決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

文字の大きさ
53 / 103
少年たちは決起する

第52話 焦げた刀

しおりを挟む
 昭三は、刀の袋からそれを出すと、焦げ目の生々しい日本刀の姿が露わになるのであった。
 それは同時に、陸軍工科学校の生徒一同の目にも触れ、集まった生徒諸君と声とは違うざわめきのようなものが漏れ聞こえてた。
 そして一同は、この動乱の重さをあらためて知ることとなるのである。
 そんな日本刀を挟んだ異様な兄弟の間を、割って入るのは他ならぬ澄であった。

澄「いい加減にしなさいあなたたち。兄弟そろって一体何のつもりですか!私の目の黒い内は二人にそんなことは許しません。あなたたちの、その、命は・・」

 決意表明の二人と、亡き婚約者の愛刀を前に、それまで気丈に振る舞ってきた澄が、たまりかねて泣き崩れてしまった。
 それを見て一番怒りを露わにしたのは、意外にも清水伊織であった。

清水「おい、お前達、澄さんのこの涙の代償は高く付くぞ!言っている意味、解るな!」

 清水は思い出していた。澄と初めて会ったのは、まだ防衛大学校の学生時代、当時の悪友である三枝啓一の家に呼ばれて、数人の友人達と訪問した時のことである。
 清水もまた、初めての三枝家に興味津々であった。
 この頃の清水は、荒々しい態度で、啓一に自分の中にある「女」を悟られぬよう振る舞っていた頃である。
 自分に対し、啓一に対し、男女のそれを意識してしまえば、今のこの友人関係が崩れてしまうのではないか、という思いが働いていたのである。
 しかし、この日ばかりは、この彼女の行動が裏目に出てしまう。
 同期達がコーヒーを飲みながら三枝家の応接間で談笑していると、驚くほどの美少女が小鳥のように部屋に舞い込んできた。
 もちろん舞い込んできたわけではないのだが、一同にはそう見えた、濃紺のセーラー服姿には、それだけ衝撃的に鮮やかな色彩として美しく感じられた。
 その後から、啓一がやはり制服姿で防大生の同期達に照れくさそうに、彼女が自分の許嫁であることを告げると、同期達一同は歓声を挙げ質問を開始した。
 何時挙式なのか?、いつから付き合っているのか?、要するに今、どんな関係か?・・・聞けば聞くほど二人は良くお似合いで、他人の入る隙間がない。
 美男美女、武家の旧家の出身同士、望まれた結婚。
 清水は、圧倒的なものを見せつけられた気がした。
 それまで全く浮いた話の無い男だっただけに、清水もすっかり油断していたことに気付くのである。
 しかし、清水は元々負けん気も強く、この感情を誰にも知られたくないという感情から、澄に積極的に話しかけ、意外にも短時間で親しい仲になってゆくのである。
 実は、清水の家も武家である。
 そんな古風な澄に、自らの境遇を重ねているうちに、澄のことを何となく妹のようにすら感じていた、啓一の件がなければ、本当に仲の良い姉妹になれたことだろう、しかしそれは卒業の日まで清水の心にトゲのように刺さり続けたのである。
 そんな彼の日のことを思い出しつつ、清水は澄の肩を引き寄せて懸命に宥めようとしていた。
 そう、同じく啓一を失った者でもある澄は、清水にとって同士のような存在でもあったのである。
 そんな澄の涙に、龍二の心も痛むものの、今自分の考えを実行していくには仕方のないことでもあった。
 ずっと慕ってきた姉の涙を犠牲にしてまでやらねばならない事、そんなことを考えている最中、先程のヘリコプターが訓練場の中央に降着すると、威嚇する生徒達を全くものともしない一人の男が、堂々とその場に降り立った。

「随分にぎやかなようだな、私も混ぜてはくれないか?」

 龍二は、やはりこの人物であったかと思いつつ歓迎した。

龍二「お陰様で、にぎやかにやらせて頂いております、師団長閣下」

 薄笑いを浮かべた龍二の顔を見ていた多くの生徒達は、その言葉の意味を理解するや、一斉にその男の方へ視線を注いだ。 そう、東京第1師団長、上条正太郎陸軍中将が東京の師団司令部から横須賀に到着したのである。

