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【結】 俺たちの答え

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 閉店作業と明日の仕込みを終え、俺はスタッフを全員店から見送った。裏口の扉が開く度、そこに寺島がいるんじゃないかとビクビクした。

 あいつは諦めの悪い男だから、俺の気持ちなんか考えず何日でも何時間でも俺を待つ。
その根気の良さに俺は絆されて、あいつと付き合い始めたんだ。

 誰も居なくなった店、厨房。
 俺は必要最低限の明かりを消し、事務所に上がった。

 四畳半あるかないかの小さな和室。押し入れには一式の布団セット。枕は二つある。もう少し店が軌道に乗れば、テレビも置きたいと考えているが、流石にまだそこまで手が出せない。部屋の隅には備え付けのテーブルカウンターがあり、ノートパソコンとプリンターを置いている。壁には棚を作ってもらい、諸々の書類をそこに仕舞いこんでいる。
 俺は壁に立てかけていたちゃぶ台を直し、そこに寺島からの弁当を置いた。

 懐かしい茶色と白のボーダー巾着。毎日、この弁当箱を開けるのが楽しみだった。宝箱みたいなこの弁当。寺島の愛だけでこの弁当は幕ノ内にまで昇格してしまう。それくらい特別で、それくらい美味い弁当だった。

 見慣れた巾着を開いて中の弁当箱を取り出す。けど取り出したそれは、使い捨ての簡易弁当箱。まるで急遽作りましたといった風だ。
 俺が元々使っていた弁当箱は、寺島が部屋を出てからもちゃんと家にあった。唯一なくなっていたのは、この巾着だけだったから。

「なんで巾着……」

 どうしてこれだけ持ち出したのだろうか。
 もしかして……なんて、期待してしまう。俺のこと好きかどうか分からなくなったなんて言いながら、あの時……まだ……って。

 でもそんな淡い期待に俺は慌てて首を振った。

「違う、きっと洗濯物の山の中から、間違って詰め込んだんだろう、よく確認もせずに」

 そうに違いない。じゃなきゃ弁当箱も一緒になくなるはずだから。

『蘭ちゃん! 今日、携帯と間違えてクーラーのリモコン持ってっちゃった』

 そんな馬鹿なエピソードを思い出して、思わずふっと笑ってしまう。
 見た目はモデルかよってくらいかっこいいのに、ちょっと馬鹿なんだよ。人当たりが良くてかっこいいくせに同性に敵も少なくて、仕事もデキる。本当にスーパーマンみたいな男だった。
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