。

僕は自分の発明した鏡の前に立った。

……やはり、そこには何も現れる事はなかった。

そういえば鏡の前に立った客人達はみんな不思議な印象だった。

笑っているもの涙を流しているもの
何かを思い出したかのように外へ走って出て行った者もいた。

大切な物が何か、思い出せたのだろうか。

僕にはその気持ちは分からなかった。



数ヶ月も経つと客人も少なくなってくる。

鏡の中が見たくて何回も通う奴もいたが、そういう奴らは追い払ってやったよ。

僕の発明品は、僕だけのために使うのが道理だろ?


その日は雨が降っていた。
暗くなってきたのでそろそろ客人も来ないだろうと思っていた時


その子はやってきた。

ボロボロの真っ黒な肌に、グシャグシャの真っ黒な長い髪。
顔は髪で半分は隠れている、目が小さく鼻も潰れ、歯もほとんど抜けてるのが分かった。

…あと臭い。

年齢も性別も不明な程とにかく汚く醜い印象だった。

その小さく醜い客人はこう言った。

かんばんをみた…………と

僕は裏街の看板に

寂しい人募集中!
一番寂しい人には望みの物をなんでも一つあげます。

と書いた。
まぁ、そのおかげで客人がわんさか今まで来てた訳だが、その子もそれを目当てに来てるようだ。


今の平和な時代こんな汚い子、一体どこからやってきたのだろうと思ったが…

僕は期待していた、とても

僕はその子の背中を押してそそくさと鏡の前に立たせた。すると…



なにも浮かび上がってこない。


僕は、僕のパートナーを見つけ出す事に成功したのだった。




~次の日の朝~

その子はあまり上手に喋れなかった。

名前を聞いてもなにが欲しいのか聞いても、わからないとしか言わない。

ソファから座って以来動こうとしないし、食べ物もろくに食べたくないみたいだった。

正直、、僕はパートナーを見つけた後どうしたらいいのかも分からなかったし、そのパートナーが別にどうしても必要な訳じゃないし、なんなら捨ててしまおうかとも思った。

そして、その子は僕が見ると泣きそうな顔をいつもしている

その顔がその子のいつもの顔なのか、僕が他人から見ると泣きたくなる顔をしているのかは分からないが、とにかく不快だった。

不快だった僕は新たに発明をした。

心の中と外を同じにする装置

名前は無いけどそんな感じの機械を僕は作ったのさ

何が起きるかは、そのままの意味

その装置の中に人間を入れボタンを押し、3分間待つ。

すると、あら不思議。
心の中が綺麗なら綺麗な子に
心の中が汚いなら汚い子に変身

まぁ、その心に見合った容姿になるって事さ。

僕は実験室にその子を連れ、装置に入れた。
なにも抵抗はしなかった。

今よりは綺麗になるだろ、そして喋ることくらいは出来るようになるだろうと信じて僕はボタンを押した。



チーン


3分経ったので装置を開けると

まぁびっくりするくらい綺麗な子が出て来た訳さ


喋れるようにはなったが、結局のところ名前は無いらしく

ひとまず僕はその子にクラインという名前をあげた。

クラインは9人兄妹の末っ子で、気づいた時には皮膚が黒くなる病を患っており、医者にかかる費用もなく、両親に捨てられたらしい。

行く先々では悪魔や不吉の象徴と罵られ石を投げられたりもしたと語っていた。

まぁ~死ぬ一歩手前だったんだろうね。

欲しいものはなにも無かったが僕の看板に何かを感じたらしく不安だったがここまで来た、ということだ。

今まで何百年も1人でこの家に住んでいたが、本格的にクラインと僕は一緒に住む事になった。

僕は趣味の開発を進めていき、クラインは周りのお世話をしてくれた。

家事も最初はたどたどしかったが今では僕のおかげでなんでもこなせるようになっていた。

…僕のおかげでね!


クラインは病気も治り容姿も美しくなったおかげで街に買い物に降りる度に結構声をかけられるらしい。

街から帰ってくると嬉しそうにしていることが最近多くなった。

なぁクライン、僕と一緒にいるのと街に行くのはどっちが好きかい?


クラインは笑っていた。



 





ある日僕の隣でいつものように掃除をしているクラインは、古びた鏡を見つけたようだ。

見覚えのある鏡だった

掃除をしようと思ったのか鏡にかかっている布を取った。
映った自分の姿を見たクラインは驚いて手に持っていた箒を落とした。

そこに浮かんだ姿は…僕が見た事がない、見知らぬ男性だった。





そんな出来事があった事さえ忘れるほど、毎日は充実した日々だったよ。

ソファにクラインは座った

そして唐突に出会った頃の話をしてきた。

実はね、初めにここに来た時
このソファでずっーと座ってたのは、ご主人の部屋をこれ以上私が歩き回って汚くしちゃいけないと思ってたんだ、怠けてた訳じゃないよ

クラインは控えめにフフッと笑った。
確かに君は汚かったけど、お風呂にも入れてたし、気にならなかったよ。

あとね、泣いてたように見えたのは自分なんかがこんな立派なお屋敷にいて迷惑じゃないか、いつか追い出されるんだって、不安だったんだ…

クラインはそう語った。



そんなある日、、

今日はなんだか嫌な気配がするなぁ

そう考えていた矢先

いきなり街の男達数人が僕達の屋敷にやってきたんだ。

そしてこう言った。

人間の女を拐かす魔物がいると聞いた!貴様がその魔物で間違いないようだな!

後ろにいる男が続けた。

クラインを解放するんだ!そしてこの森から出て行くんだ!

なんとなく状況は読み込めた。
まぁ、僕が人間を誘拐した魔物扱いになってるみたいだ。

やはり人と関わるとロクな事がないよ、全く。

今にも襲い掛かりそうな男達が僕を睨みつけている


君達、何か勘違いをしてないかい?
まず、僕はもともと君達と同じ人間だ。
あと、クラインは僕のパートナーだしずっとここに住む事が決まってるんだ。頼むよ、面倒くさいことはゴメンだ。早く出て行ってくれ。

僕は椅子に腰掛けたまま、あしらうようにそう言った。


はっ!お前が人間?笑わせる!
その骸骨頭のどこが人間だ!お前は呪われているんだ!!


あぁ、まぁ僕は確かに見た目は顔の半分と身体半分は骨だよ。
そこは認めるさ。

君達と違ってカラカラの頭さ。
長く生きてるんだから仕方ない事だろう?

ただ、君達と比べておかしいのはそこだけさ、あとは一緒、さっ帰ってくれたまえ

その時クラインが扉の影に隠れていたのか、おずおずと出て来た。

その中の1人の男がクラインの名前を呼び、その腕を掴んだ。


あぁ…そうだ、この男はあの時の

僕は思い出していた、あの時鏡に映ったクラインの僕では無い、大事な人。

クラインは、もう寂しい人では無くなってしまっていたのだ。



そう考えていると
リーダー格のガタイのいい男がこう言った。

パートナー!?はっ、ふざけるな、クラインはよぉ
ずっーと、お前の事怖がってたんだよ!いつ食われるか心配だったってな!

…とうのクラインは男のそばにいる。こちらを見ないよう俯いている

そして、男達はクラインを連れ去っていった。




しばらくして僕は1人の屋敷でクラインの事を考えていた。

もともといない存在だったんだ。気にすることはない

その時ふと鏡に目をやると

クラインが微笑んでいる姿が浮かびあがってきた。


不思議だな。

君が想ってるのは僕じゃない。
でも僕が想ってるのは、君なんだな。

そんなの、寂しいじゃないか


人間は傲慢な生き物だ。





その夜

骸骨紳士の屋敷は人間の手によって火を付けられた。

焼け跡から、何か金目の物がないかとあさる人間達は皆
原因不明の肌が黒くなる病気にかかって苦しんで死んでいったそうだ。


その屋敷からは、彼の死体は見つからなかった。







君はさ、
僕の事どう思ってるか分からない

あの全ての行動が嘘だったとしても

ただ、それでも僕は

君の事が、好きなんだろう

そして、この鏡さえあればいつでも君に会えるんだから
もう寂しくない。

さようなら クライン


クノッヘンより
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