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おまけ

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 寺島の結婚に焦りを感じた俺だったけど、ものの数時間でそれは払拭された。
 嵐は魔法使いみたいに俺を安心させてくれる。こんなに穏やかで優しい恋愛、俺はもう嵐しか無理だ。捨てられたらそれこそ本当に寂しくて死ぬかもしれない。


「結婚おめでとう」

 寺島の結婚式に嵐と二人で出席した。寺島は嬉しそうに笑い、少し離れた場所で友人達と話す花嫁を振り返った。

「これからは、あいつと子供を守ってくよ」

 それはやけに意味深で、心の奥が少しだけ痛んだ。けどそれすらも嵐が取り除いてくれる。

「は~、良かった。ようやく寺島さんから監視されなくなるよ」

 せいせいした声。

「あ、だめだ。やっぱ無理。蘭ちゃん! なんかあったらすぐ連絡して! 俺やっぱりどうしても無理! こいつ無理!」

 やっぱり、無理らしかった。

「あんた! 往生際が悪いにも程があるだろ!」
「だってやっぱ無理だもん!」
「諦めろよ、半ストーカーめ!」
「無理無理無理! そういうこと言っちゃうお前が無理! 蘭ちゃ~ん! 俺不安だよぉ!」

 どうやら住む場所は離れていても、まだまだ賑やかな日常は続きそうだ。


「悪いがどっちも知らん」


 俺は二人に踵を返して自分の席へと歩きだす。

 走り抜ける日々。流れゆく景色は変わっていき、見つめる景色もそれぞれ少しずつ変わっていくのだろう。それでも俺達はきっとずっと足並み揃えて同じ方向へ走っていく。


「えぇ、蘭ちゃ~ん!」
「ちょ待てって、蘭真!」


 これが俺たち三人の幸せの形──。





☆おしまい☆
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