シークレット・ルージュ ~ 火星軍の赤色迷彩 ~

独立国家の作り方

文字の大きさ
3 / 5

第3話 緊急遭難信号を発信しろ!

しおりを挟む
「どうしたものかな?」

凄いぞすげえぞ!、これはお宝の山だな、だってそうだろ?、20世紀の超骨とう品なんだぞ!、最低でも150年前って事だよな、こんなもの、博物館でも扱っていないんじゃないか?、世界大戦の前のものなんて、ジャンク屋でも見ないぜ!、オークションにかければ、俺たち億位万長者じゃねえか!」

 ドワイトの喜びようは異常だ。
 それは、恐怖に震えるマイケルと、考古学的大発見に震えるロイのそれとは明らかに異なるものだった。

「ドワイト、止めろ、第一どうやってこんな巨大な艦艇を曳航するんだ、それに、この宇宙飛行士は未だ葬儀も報告も未だなんだぞ、お前、呪われても知らないぞ」

「何だよロイ、お前、呪いなんて信じてるのか?、そんな事言っていたら、金儲けなんて出来ないぞ」

 ロイは正直、ドワイトの守銭奴的発想に吐き気がしていた。
 友人ではあるが、少し度が過ぎる。
 この目の前に居る赤色迷彩の遺体は、無酸素状態で保存状態が恐ろしく良く、今にも動き出しそうなレベルだった。
 本当に、つい昨日まで普通に生活していたかのようなこの宇宙飛行士に、時代の差はあれど、敬意を払うべきだとロイは考えていた。
 それを横目に、金の話しかしない友人の存在が、恥ずかしくも苦々しく感じられた。
 
「いい加減にしないかドワイト、飛行士学校での教育は何処へ行ったんだ」

「うるせえ!、お前は優秀な学生だったからな、学校学校って、あまり鼻にかけるなよ!、もう俺に構うな、これ以降、俺は単独行動に移る、付いてくんなよ!」

 そう言うと、ドワイトは第3指令室を飛び出して、一人で探索に出てしまった。

「まあ、そう恨めしそうな顔するなよ、君たちの時代と違って、俺たちはブルーカラーなんだからさ」


 恐らく、極秘に進められた20世紀の火星遠征軍、そのメンバーは極めて優秀な軍人から選抜された事だろう。
 頭脳明晰、体力抜群、各種学校も主席、きっと大学も一流の大学。
 そんな彼らと、自分たちでは雲泥の差があるのは明白だ。
 ブルーカラー、つまり襟の色がブルーという事は、作業服を意味する。
 現代の宇宙飛行士なんて、大型免許を持った運送屋に過ぎない。
 20世紀の宇宙飛行士は、ホワイトカラーの中でも更に上位職だったことだろうから。
 それ故に、ロイは20世紀の宇宙飛行士に対して、強い尊敬の念を持っていた。
 こんな、人類史に何も記録されない一大事業に、無名戦士として参加し、家族から遠く離れた火星軌道付近で遭難した宇宙飛行士。
 どんなに寂しかった事だろう、どんなに家族と会いたかったことだろう。
 そんな孤独と恐怖を解った上で、ここに居る彼は火星軍に志願したのだろう。
 この、赤い迷彩服を身に纏い、それを着れる名誉だけを胸に、誰からの称賛を受けることなく、ストイックに火星を目指した名も無き戦士。

 ロイは、再び赤色迷彩を着たこの宇宙飛行士に敬礼する。

 そんな時だった。
 ドワイトからの無線が飛び込んで来た。
 何だと言うのだ、単独行動するなんて息巻いていたクセに。

「おい、見ろよ、凄いぞ!、記憶のバックアップがある!、クラウドなんて無い時代に、まさか記憶を扱うテクノロジーがあったなんて、どうなってんだこれは、本当に20世紀の軍艦なのか?」

 記憶?、どういう事だ?、それは比較的近代の技術のはず。
 今現在では、記憶は法律で全てクラウド上にアップロードしなければならない。
 これが「ニュークラウド法」だ。
 これにより、個人の意識が何らかの事情で消去したとしても、復元することが出来る、ただし、特別な許可が無ければ、他人の記憶に介入することは違法だ、犯罪捜査以外での個人アクセスは認められていない。

「おい、止めるんだドワイト、さすがに逮捕されるぞ!」

「大丈夫だ、未登録のアップされていない記憶は高値で取引される、ましてや20世紀の記憶なんて、値段の付けようがない!、こんなの、マザーコンピュータのアーカイブにもないぜ!」

「どうする気だ!、危険だ、未登録の記憶にアクセスするなんて、バカなのか?」

「大丈夫だ、バックアップを取るだけだからな!」

 バックアップ?、、、まさか、自分の記憶媒体に接続して、記憶をコピーする気か?
 あいつはバカなのか?、未登録の記憶にアクセスなんてしたら、未知のバグに冒されるかもしれないんだぞ、、、あいつ、解っているのか?
 それでも、、、、20世紀の記憶、、、実に興味深い、本当にそんなものが存在するなら、俺も、、、、いや、それは駄目だ、クラウド法が出来る100年も前の記憶なんて、何が混ざっているか解ったものではない。
 
