決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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第3堡塁の側壁

第3話 悪友と戦闘艦「しなの」

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 三枝1尉は、国連軍本部へ無線で怒鳴り込む。
 日本隊の担当官はそれを宥めるように説得した。

 「ここで君たち実働部隊だけが頑張ったところで事態に変化を生まないだろう、指揮官の君がそんな浅い判断でどうする。君はこれからの陸自を担うエリートだろ。ましてや部隊は君の所有物ではない。冷静になれ」

 その言葉に、三枝1尉は冷静さを取り戻した、が、怒りの全てが収まったわけではない。
 そんな時、意外な人物が彼を宥めた。

 「君たちの気持ちは本当にありがたい、しかし、もうこれ以上君たちに迷惑をかけるわけには行かないよ」

 笑顔でそう話しかけたのは、旧ドグミス軍将校にして現ドグミス暫定軍司令である、バザン将軍であった。
 三枝1尉は敬礼すると、英語で答えた。

 「みなさんもカンザニア諸島が本国ではありませんよね、あなた方こそ、復権の日に備え転進すべきではないですか」

 「国連軍はここをドグミスと名付けてくれた、ここまでしてもらって、ここを放棄することはできない。一度は国を追われた身、二度もドグミスに背を向けることは願い下げだな。惨めな敗残兵には良い死に場所を得たと思っている、本当にありがたい」

 三枝1尉は言葉を失った、彼らは全員死ぬ気であることを、この時悟った。
 そして、このやり取りを聞いていた日本隊の隊員を含め、ここがどういう意味の場所なのかを知り得たのである。
 三枝1尉は、撤収の号令を発すると、そのまま無口になってしまった。
 淡々と撤収を指揮しつつ、そして腑に落ちないまま。

 そして、戦闘艦「しなの」艦載機が、最後の人員輸送のためにドグミス基地へ降着すると、最終の異常の有無を確認した三枝1尉がワンカーに向かい乗り込んだ。
 機上のマイク付きヘッドセットを装着し、機長に「最終確認よし」を流す。
 その時だっだった、同じ機内通信を使って、三枝1尉に話かけてくる隊員がいた。
 それはかつて54連隊時代、喧嘩をしつつ共に第2保塁を陥落させた、かつての部下であり友人の北条2曹であった。

 「隊長、オレは細かいことは解りませんがね、なんだか納得行かねえんですよ。昔のあんただったら、絶対にこの機体には乗らなかったでしょうね」

 北条2曹もまた、あの第2保塁陥落以降、それまでの荒れていた生活を改め、精強な自衛官への道を歩んでいた。
 そして今回の派遣隊員に選抜され三枝と共に、ドグミスに赴任していたのである。
 曲がったことを誰よりも嫌う北条と三枝は、反目しつつも同じ性質の同士として認め合う仲でもあった。
 ・・・初対面の酒の席、二人して大人げなく大乱闘の喧嘩をした、あの懐かしい日々。
 そんな北条の一言が、心の奥にしまい込んだ三枝1尉の正義感に再び火をつけたのである。

 ワンカー最終機は、ゆっくりと艦艇の上空を旋回した後、しなの艦上へ着艦した。
 そして三枝1尉は着艦報告を艦長へするより前に、警備中隊全員を飛行甲板上へ集めさせた。
 三枝は、全員を前にして、今自分が考えている事を打ち明けた。
 そして三枝1尉の話を聞いているうちに、警備中隊の隊員の表情は躍動感に満ち、冴えたものとなっていった。
 その内容は、警備中隊が独立中隊としてカンザニア守備隊とドグミス暫定軍と合流し、条約軍に対し徹底抗戦するために、カンザニア諸島への再上陸を決行するというものであった。

