決戦の夜が明ける

独立国家の作り方

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「雁の穴」降下作戦

第62話 師団奇襲攻撃

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 そして早速事態が動き出す。
 第1堡塁方向から突然要塞砲が激しく発射されたのである。
 敵は、龍二達攻略部隊が作戦を開始した直後の、まだ部隊が一カ所に固まっているこの時期に、できるだけ多くの損耗を強いる作戦であった。

「戦車、装甲車発進!急げ!車列は関係ない、出られる車両を優先してまずはこの場を離れるんだ」

 各車両の車長は大声で叫びながら、急速発進を試みる。
 操縦手は、ギアを低速にしつつアクセルを躊躇なく一番下まで踏み込んだ。
 装甲車両の超電磁モーターは最大出力で車輪を回し、巨大な車輪は少し空回りをしながら無駄に土煙を巻き上げ、一斉に予定の位置へ突進を始めた。
 戦いの火蓋は切って落とされたのである。



 
「C-1地区に敵、味方の所在なし、当初予想したほどの被害では無かったね」

 メインモニターを見つめる生徒会参謀の横で、テキストデータで送信されてくる損耗情報を分析する如月優が龍二に報告する。
 先ほどの第一堡塁からの奇襲攻撃は、とっさの判断により大損害は抑えたものの、装甲車両が軽微な損耗を受けていた。
 これにより、一部の車両は損耗センサーによる自動速度制限がかけられ、部隊全体の進撃速度を抑える結果となってしまった。
 そして出鼻を挫かれた形となった生徒会参謀達は、戦闘が一時的に収束すると、ようやく一息つけるようになったものの、それはそのままため息へと変わっていった。

城島「、、、おいおい、さすがに開始直後の奇襲なんてマナー違反だろ。」

龍二「まあ、それだけ形振りかまわずやってくるってことは、敵も我々を高く評価しているということだろう。安心しろ、多少損耗も出たが、逆にこれは好都合だ。」

 生徒会一同は正直、龍二が負けず嫌いな一面を覗かせただけだと思っていた。
 しかし当の本人は全くそのような気持ちは無く、むしろ本当に敵の奇襲攻撃を歓迎しているようにすら見て取れた。

龍二「これからの作戦を説明する、通信手以外は作戦図の前に集まってくれ」

 龍二は静かに作戦の概要を語り始めた。そしてその作戦を聞くにつれて、生徒会参謀達の表情は再び精気に満ちてくるのである。
 この時、生徒会参謀一同は、つくづく龍二というカリスマと行動を共にしていることを誇りに思えた。
 そして「天才」の存在をあらためて痛感するのである。

城島「、、、ってことは、さっきの編成完結式の、ゆっくりとした流れは、まさかこの作戦のための、、、。」

 龍二は珍しく、少しニヤリとしながら、うなずいた。
 そう、作戦は既にあの式典の時には始まっていたのである。
 そんなこととは知らず、敵側、第一師団指揮所は、初戦の奇襲作戦を成功と見積もり、幸先の良い戦いに、早くも盛り上がりつつあった。

「しかし、作戦参謀、学生相手に少々大人げないのではありませんか?」

 情報参謀である第2部長が作戦参謀である第3部長に笑顔で話しかけた。

3部長「いやいや、たとえ学生とはいえ武器を手にし、挑んでくる以上、全力でやらねば失礼にあたる。ましてやあの三枝中尉は、三枝啓一1尉の弟だからね。油断すればこちらが寝首を切られ兼ねんよ。」

 作戦参謀の言うとおり、油断は大敵であった、が、この時点で本当の意味での油断が何であるかを理解している者は司令部には皆無であった。
 錯雑した地形を一気に走破した各装甲車は、一端散会した後、地形の低い場所に停まり待機していた。

麻里「ああん、もうオシリが痛い!これじゃあ荷物を持って歩いていた訓練の方がマシじゃない。」

 麻里がそう言うのも無理はない、正直ほとんどの学生側はいきなり乗車して、訳も解らず走り出した装甲車の中で、数十分の間、ひたすら激しくシェイクされ続けたのである。
 短い訓練期間の中で、乗車突撃訓練をしている余裕はなく、事実上いきなりの実戦参加に等しい状態であった。
 それまではなんとなく佳奈を助けたい、ロマンティックな恋いの成就を願う多数派の中で、辛い訓練も激しい祭りのような高揚感で過ごせていたが、実弾こそ飛び交わないものの、生々しい戦場の空気を肺の奥まで吸わされた不快感と不安感は同時に押し寄せていた。
 そして停車した車内に広がる極端な静寂と、情報の入って来ない僅かな時間が、それら不安を助長させるものとなっていた。

 「やっぱり私たち、とんでもないとこ来ちゃったんじゃないかなあ」

 静香も怯えながらそう言うと、女子学生で唯一東海林涼子だけは毅然とこう答えた。

「三枝様なら大丈夫ですわ。この状況ですら作戦の可能性が高いと思っています。」

 引率の三枝澄も同じ考えであった。
 龍二は昔から多くは語らないものの、必ず突破口を幾つか持っている、そんな男の子だった。
 かつて兄 啓一が感じていた、彼の剣筋には何かある、という理由の一つがそのようなところから来ているのであろう。
 そんな時、無線機を通じ、次の集合ポイントへ集結する時期が示されたのである。

「ほらね、大丈夫でしょ!」

 不安な表情を見せる女子生徒達を励ますように、三枝澄は笑顔とともに彼女らを元気づけた。
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