 ロイは、急いで第3指令室を飛び出し、ドワイトの後を追った。

「ドワイト、いい加減にしないか!」
 
 ロイがそう言い終わる前に、何か高速で自分の顔の近くを過ぎて行くのがはっきりと解った。
 
「そこを退け、第1指令室に民間人が入るなど、一体何を考えておる」

 、、、、なに?、今、何て言った?、
 おかしい、なんだか様子が変だ。

「ドワイト、どうした、いま、お前発砲しただろう、こんな狭い艦内で何を考えている」

「貴様、何を言っている、ドワイトとは誰だ?、火星軍にそのような兵士は登録されていないぞ」

 、、、火星軍、、、?、今、ドワイトは火星軍と言ったか?
 まさか、、、いや、、、しかし、、、

「マイケル!、緊急遭難信号を発信しろ!」

「え?、何?、何だよ急に」

「いいから!、ドワイトがおかしい、これは緊急事態だ!」

 ロイは、船長として生命の危機を感じていた。
 もし自分の考えが正しければ、この難破船は極めて危険だ。
 ロイの考えとは、、、、

 ドワイトが、20世紀の軍人の記憶によって、意識を乗っ取られた可能性がある、ということだった。

 ドワイトは、一体何を急いでいたんだ?
 ロイは、不可解な事象の原因を考えつつ、ドワイトの後を追った。
 向こうはライフルで武装している、こちらは丸腰の民間人、でもどうする?、恐らくこの艦艇は、まだ機能が生きている、20世紀の記憶を持った人物が違和感なく操作なんて始めたら、この艦艇に何が起きるか解ったものではない。
 そう思っている矢先、それは起こった。

「おい、ロイ!、どうした、一体何が起こったんだ!」

 それは火星軍の艦艇が、ロケット噴射を始めたのだった。
 艦内には空気が無いため、音はしないものの、凄まじい衝撃波は体に伝わってくる。
 宙に浮いているもの全てが、壁に吸い寄せられて行く、勿論ロイ自身も。
 インカムのスピーカーからも、ロケット噴射によるノイズがバリバリと音を立てているのが聞こえた。
 ロイも、これほど旧世代のロケット噴射を経験するのは初めてである、今現在、地球から衛星軌道までは、宇宙エスカレーターと呼ばれるロープーウェイによって、地球の重力圏を脱出することが出来るため、緊急用以外で、このようなロケットブースターを使用することはない。

 そして、マイケルを残したロストワールド号が見る見る小さくなって行く。

「マイケル!、おい、マイケル!」

こんな衛星軌道で、大出力のロケットを噴射すれば、一瞬で加速してしまう、このブースターロケットは、惑星の重力圏を脱する時に使用するものと同等だ、それをこんな所で使うなんて。

 艦艇の小さな窓からロストワールド号を見ていたロイは、それがもう完全に見えなくなるのを絶望的な目で見送った。
 なんて事だ、この艦艇は、一体どこを目指しているんだ?。
 そう思って力なく艦内に目をやるロイ、そこには驚くべき光景が目に入って来た。

「、、、どうしたドワイト、俺だ、ロイだ、ロイ・マッケンリーだよ、、、何だよ!、どうした?」

 ドワイトは、何処から持ってきたのか、先ほどの遺体が着ていた物と同じ「赤色迷彩」柄の軍服を宇宙服の上から纏い、ロイに銃口を向けて立っていた。

「何をしておる貴様、さっきから民間人がどうしてこんな所に居るのだ?、これは極秘ミッション、私は幻でも見ているのか?、密航など有り得ん事だ。さあ、答えてもらおう、貴様、どうやってこの艦艇に入って来た!」

 ドワイトが発砲する。
 その衝撃は凄まじい、だが、ドワイトはまるで良く訓練された兵士のように、ライフルを上手く扱っている。
 、、、やはり、ドワイトの意識は乗っ取られているな。

 ドワイトは、素早く次弾を装填する。
 この方式は、ショットガンか!
 大きな薬莢が艦内を漂う。
 
「解りませんか?、貴方はもう死んでいるのです、貴方が自分だと思っているのはドワイト・セイム2等飛行士という者です、軍人ではありません」

「馬鹿を申すな、この艦に、二人も民間人が居る訳無かろう、貴様、時間稼ぎか?、両手を頭の上に挙げて、そのまま前へ進め」

 これは、素直に従うしかない。
 
 言われるがままに、ロイは連行されて行った。
 そして、そこは先ほどの「第3指令室」だった。

「今は突入直前なのでな、無事に着陸が完了したならば、貴様を諮問してやる、それまでここに入っておれ」

 こうしてロイは、第3指令室に閉じ込められてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...