 「これは強制ではない。みんなで話し合い、陸曹以下は意見をまとめて先任曹長を通じ中隊長へ報告せよ。私は一人であっても、ドグミスへ向かう。」

 中隊長は自室に入り、しばしの時を過ごすつもりであった。
 それは、この内容が極めて危険なことであり、そして恐らくは多くが生きて帰れない戦いとなることを彼らが理解していると考えたからである。
 さすがの精鋭たちであっても、親兄弟が反逆の汚名を受けることには抵抗があるはずである。
 しかし、それは予想に反し早々に運用訓練幹部、各小隊長の幹部意見は、中隊長に「賛同」と返答され、間もなく陸曹以下の隊員も、総意として賛同が返答された。
 それは甲板上において、各小隊ごと美しい隊列をもって報告されたのである。

 「この作戦は、国連軍に対する明確な離反行為である。陸上自衛隊からも、国民からも非難されるだろう。生きて帰れる確率は低い。本当にいいのか」

 北条2曹が笑って答える。

「今更、なに言ってるんですか、ここは精鋭警備中隊ですよ」

 一般部隊であれば、当然反対するものも多かっただろう、しかし、日本中から選抜された若手陸曹を中心としたこの中隊の士気は、組織の予想を遙かに上回るほどの高さであった。
 それは皮肉にも、三枝中隊長のカリスマ性も、中隊の団結に大きく影響していたのである。
 そんな時、防衛大学校同期で、海上自衛官として、この戦闘艦「しなの」の水雷長をしていた女性自衛官、清水伊織1等海尉が三枝1尉に声をかけた。
この「しなの」は、空母のような全通甲板を有しているが、航空機が運用出来る他、護衛艦としての戦闘能力を有したマルチ艦艇である。
建造は古く、第三次世界大戦を戦い抜き、危機的戦況から何度も帰還した縁起の良い艦艇として知名度が高く、海上自衛隊員はもとより、日本国民からも絶大な人気を得ていた。

 「三枝、どうした、艦長が着艦報告を待ちわびているぞ、しっかり者のお前らしくないじゃないか」

 まるで男友達とでも話すような口振りは、凛とした立ち姿と、妖美な顔立ちとのギャップを誰もが感じるものであった。
 張りつめた警備中隊の雰囲気が、一瞬その妖しげな美しさに思わず引きつけられるほどに。

 二人は防衛大学校時代からの悪友の一人で、時に競い合い、共に悪さをした仲でもあった。
 そんな二人の間柄であったから、この話は成立したのだろう。
 三枝1尉は、思い切って今回の事情を清水に話すと、彼女は仕方がないという素振りをみせながらも、手際よく艦長への根回し、艦載機の手配に手を貸してくれた。

 清水は三枝の必死な顔に、昔から弱かった。

 本来であれば、ひっぱたいてでも止めるべきなことはわかっていた、しかし、三枝の真っ直ぐな情熱は、学生時代と何ら変わることなく存在し続けていることが、清水には嬉しく感じられたのである。

 名家出身の彼女は、「親」や「家」というものに反抗して、完全寄宿舎制の学校という理由で防衛大学校を受験した。
 元々この学校に多くを期待していたわけではなかったが、入学以降、同期の中で一際目立つ三枝啓一の抜群の成績と、剣道部での活躍、溢れんばかりの正義感、そして屈託のない笑顔。
 防衛大学校での生活は、冷めていた彼女の心に、三枝と同じ強い正義感と愛国心を植え付けていったのである。
 その4年間の学生生活で最大の収穫は、三枝啓一との出会いであると言えた。
 その男が再び自分の前にいる、悪友として共に過ごした輝かしい日々の記憶とともに。
 それでも長い付き合いのなかで、まったく女性として見られていないことも、今日のこの再開と、この男の真っ直ぐな情熱に、熱波すら感じながら、なぜか許せてしまうのである。
 30歳手前の女盛りを、海上自衛隊の制服の中に無理やり押し込め、それでも漏れ出す彼女の想いと魅力を、この男に悟られぬよう、洋上に浮かぶ輸送艦「いすみ」に視線を反らすことで、必死で消そうとするのであった。
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