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三時間目:泣きべそ雨空
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「昨日も……たくさん映画を観させてもらったんです。三本くらい見たかな」
『映画館で?』
「まさか。家でだけど……」
『大人の映画仲間なんて、井川くんはすごいな! この前だって怖そうなお兄さんと喋ってたし!』
のぶさんのことだろう。
「ふふ……。すごくなんかないですよ。僕……子供だし」
言ったけど、まーくん先輩が間髪入れずに言ってくれる。
『何言ってるんだよ! むしろ今は子供の無邪気さを武器に映画をたくさん見させてもらった方が得じゃないか! この微妙な年齢だからこそ、有効的な“子供”の使い方ってのがあるもんさ』
なるほど。思っているより、結構あざといんだな、まーくん先輩って。そう思った僕と、あっちゃん先輩の意見はほぼ同じだった。
『まーくん、そんなセコイこと考えながら生きてんの? ウケるんだけど!』
『えぇ? 皆そんなもんじゃないの? 俺は出来る限り親の脛齧って生きていくつもりだよ?』
三人で大笑いだ。
元気が出る。悲しい気持ちだったけど、二人と話していたら、前向けそうだ。
『ねぇ、明日はみんな何してるの?』
あっちゃん先輩が聞いてくる。
『俺は予定なし。天気も悪そうだしね』
まーくん先輩が頬杖を突きながら答えた。
「僕は、6時からバイト入ってる」
『夕方?』
「そうです」
頷くと、あっちゃん先輩は今朝LINEで話していた中古のエロ映画を画面に映した。
『良かったら、一緒に見ない⁉』
『わぁ、見たい!』
まーくん先輩が嬉しそうな声を上げた。だけど僕は、まーくん先輩のようには喜べなかった。それでも、「行きます」って返事して、集合時間と場所を決めた。
明日はあっちゃん先輩の家か、と思いながら、いつか僕も二人を招待する時が来るのかな、と思った。だけど、その時は夏のボーナスの後になるだろう。さすがに家に来てもらっているのに、ポータブルのDVDプレーヤーでは申し訳ないから。
『この映画さ、エッチシーンもだけど、キスシーンがエロイんだよ! 俺これ見てるだけで、キスしてる感覚になっちゃうもん』
そんなことを言うあっちゃん先輩に、まーくん先輩が「期待大だな~」って笑う。
だけど僕は、見てるだけでキスしてる感覚になる、というその感覚がよく分からなかった。
「……先輩たちは……キスしたことありますか?」
だから、ふとそんなことを聞いてしまった。
聞いたあとで後悔したけど、今更なかったことには出来なかった。二人はカメラ越しに僕を見て、困ったように口元を緩めた。
『まーくんからどうぞ』
そう言ってあっちゃん先輩が逃げると、まーくん先輩は困ったように天井を仰ぎ、
『まぁ……そうだね……、一度だけ』
と返事した。
その返答にあっちゃん先輩が『あぁぁぁっ!』と叫んだ。
『まーくん、キスしたことあるのかよ! いつ? いつ、いつ!? 誰と!? 俺知ってる人!?』
『やめろよ~! 篤郎はどうなんだよ!』
『俺ないよ! 彼女だって出来たことないのに!』
意外だ。まーくん先輩より、あっちゃん先輩の方がモテそうな気がするんだけど、そうでもないのだろうか。そもそも学年が違うから、その辺のモテ事情はさっぱり分からない。
『俺だって、彼女いないよ!』
『でもキスしたんだろ!? いつだよ~!』
『うるさいなぁ! きょ、……去年だよ!』
『まさか、クミ先輩じゃないだろうな!』
『う……、うるさいよ!』
クミ先輩が誰かは僕には分からない。だけど、どうやらビンゴらしい。それを知って、あっちゃん先輩が画面上から消えた。どれだけショックなんだ。相当綺麗な先輩だったのだろうか。
『篤郎! 篤郎~!!』
