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第四章:愛

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 食後、弟はバイクで、俺は車で帰宅した。
 猫田さんにご飯をあげ、「遅くなってごめんね」と頭を撫でていると、弟が百合の花を眺めながら「貰ってきたのか」と聞いてきた。

「そうだよ。華頂さんが作ったものだね」
「家に飾るには大きすぎる気がするけど……」
「仕方ないだろ。元々チャペルの壁に飾ってあったんだから」

 それでも、弟は興味深そうにそれを覗きこみ、どうやって作っているんだろうとひっくり返して観察する。興味があるのか。

「へぇ、あぁ、そういうこと? へぇ、面白いな」

 弟は作り方を理解したのか、一人で納得している。

「そういうの、興味あるのか?」
「え、なんで? こういうのいつもは裏側なんか見れないじゃん。気になったりしないの?」
「あんまり」

 首を傾げる俺に、弟は「兄ちゃんはいつも表ばっかりだよな」と笑った。
 どういう意味だろうか。

「俺が物事を真正面からしか見てないように言うなよ」
「いやいや、真正面からしか見てないって」
「失礼なやつだな」

 むっとして顔を顰めるが、弟は無邪気に笑って俺の肩を叩いた。

「兄ちゃんは視野が広いよ、パノラマみたいに。頭もいいしね。でもひっくり返したり、逆さにしたり、隠れてるものを探すのは苦手だと思うんだよなぁ」

 言われて、思い当たる節が無いこともないから、言い返せない。昔から、間違い探しよりクロスワード派だし、かくれんぼより鬼ごっご派だ。走ることが何よりも好きだった。

 隠れてるもの……か。

 弟は先に風呂に入って良いかと俺に尋ねながら、着ている服を早くも脱ぎ始める。
 それに返事をせず、俺は口を開いた。

「明日、華頂さんに会いに行く」
「え?」

 驚いたようにこちらを見た弟に続ける。

「紅夜が本気で花のことを勉強したいなら、口利き、してやってもいいぞ」
「え……」

 目を丸めて俺を見た弟は、しばらく後で困ったように眉を下げて笑った。

「ありがとう。優しいね、兄ちゃんは。でも、大丈夫だよ。正直、自分が何したいのか、何が向いてるのかってまだ分かってなくて。まぁ、華頂さんはいい人だなとは思ってるよ。あぁいう人の元で仕事出来たら楽しいだろうなって。けど、だからこそ、もし本気で華頂さんのところで仕事がしたいと思ったら、その時は、ありのままちゃんと当たってみるよ。砕けようともね」

 そう言って笑った弟は、「でもまぁ、俺は無難に公務員狙いだけどな」と脱いだ服を丸めて俺にはにかんだ。

「じゃ、風呂先貰うね」
「うん」

 ありのまま、当たって砕ける……か。
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