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【転】 過去

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 寺島と再会してから、二週間。

「すみません」

 まるで俺が店に出てくるのを待っていたかのようなタイミングでお客さんに声をかけられた。

「はい、いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 にっこり営業スマイルで返答すると、その女性客は困ったように眉を垂れて、小さな声で尋ねてきた。

「あの……寺島くんの……お友達さん、ですよね?」

 まさかの質問に驚いた。
 よくよく見ればこの女性客。この前寺島と一緒にケーキを買いに来てくれていた人だった。

「あ……。ぁ、いや、友達……というか」

 決して友達ではないと心の中で否定し、こちらも困って首を傾げる。だが、彼女はお構い無しに言葉を続けた。

「寺島くんってよくこの店来るんですよね? あの! 寺島くんが他の女の人連れて、ここに来たことありますか!?」

 何の話だ!!
 修羅場なのか!? 女性問題勃発か!? おい! 俺を巻き込むな!

 まさかすぎる質問に、俺は大振りに首を振った。

「いや、ごめんなさい。俺、ほとんど厨房で作業してるので、例えば寺島が来店していても……気付けなくて」

 女性は俺の言葉にしょんぼり首を垂れると、「そうですよね……」と死んでしまいそうなくらい落ち込み、そのまま店を出ていってしまった。

 一体二人に何があったのか……。ついこの前までラブラブな雰囲気だったのに。
 ……まさか俺と再会したからじゃないだろうなと物凄く嫌な予感がしたが、それはまさしく的中していた。

 死にそうな女性客が訪れたその日の夜。仕事を終えて店を出ると、そこに寺島がいた。

「おっす~。お疲れ様」

 仕事仲間達は寺島を俺の友達だと勘違いして、「また明日」と散り散りに帰ってゆく。正直こんな夜中に寺島と二人きりになどして欲しくはなく、一緒に帰ってくれよと仕事仲間の背中を追いかけそうになってしまった。

「いっつも終わるのこれくらい?」

 聞かれて首をかしげる。

「まぁ……色々。仕込みの量によるけど」
「そりゃそうか」

 寺島はポリポリ頭をかいて、恥ずかしそうに俺を見た。

「ちょっと……喋らない?」
「……何を?」

 どこで?

 立て続けに質問しそうになる衝動を堪えて、なんとか一つだけに留める。

「何をって……、いやまぁ、何でもいいんだけど」
「だったら先に言わせてもらっていい?」
「なに?」

 ぱっと顔を上げ、俺からの話題振りに何処か嬉しそうな顔をする。けど、悪いが楽しい話題ではない。

「今日この前の彼女が訪ねてきたよ。"寺島くんに他の女は居ますか" って」

 俺の言葉に寺島は眉を顰め、あからさまにため息をつくと、ガックリと項垂れた。

「……めんどくせぇ」
「面倒くさいのはこっちだよ。ホントいい迷惑。浮気か何か知らないけど、巻き込まないでくれる?」
「違うって! 浮気も何も……っ、俺あの子と付き合ってないし!」

 必死に否定されたけど、こうなるともう付き合ってるとか付き合ってないとかの問題じゃない。

「だったらあの時否定しなよ! 思わせぶりな態度とったから彼女も期待したんだろ!?」
「しっ、仕方ないだろ! あの時はあの時で、いいかなって思ってたんだよ!」
「二週間で何が変わるんだよ! その時点でもう浮気性確定じゃん!」

「浮気性じゃないし!」

 一際大きな声で否定され、通りの人達が不思議そうにこちらを見た。
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