画面から消えてしまったあっちゃん先輩を必死に呼ぶまーくん先輩が面白い。自然と笑いがこぼれ、本当にこの二人は愉快な人達だな、と実感する。
『映画館で?』
「まさか。家でだけど……」
『大人の映画仲間なんて、井川くんはすごいな! この前だって怖そうなお兄さんと喋ってたし!』
のぶさんのことだろう。
「ふふ……。すごくなんかないですよ。僕……子供だし」
言ったけど、まーくん先輩が間髪入れずに言ってくれる。
『何言ってるんだよ! むしろ今は子供の無邪気さを武器に映画をたくさん見させてもらった方が得じゃないか! この微妙な年齢だからこそ、有効的な“子供”の使い方ってのがあるもんさ』
なるほど。思っているより、結構あざといんだな、まーくん先輩って。そう思った僕と、あっちゃん先輩の意見はほぼ同じだった。
『まーくん、そんなセコイこと考えながら生きてんの? ウケるんだけど!』
『えぇ? 皆そんなもんじゃないの? 俺は出来る限り親の脛齧って生きていくつもりだよ?』
三人で大笑いだ。
元気が出る。悲しい気持ちだったけど、二人と話していたら、前向けそうだ。
『ねぇ、明日はみんな何してるの?』
あっちゃん先輩が聞いてくる。
『俺は予定なし。天気も悪そうだしね』
まーくん先輩が頬杖を突きながら答えた。
「僕は、6時からバイト入ってる」
『夕方?』
「そうです」
頷くと、あっちゃん先輩は今朝LINEで話していた中古のエロ映画を画面に映した。
『良かったら、一緒に見ない⁉』
『わぁ、見たい!』
まーくん先輩が嬉しそうな声を上げた。だけど僕は、まーくん先輩のようには喜べなかった。それでも、「行きます」って返事して、集合時間と場所を決めた。
明日はあっちゃん先輩の家か、と思いながら、いつか僕も二人を招待する時が来るのかな、と思った。だけど、その時は夏のボーナスの後になるだろう。さすがに家に来てもらっているのに、ポータブルのDVDプレーヤーでは申し訳ないから。
『この映画さ、エッチシーンもだけど、キスシーンがエロイんだよ! 俺これ見てるだけで、キスしてる感覚になっちゃうもん』
そんなことを言うあっちゃん先輩に、まーくん先輩が「期待大だな~」って笑う。
だけど僕は、見てるだけでキスしてる感覚になる、というその感覚がよく分からなかった。
「……先輩たちは……キスしたことありますか?」
だから、ふとそんなことを聞いてしまった。
聞いたあとで後悔したけど、今更なかったことには出来なかった。二人はカメラ越しに僕を見て、困ったように口元を緩めた。
『まーくんからどうぞ』
そう言ってあっちゃん先輩が逃げると、まーくん先輩は困ったように天井を仰ぎ、
『まぁ……そうだね……、一度だけ』
と返事した。
その返答にあっちゃん先輩が『あぁぁぁっ!』と叫んだ。
『まーくん、キスしたことあるのかよ! いつ? いつ、いつ!? 誰と!? 俺知ってる人!?』
『やめろよ~! 篤郎はどうなんだよ!』
『俺ないよ! 彼女だって出来たことないのに!』
意外だ。まーくん先輩より、あっちゃん先輩の方がモテそうな気がするんだけど、そうでもないのだろうか。そもそも学年が違うから、その辺のモテ事情はさっぱり分からない。
『俺だって、彼女いないよ!』
『でもキスしたんだろ!? いつだよ~!』
『うるさいなぁ! きょ、……去年だよ!』
『まさか、クミ先輩じゃないだろうな!』
『う……、うるさいよ!』
クミ先輩が誰かは僕には分からない。だけど、どうやらビンゴらしい。それを知って、あっちゃん先輩が画面上から消えた。どれだけショックなんだ。相当綺麗な先輩だったのだろうか。
『篤郎! 篤郎~!!』
画面から消えてしまったあっちゃん先輩を必死に呼ぶまーくん先輩が面白い。自然と笑いがこぼれ、本当にこの二人は愉快な人達だな、と実感する。
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