決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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小原台の1期生

第11話 国防総省 国防大学校

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 桜の季節が訪れていた。

 国防大学校のある横須賀には、3方向を海に囲まれ、その強風が一つの名物でもあった。
 そして国防大学校では本日、真新しい濃紺の詰め襟制服に身を包んだ800名の新入生が、横須賀の風に煽られながら入学式の開始を待ちわびていた。
 寄宿舎は4年生から1年生が合同で構成する大隊編成で、旧防衛大学校時代から何ら変わることは無かった。

「入学式開始まで少々時間がある。各員は準備を実施しつつ休憩に入れ」

 大隊付が、大きな声でそう指示すると、新入学生達はほっと一息つくのである。
 
 そんな群衆の中に、三枝龍二と如月優もいた。
 二人はそれぞれ合格し、晴れてこの4月より国防大学校第1期生として新たな一歩を踏み出したのである。

「三枝君、ボク、勢いで君と同じ学校に来てしまったけど、大隊も別々だし、なんだか不安だよ」

 元々、どう見ても軍人向きではないタイプではあるが、龍二はいざとなった時、意外と頼りになる人物であることも良く知っていた。
 あの新国立競技場での試合でも、龍二のキックオフに、最初に反応してコートへ駆けだしたのも優であった。
 そんな回想をしていた時、まさにその回想から飛び出してきたような聞き慣れた声に二人は驚いて反応した

「よっ、こんなところにまで二人でとは、お前ら、本当に仲がいいんだな」

 振り向くと、頭髪は短くスポーツ刈にしているが、日焼けした顔に真っ白な歯が印象的なこの男の顔を、二人は忘れようも無かった

「佳一の城島君?」

 優が驚きを隠せず大きな声で名前を呼ぶ。
 この時3人の頭髪が短く刈られていたためあまり気が付かなかったが、あの新国立競技場での激闘の当事者達が顔を会わせて居ることに周囲も気がつき始めていた。

「おい、ってことは佳一の城島の隣にいる背の大きな無愛想なのが、北勢の三枝か?」

 周囲が少し騒がしくなった。
 それは無理も無かった。
 あの日のテレビやネット中継は、日本中の男子高校生に大きな影響を与えた事件であったからである。
 自分も誰かのために命をかけた仕事に就きたい、そんな思いは、この年の国防大学校の倍率を過去最大のものに引き上げた。
 そんな高いハードルを乗り越えて来たエリート集団、それが国防大学校第1期生なのである。
 そのためここに集まった若者達はこの3人に見覚えが無いわけがないのである。
 そしてその中からさらに声をかけてくるものが何人かいた。

「城島だけじゃねえぞ、こっちも勢ぞろいだ」

 見れば同じ詰め襟の制服だったので、着校してから今まで気が付かなかったが、あの日の佳一高校イレブンの半数以上が、この場に居合わせたのである。

「雷条君まで、すごい、なんだか同窓会みたいだね」

 優がそう言うと、更に周囲がざわめいた。龍二が少し口元を緩ませるとこう言った

「同窓会なら、いっそ盛大にな」

 龍二の後ろには、北勢高校の旧イレブンも数名含まれていた。
 涙を流しながらボールを共に追いかけたかつてのライバルたちは、こうして国防大学校という共通の学び舎で再開を果たしたのである。

「しかし、おまえ達が国防大学校に入れるレベルだったとは、正直意外だな」

 三枝は自身が何でも出来てしまうためか、この種の言葉をなんら躊躇無く発言してしまうのである。
 しかし実際、この大学校の学力レベルはかなり高く、また学科試験のほか、身体検査や面接なども一般大学に比して厳しい選考基準が設けられていた。

「おいおい、言ってくれるね、これでも僕ら出来るほうですから!」

 城島がオドケながらそう言うと、雷条が間髪入れずに言葉を差し込んだ

「そりゃどう見ても勉強出来るようには見えねえだろう!ここの大学、一般入試意外にも特別選抜枠があるからよう、みんなで試しに受験してみたってわけ」

 国防大学校、それは防衛大学校時代から少々特殊な選抜入試方式を採用していた。
 体育系の部活で受験勉強が間に合っていない学生に、大学校で24時間生活させ、そのリーダーとしての資質、チームワークなどを徹底的に試験することで、将来の国軍リーダーに相応しい人物を選定するというコンセプトである。

「しかしあの制度の枠は、とても募集人員が少なかったと記憶しているが」

 龍二の指摘は正しい。
 いくらスポーツ万能であっても、学業が満たされていなければ本来相応しいとは言えない。
 しかし、一般の大学と異なり、国防大学校は、文部省の大学ではなく、防衛省の大学校である。
 ここを卒業した者は、確実に将来軍の将校となり、指揮官となってゆく。
 学業の成績のみでは計れない、指揮官としての資質が必要となることから、この制度は取り入れられ、現在まで継続されている。
 しかしそれは決して多い人数ではない。
 そんな狭き門に佳一のメンバーは挙って挑んできたのである。

 そこはさながら国立競技場の同窓会であった。
 もちろんその事態を周囲の学生が気づかぬ訳もなく、彼らを中心に動揺の輪が広がっていった。
 そんな中、少し小さめの学生が龍二に向かって指を刺した。

「おい、お前、有名人のようだが、この騒ぎをどうしてくれるんだ。話題の中心は貴様だろ」

 単なる言いがかりのようにも感じた。
 この時、龍二はこの小さな学生が、どことなく誰かに似ていると感じていた。
 しかし、今はこの学生の言うとおり、この状況を何とかしなければ先輩や大隊付に何を言われるか解らない。

「おいみんな、この少年の言うとおりだ、とりあえずこの場は一端各場へ戻ろう。城島、雷条、また改めてそっちの大隊へ挨拶にいく。何大隊だ。」

「お前、本当に人間に興味が無いんだな、お前と同じ3大隊だって。」

 城島は偶然にも同じ大隊であった。
 この時、龍二は少し嬉しいという感情があることに気付いた。
 あまり友人というものを欲したことは無かったが、この時は本当に旧知の友人達と再開したような錯覚を覚えた。
 そしてその傍らでは、二人の小さな学生が龍二に何か言いたげな顔をして、話すタイミングを伺っているようだった。

「どうした如月、小動物のようにワナワナと震えて」

「城島君はいいなあ、三枝君と同じ大隊で。」

 微笑ましい光景に思えた。
 自分と同じ大隊所属が、そんなに羨ましいものかとも感じたし、ありがたいとも感じた。
 しかしそんな微笑ましい状況ではないのが、もう一人の小さな学生であった。
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