上条「さて、ここまで話を大きくしたからには、責任者の処分については覚悟出来ているな、首謀者は前に出ろ。」

 それは一人の父親としてだけではなく、実働部隊を動かした不届き者に対する怒りも大きく、ゆっくりした口調でありながら、その怒りの矛先は明らかに愛娘をたぶらかした少年へ向けられるのであった。

昭三「はい、私が首謀者の三枝昭三です。」

上条「そうか、貴様か、私が今、何を考え、どうしたいのかは見当がついているものと思うが。」

 そこへ龍二が上条中将に割って入る。

龍二「閣下、たった今、私から当家の宝刀を昭三に預けたところです。本事案について、弟には軍人らしくけじめを着けさせます。ただ、これ以降の彼の行動によっては、処遇をご検討いただけませんか?」

上条「ほう、処遇について意見出来る状況だと考えるのかね、三枝中尉、噂は聞いているが・・・まあ、話を聞こうじゃないか。」

龍二「恐れ入ります、それでは進言します。このまま実働部隊と対峙した状態では軍務に影響が出るでしょう、しかし今更、兵を引けと言われても生徒諸君も、そして世間も納得はしないでしょう。これより1ヶ月の後、彼らの全力をもって北富士第三堡塁に対し総攻撃を命じます。この一ヶ月の訓練の末、彼らが見事この堡塁を陥落させられれば、どうかこの騒動に終止符を打たせていただきたいと考えております。」

 北富士第3堡塁、それはかつて一度たりと陥落の汚名にまみれることなく存在し続ける絶対の要塞、そしてかの三枝啓一1尉ですら完全攻略が叶わなかった難攻不落の拠点である。
 周囲の人間には、それが「不可能」と同義であることは容易に理解出来る内容であった。

上条「達成可能な目標とは言い難いが。しかしそれではこちら側には何らメリットが感じられないが。万が一、それでお咎め無しではな。で、そちらが負けた場合のペナルティーは?」

龍二「・・・ここにあります当家の刀の意味をご理解頂ければと思います。」

 武家の人間が、伝家の宝刀を預かり責任を果たす、それは即ち「自害」を意味する。
 それはその場に居合わせた人間であれば、直ぐに理解容易なことであった。

 陸上自衛隊が存在していた頃、日本が世界大戦に巻き込まれ、主陣地の防御が死守出来なかった場合など、当時の自衛官は持参の短刀により、任務上の責任を取る場面が散見された。
 当時の陸上総隊からは、自害は絶対にしてはならないとの通達が徹底されたものの、陸軍に替わった現時点においても、軍人が取るべき責任、その手法として、彼らの中に存在し続けていたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【シスコン】シスターコントロール ~兄のダンジョン探索を動画サイトで配信して妹はバズりたい!~【探索配信】

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 西暦202x年、日本を襲った未曾有の大災害『日本列島地殻変動』により日本での生活環境は一変してしまった。日本中にダンジョンと呼ばれる地下洞窟が口を開き、周辺からは毒ガスが噴出すると言った有様だ。  異変から約一年、毒ガスの影響なのか定かではないが、新生児の中に毒ガスに適応できる肺機能を持った者たちが現れ始めていた。さらにその中の数%には優れた身体能力や頭脳を持つ者や、それだけでなく従来とは異なった超能力と言える特殊な異能力を持つ者もいた。  さらに八十年ほどが過ぎて二十二世紀に入ったころには人々の生活は落ち着き、ダンジョンを初めとする悪辣な環境が当たり前となっていた。そんなすさんだ世の中、人々の娯楽で一番人気なのはダンジョンを探索する限られた者たちの様子をリアルタイムで鑑賞することだった。  この物語は、ダンジョン探索に情熱を燃やす綾瀬六雨(あやせ りくう)と、その様子を配信してバズりたい綾瀬紗由(あやせ さゆ)という、どこにでもいるごく普通の兄妹が身近な人たちと協力し楽しく冒険するお話です。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...