92 / 105
放課後(バイト編):その靴で歩く先
2
しおりを挟む
事の一部始終を話した。三人とも、大笑いだった。笑い事ではない! だけど、笑ってくれたことが嬉しかった。怒らず、笑ってくれたこと、すごくほっとした。それでも……岡さんと連絡先を交換した事実だけは素直に言えなかった。
帰り、バイト先で夕食になるピザとチキンをピックアップし、もちろん予約していたケーキも購入した。のぶさんたちと別れ、柄沢さんの車に乗り込む。
だけど、今の今まで四人で楽しく喋っていたのに、柄沢さんは車に乗り込むや否や、大きなため息を吐き、「こういうことか」と呟きながらハンドルに頭を預けて項垂れた。
「ど、どうしたの?」
尋ねると彼はゆるゆる首を振り、けど、最終的に白状した。
「嫉妬してんの」
びっくりした。嫉妬なんかしてくれるの!? というか……!
「浮気された経験あるんでしょ?」
ドストレートに聞いてしまった僕に、柄沢さんはガバっと上体を起こすと、ムスっとした顔で僕を睨んだ。
「なんだよ。嫉妬慣れしてるとでも思ってんのか?」
「いや、おも、思ってないけどさ! 実際浮気してる相手との方が嫉妬するでしょ? 僕、何にもしてないよ?」
「バカか、お前! 実際に浮気されたら、嫉妬じゃなくて怒りが勝つ! 今は嫉妬! 無自覚だからこそ嫉妬するんだろ!?」
そういう……もの?
「お前だって、俺が真山ちゃんと出掛けた時、嫉妬したんだろ!? あれ別に浮気じゃねぇし!」
「いや……っ、あれは嫉妬じゃないよ! 嫉妬じゃ……ないでしょ? え、あれ、嫉妬なの?」
「それすら無自覚なわけ? 嘘でも嫉妬だって言っとけ」
乱暴にそう言った彼は、車の後部座席に置いてある自分の上着を手に取るとそれを僕に渡した。
「それ脱げ。こっち着ろ」
僕はシートベルトを外すと、着ていた上着を言われた通り脱いで、柄沢さんのダウンジャケットを羽織った。煙草の匂いがする。
着替えた僕を確認してから車はゆっくりと走り出す。イライラしている柄沢さんを見つめ、僕はシフトレバーを握る彼の手をそっと握った。
「……ごめんね、柄沢さん……。でも僕……、柄沢さんに言われた通り、“困ってる友達を全力で助けてあげよう”って思ったんだ」
これはほんと。あの時、この言葉が……蘇ったんだ。困っている岡さんを、ちゃんと助けてあげなきゃって思った。好きだからじゃない。彼女が友達で、彼女が女の子だからだ。
僕の言葉に柄沢さんはイライラしていた空気をすっと変えると、僕の手を握り返してくれた。
「……そっか」
柄沢さんは納得したように頷くと、ニカっと笑って僕を見た。
「じゃあ、許す。よくやった、梓」
褒めてもらえた。
あの時、本当に怖かったんだよ。工藤君体大きいから、ビビリまくってたんだ、僕。でも負けなかったんだよ。ちゃんと守りきれたんだ。まぁ、守りきれたのか、守ってもらったのかは……分からないけれど。それでも、柄沢さんが優しく笑って、そんな風に褒めてくれるのが、すごくすごく嬉しかった。
「へへ。いつか……、柄沢さんの事も守れるくらいカッコイイ大人になるから」
言うと、柄沢さんは「ハハ!」と声を上げて笑い、「頼もしいね」と言った。
たぶん、絶対無理だと思ってる。正直、本当に無理かもしれないけど、そうなりたいって思うのは自由だから。
「大好きだよ……、柄沢さん」
こてっと彼の肩に頭を預け、よしよしと僕の頭を撫でてくれる手の大きさに、胸がほくほくした。本当に大好きだ。岡さんが霞んでしまうくらい。
帰り、バイト先で夕食になるピザとチキンをピックアップし、もちろん予約していたケーキも購入した。のぶさんたちと別れ、柄沢さんの車に乗り込む。
だけど、今の今まで四人で楽しく喋っていたのに、柄沢さんは車に乗り込むや否や、大きなため息を吐き、「こういうことか」と呟きながらハンドルに頭を預けて項垂れた。
「ど、どうしたの?」
尋ねると彼はゆるゆる首を振り、けど、最終的に白状した。
「嫉妬してんの」
びっくりした。嫉妬なんかしてくれるの!? というか……!
「浮気された経験あるんでしょ?」
ドストレートに聞いてしまった僕に、柄沢さんはガバっと上体を起こすと、ムスっとした顔で僕を睨んだ。
「なんだよ。嫉妬慣れしてるとでも思ってんのか?」
「いや、おも、思ってないけどさ! 実際浮気してる相手との方が嫉妬するでしょ? 僕、何にもしてないよ?」
「バカか、お前! 実際に浮気されたら、嫉妬じゃなくて怒りが勝つ! 今は嫉妬! 無自覚だからこそ嫉妬するんだろ!?」
そういう……もの?
「お前だって、俺が真山ちゃんと出掛けた時、嫉妬したんだろ!? あれ別に浮気じゃねぇし!」
「いや……っ、あれは嫉妬じゃないよ! 嫉妬じゃ……ないでしょ? え、あれ、嫉妬なの?」
「それすら無自覚なわけ? 嘘でも嫉妬だって言っとけ」
乱暴にそう言った彼は、車の後部座席に置いてある自分の上着を手に取るとそれを僕に渡した。
「それ脱げ。こっち着ろ」
僕はシートベルトを外すと、着ていた上着を言われた通り脱いで、柄沢さんのダウンジャケットを羽織った。煙草の匂いがする。
着替えた僕を確認してから車はゆっくりと走り出す。イライラしている柄沢さんを見つめ、僕はシフトレバーを握る彼の手をそっと握った。
「……ごめんね、柄沢さん……。でも僕……、柄沢さんに言われた通り、“困ってる友達を全力で助けてあげよう”って思ったんだ」
これはほんと。あの時、この言葉が……蘇ったんだ。困っている岡さんを、ちゃんと助けてあげなきゃって思った。好きだからじゃない。彼女が友達で、彼女が女の子だからだ。
僕の言葉に柄沢さんはイライラしていた空気をすっと変えると、僕の手を握り返してくれた。
「……そっか」
柄沢さんは納得したように頷くと、ニカっと笑って僕を見た。
「じゃあ、許す。よくやった、梓」
褒めてもらえた。
あの時、本当に怖かったんだよ。工藤君体大きいから、ビビリまくってたんだ、僕。でも負けなかったんだよ。ちゃんと守りきれたんだ。まぁ、守りきれたのか、守ってもらったのかは……分からないけれど。それでも、柄沢さんが優しく笑って、そんな風に褒めてくれるのが、すごくすごく嬉しかった。
「へへ。いつか……、柄沢さんの事も守れるくらいカッコイイ大人になるから」
言うと、柄沢さんは「ハハ!」と声を上げて笑い、「頼もしいね」と言った。
たぶん、絶対無理だと思ってる。正直、本当に無理かもしれないけど、そうなりたいって思うのは自由だから。
「大好きだよ……、柄沢さん」
こてっと彼の肩に頭を預け、よしよしと僕の頭を撫でてくれる手の大きさに、胸がほくほくした。本当に大好きだ。岡さんが霞んでしまうくらい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる